二十四話 一笑
爆発音。
それは、電子制御により敵の情報を的確に認識させる照準器や身体能力強化を行う外骨格型ボディアーマー等の機能に誤作動を起こすEMP発生装置の作動音。
そしてあらゆる場所の窓ガラスが割れる音が続いた。
――敵襲――
老父は驚きはしたものの、状況をすぐに理解し、ジンシーを足元の棚に放り込んだ。
「黙っていなさい!」
静かで強い口調の言葉が刺さる。
老父の眼差しは焦りを持ち、ジンシーが瞬間的に怯える程であった。
直後に兵士が五人、文字通りの土足で現れ、老父に銃を向ける。
防弾チョッキに揃えられた迷彩服。
数十年前から大きく変わることのない軍人の服装は象徴として在り続けていた。
変化があったところと言えばゴーグル内部にモニタがあり、情報が常に表示されているところや、武装に電子制御が施されているところなどだ。
「動くな! 両手を頭の後ろに置いて膝をつけ」
額の数センチ手前まで銃口が近づき、大きな声を浴びせる。
圧が与えられる。
老父は素直に従った。
「こちらオッター……住人を発見」
その小隊の隊長は無線を飛ばし、報告を一つ。
その間に他の兵士が詰め寄る。
「侵入者は何処にいる? 応えろ!」
「侵入者? ……君達のことでいいのかね?」
ジンシーの隠れる棚を背に嘲笑と毒を一つ。
「あまりふざけるなよ」
挑発に乗ってしまった兵士が銃口を眉間に当てる。
「君達はどうしてウチに来たんだい? C2を守るのが目的のはずだよね? それなのにこんなことをするなんて……ふざけているね」
老父は煽ることを止めず言葉を続ける。
その命は銃口を向けられたまま……。
棚の扉の隙間からジンシーは全身の震えを抑えつつその光景を眺めていた。
死が隣にいる。
そんな恐怖の中、老父は一切動じず笑ってみせる。
今すぐにでも飛び出して、老父を救いたい。
そう思うジンシーだったが五人を相手にすることは無理であると確信し、チャンスを窺う。
「いい加減にしろよ? さっさと居場所を教えろ!」
「こちらも時間が無い、多少の覚悟はしてもらおうか」
痺れを切らした兵士がハンドガンを取り出し、老父の脚に狙いを定める。
痛みを以って言葉を引きずり出そう。
「っ!」
息を呑み、引き金の動きに集中する。
その瞬間家の奥から戦闘音が響いた。
「何だ?」
銃声の方向に警戒を移し、呼吸が乱れ始める。
隊が混乱状態に陥った。
「こちらオッター。何があった? ……ダメだ」
隊長は繋がらない無線に苛立ちを隠すことができなくなっている。
「どうする?」
判断が任される中、戸惑い、狼狽する。
「応援に三人だ、急げ!」
前衛の三人は命令を受け、列を作って走り出す。
「クソっ! 奥には誰がいる!」
兵士は老父の胸倉を掴み、怒声を投げる。
別動隊に何かがあったことは確実。数秒前に走り出した部隊もどうなるかわからない。
平静を保つことは既にできず、軍の一員としての規律も統制も一切が消えていた。
「陸奥の部屋があるだけ……ですよ」
「そんなわけがないだろう! 言え!」
「……」
老父が嘲笑を浮かべた刹那――奥から銃声と断末魔が響いた。
「クソったれがぁあああ!」
叫び声と共に発砲。
ジンシーは即座にチョーカーを起動して飛び出した。
僅か五秒の出来事。
瞬きと溜め息が出来る程の時間の中での発砲数は一つ。
痛みに悶える声も一つ。
笑い声も一つ。
屍は二つ。
飛び出したジンシーは呼び起こされた記憶に従って一人を殴り、蹴り、刺し殺す。
もう一人は両の肩を刺した後にうつ伏せに倒した後、首を絞め……殺した。
顔に飛び散った血を拭う。
口の端から血の跡が伸び、笑っているように見える。
その下の笑顔がより強調された。
心の底から笑うジンシーだけがその場に立っていた。
老父と兵士は傷を抱え、倒れていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
いつも笑っていていいね。
笑顔が素敵だね。
どうしてそんなに笑顔なんだい? いいことでもあった?
子供の頃言われた言葉だったでしょうか?
私が言われた言葉だったでしょうか?
そうだ近所の子供が言われていたんだった。
私はそんな言葉を言われたことなんてなかった。
素敵な笑顔をしてみたい。
上辺だけでも。
老父の家で行われた戦闘は、正しくなっていたでしょう。
そこに意味があって、思惑があって、笑顔があって。
おやおや、君に良いものを見せてあげよう。
とっておきだよ。誰にも内緒さ。
……。
ジンシー。
あの時の隣人を覚えているかい?
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




