二十話 邂逅
四月二十一日
青森県弘前市
ヒェトラ達三人は夕刻に差し掛かったのを見計らって集落への侵入を開始した。
二つの川に挟まれた土地。
小さな神社を中心に拓かれた土地。
集落へ続く道路は定期的に舗装されていたが、数十年前から放置され所々に剥がれが見られる。
三人は警戒しつつ橋を渡る。
集落まであと数百メートル。
警戒を密にし、集落侵入からの流れを確認する。
ここで背後から牛車が近づいてきた。
藁をシートで覆い、ゆっくりと集落へ向かっていた。
二頭の牛に牽かれる車には老父がひとり。
「おや? どうしたんだいお嬢ちゃんたち」
田舎道に少女が三人。
不思議に思った老父は優しく声をかける。
不思議に思わない方が不思議である。
「あのね、迷っちゃって」
潜入作戦の予定にないパターンであったがジンシーは柔軟に対応し、老父をキッカケにしようと行動を変更した。
「そうか……もう日も暮れるだろうしうちに来たらどうだい?」
迷う。
この時代にそんなことがあり得るだろうか?
そんなことをヒェトラは考えたが、老父は笑顔を返し、誘いを一つ。
「いいんですか?」
驚いたヒェトラは目を見開いて疑問に疑問を返してしまう。
「あぁ、勿論だよ。四月とは言え、これからもっと冷える。外で過ごすのは難しいからね」
「そうですね、お願いします」
歓待の雰囲気を感じ取ったジンシーは笑顔を咲かせる。
老父はその笑顔に瞬間、顔を顰め、平静を装った。
「じゃあ乗るといい。もう歩き疲れたろう?」
「わーい、ホラふたりとも」
「あぁ」
牽かれた荷台に乗り込んだ三人は近接戦闘用の武装を確認し、ゆっくりと腰掛けた。
ゆっくり、ゆっくりと進む牛車は道路の凹凸に合わせ揺れる。
サスペンションなんて大層なものは無い、ゴムタイヤが付いているだけまだマシな揺れがお尻に直接伝わる。
「ところでどうしてこんな所に?」
「実はね、家を追い出されちゃって」
「家を? ……そっか。それは大変だったね」
訝しげに眉間に皺を寄せた老父。
「おじさんはどこから来たんですか?」
「この先の陸奥だよ。C2システムと共に生きる場所さ…………さぁ、もう着く――」
陸奥まで残り僅かとなり、カーブを曲がれば入り口が見える。
プーが端末を操作し、偽装を始めようとした刹那。
「――軍がいるよ。隠れなさい」
老父の鋭い声が三人に刺さる。
「「っ!」」
ヒェトラとジンシーは即座にプーを引っ張り、シートの中へ。
青いシートに包まれ息を潜める。
ガタガタと揺れる音とただならぬ雰囲気を感じる。
人の気配。
「そこの者、何か不審なことはなかったか?」
牛車に近付いた人間が低い声を一つ。
「いいえ、ありませんよ。今日も警備ご苦労様です」
老父は平然と、何事も無いように、笑い声に乗せて言葉を返す。
「そうか」
「では……」
牛車はその場を離れ、数分静かに進む。
停止した後に大きな扉を開く音。
牛舎に入り、老父はゆっくりと支度をする。
三人は緊張感を強くし、武器を構える。
「お嬢ちゃんたち、着いたよ。牛舎から家へ案内するよ」
ゆっくりとシートを捲る音に反応し、ヒェトラはグロックを老父に向ける。
「……どうして」
「ん?」
「どうして私達を匿う?」
突き付けられた銃に怯える素振りは一つも無く、老父は目を伏せてから小さく笑顔を咲かせる。
「中に行けばわかるさ」
家へと向かう老父は、着いてきなさいと呟いて進む。
木造築四十年は経過しているだろう。
時代錯誤な土壁に低い鴨居。
軋む廊下を進み部屋へ。
小さな机と対になる椅子……小さな本棚。
窓は一つも無く、小さな電球が朧気に光る。
そして一際目を惹く大きなコンピュータ。
三人はこれが陸奥の一部であることを理解した。
ヒェトラは息を呑み、一歩後ろへ。
コンピュータに取り付けられたプロジェクターが起動し、3D映像が映し出される。
金色の髪を持つ幼女が部屋の中央に現れ、白いワンピースをふわりと翻す。
「こんばんは、私達を殺そうとする少女達……私は陸奥。C2システム其の五、AI陸奥だ」
その幼女は陸奥を名乗り、笑みを浮かべる。
殺し合う運命の相手は少女達の前に現れた。
こんにちは、
下野枯葉です。
邂逅。
遂に出会う運命の相手。
ここから始まるC2の物語。
そして見えるC2の片鱗。
嗚呼もっと見せたいな。
金髪幼女。
(下野は金髪幼女が大好きです)
金髪幼女が大活躍するんです。
邂逅を果たし、ヒェトラは何を見る?
何を語る?
ジンシーは? デッディは? モートレは?
楽しみ。
陸奥は何を求めるんでしょうね?
嗚呼、金髪幼女を書きてぇ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




