十四話 忘れていたいこと
「ヒェトラ……道、できたよ」
『了解。こちらもすぐに終わらせる』
直後遠くで轟音が鳴り、シーナがそれを認める。
(さようなら長門。会いたかったよ……お母さん)
警報が鳴り止み、長門の機能が失われた。
『総員、目的は達成された。北ゲートに集合した後、西海岸から離脱する』
ヒェトラはアバートと共に長門のメインサーバーを爆破し、踵を返す。
大きく上がった口角から笑い声が漏れ、瞳が輝く。
隣を歩くアバートは命令を完遂したことにより、正常を取り戻しつつあり、足取りがふらつき始めた。
――長門は完全に沈黙した。
シーナはボートに揺られ、黒煙の立ち上る島を呆然と眺めていた。
あの黒煙の中にいた狙撃手は何者なのだろう?
油断が無かった。と言えば嘘になるが、チョーカーの機能が無ければ確実に顔面を撃ち抜かれていた。
顎を撫でてから母の記憶を思い出す。
――雪。
(名前……だったのかな?)
涙が零れる。
「シーナ。泣いているのかい?」
モートレが顔を覗き込み、声をかけた。
XM500の損傷具合や連絡が取れなかったこともあり、過酷な戦闘があったことを察し、極めて優しく。
「わたしね。今日、死にそうだった。『生きている』それが最善だ。って言葉その通りだったよ」
呟くように。
一言ずつ。
丁寧に声を出す。
死ぬことへの明確な恐怖が想いを紡がせていた。
「……そうだね。今ここにいて生きている。それが全てだよ」
モートレ自身も今回の作戦で近接戦闘が多くあり、命に銃口を向けられている感覚は常にあった。
死。
いつか訪れるその日はいつなんだろう?
今ではない。
モートレは空を眺めながら結果だけを答える。
「ねぇ、モートレ」
涙を拭き、表情をきつく結んだシーナは視線を合わせる。
「なんだい?」
突然声のトーンが変わり、雰囲気が変わったことに驚きつつも真面目に。
「つよかった。このままじゃC2を壊す前に……死ぬ」
死を叩き付ける。
目に見えて隣にそれがいることを伝えた。
「それじゃあヒェトラに相談するしかないね」
数秒考えた後、自分だけでは解決することはできないと結論付けたモートレは頷いてから提案を一つ。
「うん。それと死ぬはずの記憶は戻ることもわかった」
「……本当かい?」
立て続けに事実を投げる。
「ほんと。ヒェトラはたぶん知ってる。みんなにも言うべき?」
「いや……黙っていよう。ビーも誰にも言わないこと」
モートレは下唇を噛み、語気を荒くしながら同じボートに乗っているビーにも忠告した。
「うん」
強い言葉であったが狼狽えることなくビーは承諾した。
「どうして?」
一方のシーナは驚き、理由を聞いた。
「忘れていたいことだって………………あるんだよ」
「そっか…わかった」
シーナは明らかに苦しみに悶えるモートレにかける言葉を知らなかった。
これまで知り合った人間は数える程であり、人の表情や感情を読み取って言葉を探すことが無かった。
十四歳の少女には他人の苦しみを癒す術は無かった。
こんにちは、
下野枯葉です。
数日後に訪れる最強寒波を前に、既に震えている私はたぶんそれを乗り越えられそうにありません。
布団に包まれて冬を越したい。
さて、
忘れていたいこと
です。
忘れていたいことは沢山あります。
黒歴史もその一つですし、許されない失敗もその一つです。
そして、不利益であった関係性もそれになるのでしょう。
あとは……不幸であったこともそうでしょうか。
忘れていたいこと。
記憶から消そうとしても消えないものです。
それを消してしまった少女達はどうして消せたのでしょうか?
本当に、どうしてでしょうね?
ね?
モートレは忘れられなかったのかなぁ……。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




