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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
2章 春雪と悪魔
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十二話 覚えていない

「雪……か」

 ヒェトラは寝間着姿のまま書斎の椅子に座り、窓から外を眺めていた。

 白の景色は晩のうちの吹雪き具合を語っていた。 

「シーナも取り戻しつつある……」

 嘆息。

 今朝ビーとプーに叩き起こされ更新の詳細を聞いた時は驚いたが、あのふたりが間違えるはずもなく、ありのままを受け止めた。

 机の上に広がる更新詳細。

 シーナのチョーカーが八日に更新を開始し、日の出と共に更新完了。

 内容はチョーカーに付属されたデータと、使用者の記憶が夢の中の短い時間で再生され、結果として同調率が大きく上方修正されたというものだった。

 ヒェトラはこの更新に心当たりがあった。

 自身も経験した記憶が蘇る感覚。

 死んだはずの自分が生きた理由と、死ぬはずだった理由。

 その二つを思い出した時、耐えがたい吐き気と憎しみが浮かんだこと。

 シーナの二つの理由がどんなものかは想像ができず、耐えきれるかどうかの不安。

 作戦開始は明朝。

 支障をきたす場合も大いにあると考え、作戦延期も視野にシーナを呼び出した。


 ペタペタと裸足で書斎に入ったシーナは、久しぶりだなーこの部屋。などと考えながらグルグルと内装を見る。

「おはよう、シーナ」

 リクライニング機能の付いた革製のチェアに深く腰掛け、ヒェトラは口の端を僅かに上げながら視線を投げる。

「ん。おはよ。どうしたの?」

 突然の呼び出しに対し、首を傾げ疑問を示す。

 表情はあまり揺れず、いつも通りの印象を覚える。

「そうだな……悪い夢を見なかったか?」

「悪い……夢? 見てないよ。心地の良い夢なら」

チョーカーへの更新を知らないのだろうか?

シーナは思い当たる節が無いといった様子で、顎に手を添え考える。

夢を思い出す。

「どんな夢だ?」

「んー。寒くて暖かい夢」

「なんだそれは」

「よくわかんない。でも凄く心地良かった」

 シーナの性格も汲み取り、遠回しな質問では聞きたいことを知ることができないと判断。

 大きく深呼吸をしてからヒェトラはシーナの瞳に視線を合わせる。

「んん……単刀直入に言おう。今朝、シーナのチョーカーに更新があった。これは博士が遺したものだ」

「お父さんが?」

「記憶の再生を行い、チョーカーのデータと組み合わせることで同調率を大きく上げるというものだ」

「やった。明日の作戦もうまく行くね」

「しかし問題がある」

 同調率の上昇に伴い、身体能力、記憶の読み込み精度の向上が期待できる。

 それによりシーナはより良いスナイパーとして働けるだろう。

 作戦成功へより一層近付くことをシーナは喜び、他の皆への負担軽減になることを素直に喜ぶ。

 間髪入れずにヒェトラが指摘を一つ。

「ん?」

「記憶が蘇ることは死ぬはずだったことも思い出すということだ。……私はシーナの過去を知らないからな…………辛くないか?」

 ヒェトラは己の過去を思い出し、グッと眉間に皺を寄せる。


 嗚呼……と心の中で嘆き、苦しさを噛み締める。


 呼吸をうまく行えず、瞼が重くなる。

……嗚呼。

嗚呼!


「んー? 全然」

 苦悶に満ちた表情のヒェトラとは対するようにシーナは小さな笑顔をみせた。

 慣れない笑顔。

「……それならばいいのだが」

「ヒェトラは?」

「私?!」

 突然の言葉に戸惑い、声量が一段階上がる。

「夢、見た?」

「…………さぁな。覚えていないよ」

 疑問を投げるシーナは真っ直ぐで、純粋な視線をひとつ。

 見たはずの夢を忘れたことにしてヒェトラは瞳を閉じる。

 忘れたい記憶と決別を。

 多くを導き多くを壊した記憶。

 根源を消し去ったあの日の記憶。

 それは『覚えていない』ことにした。

 ヒェトラの表情に気付いたシーナは話を断ち切って振り返った。

「そっか。……それじゃ、朝ごはん行こ。デッディが作戦前だからって気合入れてたよ」

「あぁ、それは楽しみだ。早速行こうか」


 裸足に伝わる冷たい床から逃げるようにシーナはリビングへ。

 追いかけるヒェトラはその背中を憂いの孕んだ視線で突き刺した。


こんにちは、

下野枯葉です。


正月休みも終わり、通常の生活に戻りました。

今月はずっと正月休みにしてくれぇ。


さて。

覚えていない

です。

覚えていないなーとか、忘れたよーとか……言ったことありますよね。

本当にそうである場合と嘘であった場合。

どちらであっても言葉にするとき、視線がそれるものです。

真っ直ぐ見詰めることができる場合は……その言葉が違う言葉なのかもしれませんね。

それってどういう意味なのかと言えば…………覚えていないですね。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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