一話 世界を壊し始めた
二一〇〇年四月
高度に科学が進歩し、この世の全てがデータ管理されるようになった時代。
月が正中し、その光が摩天楼に反射する。
「防衛システムはどうなっている!」
「現在特定用ドローンとCランクドローンが展開しています」
「CからBに変更はできないのか!」
「現在申請中、返答待ちの状態です」
「クソッ!」
怒号が飛び交うのは警視庁特殊犯罪対策本部。
モニタが壁一面に並び、外の景色が映し出される。
ビルの隙間を縫うように飛行するドローンの映像が右から三番目のモニタに映し出される。
一瞬の暗転の後、笑顔の子供が映し出され砂嵐に変わる。
「子供……だと?!」
スーツ姿の男が信号を失ったモニタを呆然と見つめながら狼狽えていた。
時を同じくして、C2第九制御場。
二〇二〇年では群馬県高崎市と呼ばれていた場所。
「ヒェトラ、アバートがまた勝手に落としたよ」
背丈の小さい少女、ブルーケがチョーカーに手を当て、そう声を出した。
小さな体には似合わない完全武装。
二一〇〇年では歩兵であってもEMPを搭載し、敵のデバイス等に対抗するのがセオリーだが、彼女の武装は一世紀以上前のソルジャーそのものであった。
「ブルーケか、アバートの行動は予測の範囲内だ。勝手にやらせておけ」
ビルの屋上に佇む少女ヒェトラがそう声を出すと、無線とは違う声がブルーケの脳に響いた。
ヒェトラ。
少女の名前であるが本名ではない。
長い黒髪を一つに纏め、鋭い瞳を光らせる。
背丈は一三〇cm程しかない小柄な少女。
ブルーケよりも軽装で、右手にはグロックが握られている。
「寛大だねぇ」
「作戦に影響がないのなら構わないさ。そんなことよりブルーケも働け。デッディと一緒に殺すぞ」
ヒェトラの口角が上がり、狂気の一端が垣間見えた。
「デッディに悪いから働くよーっと」
「全くだ、ブルーケだけ殺せ」
デッディもまた、その狂気を表しながら言葉を吐いた。
「働き次第だ。……状況開始」
抑揚のない短い言葉を告げたヒェトラはビルから飛び降りた。
「ビー、プー、寄越せ」
デッディはヒェトラからの命令を受け、チョーカーに手を当てながら声を出す。
「わかった」
「早急に」
摩天楼の陰に隠れるビーとプーはデッディの言葉を受けてデバイスを操作する。
ドローンを操作し、各メンバーに物資を送る。
デッディ達四人の元にはAUGを。
ヒェトラには飛行ユニットを。
一番見晴らしの良いビルの屋上にいるローブ姿の少女、シーナにはSVUを。
警視庁のドローンを拳で叩き落した少女、アバートにはクリスベクターをドロップした。
「壊せ……」
ヒェトラは小さく呟く。
内から溢れそうな感情を押し殺して、小さく、小さく。
身を震わせ、抑え込む。
「壊せ壊せ」
しかし強い感情はどうしようもなく零れ出し、叫びになる。
「壊せ壊せ壊せぇ!」
ヒェトラの叫びが九人の少女を鼓舞し、目標へ走らせた。
「どうして特定できない! 顔が映ったのだろう?」
「データがありません」
「そんなわけないだろう! 数十年も前から義務付けられたことだぞ! 何としても特定するんだ! でないと第九が……『AI榛名』が落ちる!」
警視庁は困惑の中にいた。
二〇四五年から続く国民の義務。
犯罪抑制や、非常時の安否確認、個人のデータ管理の為に全ての情報を記録し、体にチップを埋め込み管理する。
Confederacy control system
通称『C2システム』
全国に十二あるAIで管理されている。
カメラ等で認識すれば個人の情報を全て得ることができるのだ。
しかし、その完全とも思われていたC2システムがその機能を発揮しなくなったのだ。
「榛名、北ゲート破壊されました」
「カメラの映像全てロスト!」
「防衛システム沈黙!」
「遊撃用ドローン全二十四機、信号ロスト!」
「何故だ……何故だ何故だ何故だぁ!」
怒りの叫びと同時にC2第九制御場、AI榛名はその機能を停止させた。
「状況終了。ビー、プー、榛名の確認を、シーナは後片付けだ」
グロックをホルスターに収めたヒェトラは北ゲートから外へ出て指示を飛ばした。
「「わかった」」
ビーとプーはビゾンを地面に置いてから端末の操作を始める。
シーナは無言でSVUを構え索敵を開始した。
「アバートの回収はジンシーとモートレがやっておけ」
「はぁ……わかったよう」
「まっかせてー!」
溜息交じりの返事と、元気な返事を順に聞いたヒェトラは周りを見渡す。
「…………」
暗闇の中で喧騒を肌で感じる。
「まだ序章だ……次は第三、第四を壊してあげる」
大きく上げられた口角はヒェトラの高揚感を表す。
飛行ユニットを操作し空へと飛び出した。
この世界に存在しない九人の少女達は、この世界を壊し始める。
人類から、C2システムから悪と呼ばれ、自分たちの善を貫く。
ヒェトラ、デッディ、ブルーケ、ジンシー、モートレ、ビー、プー、アバート、シーナ。
名前のない少女たちの名前。
それはこの世界を破壊するためのものだ。
こんにちは!
下野枯葉と申します。
今回から書き始めた『CRIMINAL=9』ですが、
実はもともと短編で書こうと思った作品です。
色々と考えた結果、膨らみに膨らんで長編にすることにしました。
超ゆっくり投稿していこうと思います。
ちなみに、私は金髪幼女が大好きなのですが……。
今作品では金髪幼女登場の予定はありません。
泣き叫びましょう。
最後に、
金髪幼女は最強です。