13 大ピンチ!
ようやく放課後になった。
今日もいろいろとあったけど、なんとか無事に終わりそうだ……。
ボクは姫乃ちゃん、俊介といっしょに校門を出た。二人はボクのことを心配して、むかえの車が止まっている場所まで送ってくれたのだ。タタリ王子はようやくあきらめてくれたのか、ボクたちを尾行してこない。
ナンバー7さんは、周作さんが今朝言っていたとおり、校門から少しはなれた場所に車をとめていた。
カラフルな文字で「ななみんラブラブ☆キュンキュン♡愛してる‼」と書かれたステッカーをボンネットにはっている車がナンバー7さんの愛車だと周作さんからあらかじめ聞いていたので、すぐにわかった。あの車に乗るのは、ちょっと恥ずかしい……。
「ナンバー7さん、お待たせしました」
「ノゾミちゃん、おかえり。深雪ちゃんはまだ学校か?」
「今日は掃除当番だと言っていたので、もう少し時間がかかると思います」
「わかった。深雪ちゃんが来たら、葉月ちゃんの小学校に向かおう」
葉月は夕方近くまで学校のグラウンドで友達と遊んでいるから、いつも帰りが遅いのだ。ボクは「わかりました」と言い、車に乗りこもうとした。
「ノゾミちゃん。助手席にはライフル銃を置いているから、すまないがうしろの席に座ってくれ」
「そんな物騒な物を持ち歩いているんですか⁉」
「オレの職業はスナイパーなんだから、スナイパーライフルを持ち歩くのは当たり前だろ?」
「いやいやいや! 警察に見つかったらふつうにつかまっちゃいますよ! ていうか、一般人に見られても通報されるし!」
「そこはプロだから、ヒトに見られない工夫をしている。安心しろ」
「めちゃくちゃ堂々と助手席に置いているじゃないですか! 外から丸見えじゃないですか! どこが工夫しているの⁉」
「ヒトに見られそうになったら、あわてて隠しているぞ」
「あわててるじゃん! ぜんぜん工夫してないじゃん! 安心できないよぉ~!」
はぁはぁはぁ……。ぜ、全力でツッコミを入れたらつかれた……。
「おい、ノゾミ。ちょっと落ち着け」
「なにさ、俊介。今はタタリ王子がいないんだし、ノゾムって呼んでくれていいよ」
「そんなことを言っている場合じゃない。さっきから、どこからともなく、おまえの母さんの歌声が聞こえてきているんだ」
「え? お母さんの歌声?」
ボクや姫乃ちゃん、ナンバー7さんは、耳をすましてみた。
♪明日はきっと幸せな日だわ だってあなたと初めてのデートだもん
おニューのワンピとオシャレな帽子 それにちょっぴりお化粧もして
いつもとちがうステキなわたしになるの
バキューン♪ バキューン♪ あなたのハートを狙い撃ち♡
バキューン♪ バキューン♪ あなたのハートを狙い撃ち♡
絶対に逃がさないわ あなたのコ・イ・ゴ・コ・ロ
「ほ、本当だ。これは……オレのお気に入りの曲『あなたのハートを狙い撃ち♡』じゃないか!」
「わたしも父ちゃん……げふん、げふん、お父さんからノゾムくんのお母さんの歌を何十曲も聴かせてもらっているし、カラオケでもよく歌うので、知っています! さすがは世界一かわいい男の子のお母さん! 世界一……ううん、宇宙一かわいい歌声ですね!」
「……息子としては、若いころとはいえお母さんのこんな乙女チックな歌を聴くのはちょっと恥ずかしい…………」
「ふ、ふおおおおおーーーっ‼ ななみーーーん‼」
うわっ、ビックリした‼
ナンバー7さんは突然発狂して車を下りると、どこからか取り出したピカピカ光るサイリウムを両手で振りまわし、「ななみーーーん‼」とさけびだした。目が血走っていて、なんだかこわい。
「ち、ちょっと、ナンバー7さん! 校門の近くで不審行為はやめてくださいってばぁ~! 服部重蔵さん、止めてぇぇぇ!」
ボクがそうさけぶと、近くにひそんでいた服部重蔵さんが音もなくボクたちの前にあらわれた。ひと目で忍者だとわかる忍び装束を相変わらず着ている。
「馬鹿! 何をやっているのでござるか、ナンバー7!」
そうだよ、ナンバー7さん。早くその不審行為をやめてよ!
「……ずるいでござるぞ! それがしもまぜるでござる!」
そう言うと、服部重蔵さんまでもがサイリウムを懐から取り出して振りまわし始めた。なんでやねん!
ナンバー7さんの大好きなお母さんの歌『あなたのハートを狙い撃ち♡』が終わると、すぐに新しい歌が流れ始めた。
♪みんなにはナイショなの デートの相手がみんなのあこがれの先輩だってこと
本当は自慢したいけど 知られたらダメ、ダメ! ライバルが多すぎる
だから今日は放課後お忍びデート ちょっとスリリングなドキドキデート
わたしと先輩だけが知っているわたしたちの関係♡ 友達にもナイショなの♡
「こ……これは、服部重蔵さんが大好きな、ななみんが十七歳の時に発表した名曲『放課後お忍びデート』!
友達にもナイショなの♡というかわいい歌詞が人気になって、その年の流行語になったという話をお父さんから聞いたことがあります!」
姫乃ちゃんが大興奮しながらそうさけぶ。なぜか、姫乃ちゃんまで二人のおじさんといっしょになってサイリウムを振っていた。
姫乃ちゃんも、父親の周作さんにお母さんのライブの映像をたくさん見せてもらっていたらしいから、かなり重度のななみんファンらしい……。
「おい、ノゾム。これは警戒したほうがいいぞ」
「う、うん。早く三人を止めないと、学校の前に不審者がいるって通報されちゃうよね」
「ちがう、そうじゃない。おまえのボディーガードのななみん親衛隊は、今おまえを守れるような状態じゃない。これはきっと、おまえの母さんの歌を流してななみん親衛隊を戦闘不能に追いこもうとするウラメシヤ王国の策略だ」
「えっ! これ、ウラメシヤ王国のしわざなの⁉」
勘がいい俊介がハッキリとそう言い切るのだから、きっとそうなのだろう。たしかに、ななみん親衛隊さえ邪魔しなかったら、タタリ王子はボクに近づくことができる。
「わ、わ、わ。タタリ王子怒っていたから、何をされるかわかったものじゃない。早く逃げなきゃ……」
「フフフ……。もう遅いぞ、ノゾミ!」
「え⁉」
タタリ王子の声が聞こえたと思った次の瞬間、ボクは空から降ってきた大きな網にとらわれてしまった。
「う、うわぁーーー⁉」
「ノゾム!」
俊介がボクを助けようとしてくれたけど、今度は空からカナ・シバリさんが降りて来て、「王子様の邪魔はさせません!」と言って俊介の前に立ちはだかった。
空を見上げると、ヘリコプターが宙を舞っていた。
カナ・シバリさん、あの高さから飛び降りたの⁉ 超人なみの身体能力じゃん!
「痛い目にあいたくなかったら、そこをどけ!」
「痛い目にあうのは、あなたのほうです」
だ、ダメだ、俊介! いくらケンカが強い俊介でも、カナ・シバリさんには勝てない! さっきの身のこなしを見たら分かる! この人はタタリ王子を守るために、ものすごくきたえているにちがいない! きっと、その実力はななみん親衛隊に匹敵する!
「これでも、くらえ!」
「フッ……。そのていどの動きでは、このカナ・シバリをたおすことはできませんよ?」
俊介がくりだしたパンチをカナ・シバリさんはあっさりとかわし、「次はこっちの攻撃の番です!」とさけんだ。
「ぐ、ぐわぁーーー!」
あ、ああーーーっ! しゅ……しゅんすけーーーっ‼
俊介はカナ・シバリさんの神業のごとき連続パンチと連続キックによって吹っ飛ばされてしまった!
「し、しまった! 敵襲だ! 車からライフル銃を出さなければ!」
「それがしも忍び刀で応戦をしなければ!」
「しかし……ななみんの歌声がまだ終わらない……!」
「それがしたち、ななみんの歌声が聞こえたら自動的にサイリウムを振っておどり出してしまうでござるぅ~!」
ナンバー7さんと服部重蔵さんが悲痛なさけび声を上げ、「に、逃げてくれ! ななみんとわれわれの愛の結晶~!」とボクに言った。
ボク、あんたらの子供になったおぼえはないから!
「ノゾム……げふん、げふん、ノゾミちゃんはわたしが守ります!」
姫乃ちゃんが、タタリ王子の前なので「ノゾミ」と言いなおし、カナ・シバリさんに突進していった。
よかった、姫乃ちゃんはななみんの歌声の呪縛からなんとか脱出できたらしい。
「くらえーっ! 笑美道場で習った護身術のひとつ……かかと落としぃぃぃ‼」
それ、護身術じゃないよ⁉ 姫乃ちゃん、それは絶対に護身のための技じゃないから! その笑美道場ってところ、本当に護身術を教えている道場なの⁉
「ぬ、ぬわっ⁉ ぎりぎりでかわしたはずなのに、風圧で吹っ飛ばされそうになるとは……。あなた、なかなかやりますね。ですが、負けませんよ!」
姫乃ちゃんのかかと落とし(なんか、風を巻き起こしていたけど……)をかわしたカナ・シバリさんは、目にも止まらぬ連続パンチ、連続キックをくりだした。しかし、姫乃ちゃんはそのすべての攻撃を華麗な身のこなしでかわし、またもや大技をはなった。
「四十八の笑美流護身術のひとつ……飛び膝蹴りぃぃぃ‼」
「な……⁉ う、動きが早すぎてかわせな……ぐはぁ‼」
姫乃ちゃんの会心の一撃をくらったカナ・シバリさんは、空中で五回ぐらい体が回転し、バイクでピザを配達中のお兄さんとぶつかった。
「くっ……! ただの女子中学生が、まさかわたしにダメージをあたえるとは……」
カナ・シバリさんは、ピザをむしゃむしゃ食べながらくやしがる。
気絶中のピザ屋のおにいさーん、商品を食べられちゃってますよぉー!
「ふっふーん! どうだ! わたしの護身術の味は! これでもわたしは笑美道場の四天王の中では最弱なのですよ。四天王の最強である笑美道場の娘さんはわたしの倍は強いです!」
その道場の娘さん、もはや人間ではないのでは……。
「日本の護身術、おそるべし……。だが、勝負はこれからです!」
だから、それは護身術じゃ……。
ああ……だんだんツッコミを入れるのがつかれてきた。ていうか、知らぬ間にバトルもののマンガっぽくなってきちゃったよ……。
「フフフ。あの乱暴女がカナ・シバリと戦っている間に、ノゾミを連れて帰るか」
「た、タタリ王子⁉」
いつの間にかボクの背後にいたタタリ王子がボクの肩をつかんだ。ボクが見上げると、タタリ王子はゾッとするほど冷酷な表情をしていた。
「おまえが悪いんだぞ、ノゾミ。おまえがオレの思いどおりにならないから、おまえを鳥かごの中に閉じこめなくてはいけなくなったじゃないか……」
「ひ……ひぃぃぃぃ! やっぱり、その展開なの~⁉」
タタリ王子が指をパチンと鳴らすと、黒ずくめの男たちが十人ほどぞろぞろとあらわれてボクを捕獲した。どうやら、学校周辺の民家にひそんでいたようだ(犯罪だよ!)。
だ、だれか、助けてーーーっ‼




