11 爆発寸前?
「な、なんだ、こいつらは! 日本人にはこんな変人どもがいたのか!」
決死部隊が全員戦闘不能になり、タタリ王子は顔を青ざめさせた。
「助けてくれ! 日本人は変態ばかりだ! HENTAIジャパーン‼」
人聞きの悪い言葉をさけびながら、兵士のみなさんは逃げていく。ウシミツドキ国王もこれにはおおあわてだ。
「ウシミツドキ国王様ぁ~♪ わが家はこの人たちが守ってくれるから、ご安心くださぁ~い♪」
窓を開けはなったお母さんがニコニコ笑いながら、そう宣言する。
「ノゾミちゃんの母上! この者たちはいったい何者なのじゃ⁉」
「わたしのお友達ですぅ~」
「そんな馬鹿な! ただのお友達がこんなにも強いわけがあるまい!」
「あたしがアイドルだったころ、あたしを守ってくれていた熱狂的なファンなのでぇ~♪」
「アイドルのファンがわが国の兵士たちを撃退したというのか⁉ 日本のアイドル、恐るべし……!」
いえ、国王様。ふつうのアイドルのファンは、ただの一般人ですから。ボクのお母さんがちょーーーっと特殊なだけですから……。
「とにかく、勝手に家のまわりに警備隊やら兵隊を置かれたら迷惑なので、ご遠慮くださいね☆ ほんとーーーに迷惑ですから」
お母さんは、一国の王様に堂々とそう言ってのけた。天使のようにかわいらしくほほ笑んでいるのに、強い怒りのオーラをひしひしと感じる……!
お母さんの怒りオーラに、さすがのウシミツドキ国王もたじろいたのか、「ぐ、ぐむむぅ~……」とうなりながら一歩、二歩とあとずさった。
「……王子がようやく見つけた妃候補だからと思って、こちらも少々はしゃぎすぎたか。タタリ、ここはいったん引きあげるぞ!」
「し、しかし、父上! あんな物騒なヤツらがいたら、われわれがノゾミに近づくことができません!」
「じゃが、これ以上しつこくしてタタリがノゾミちゃんに嫌われたら一大事じゃぞ。ノゾミちゃんに『タタリ王子なんて大嫌い! もう、あなたとなんて結婚できません!』と言われたら、どうする気だ?」
「うっ……。わ、わかりました」
ウシミツドキ国王とタタリ王子は、思ったよりもあっさりと引きあげて行った。
……悪いけど、すでに十分嫌っていますので。
次の日の朝、周作さんが車でボクとお姉ちゃん、葉月をむかえに来てくれた。車の助手席には姫乃ちゃんもいた。今日から朝は周作さん、夕方はナンバー7さんがボクたちを学校まで送りむかえしてくれるという。
ナンバー7さん、某国に雇われている凄腕スナイパーなのに、中学生の専属タクシーみたいなことをやっていてだいじょうぶなのかな?
「学校にいる間は、服部重蔵がノゾムくんを見守っているから安心してくれ。あいつは忍者だから、近くに潜んでいてもぜんぜん気配を感じない。だから、ノゾムくんはなにも気にせず授業を受けていればいいんだよ」
周作さんはそう言うけど、見張られていると知ってしまった時点で気になっちゃって勉強に集中できないんですが……。
「お、おい! ノゾミ! これはどういうことだ! オレが学校まで送ってやると昨日言ったのに、なぜそいつの車に乗りこもうとするんだ!」
お姉ちゃんと葉月が先に周作さんの車に乗りこみ、最後にボクが乗ろうとすると、国王一家の豪邸からタタリ王子が走ってやって来て、大声でそう怒鳴った。
「だって、タタリ王子と国王様、やることが極端すぎてなにをされるかわからないもの。そんな信用できない人の車に乗るのは嫌だよ」
ボクが眉をひそめて言うと、姫乃ちゃんも「そうです! ノゾミちゃんはわたしが守るので、あなたは引っこんでいてください! あっかんべぇ~!」と悪態をついた。
「ぐ、ぐむむぅ……。昨日は少しやりすぎたとオレも父上も反省している。だから、そろそろ機嫌を直してくれ」
さすがにボクの家に決死部隊を突入させたのはやりすぎたと本当に反省しているのか、常に上から目線のタタリ王子にしては下手に出てきた。
でも、ここで簡単に許したら、すぐに調子に乗ってまたあんな非常識なことをやるかも知れない。今度は学校に武装した男たちを突撃させ、それこそ日本とウラメシヤ王国の外交問題に発展してしまうおそれもある。いくら外国の王族でも、ダメなものはダメだとハッキリさせておかないといけない。
そう考えたボクは、「ごめん」とちょっと冷たい口調で言った。
「わたし、姫乃ちゃんといっしょに学校へ行くね」
「あっ、おい! 待て! の……ノゾミぃ~!」
ボクは、タタリ王子を振り切るように車に乗りこみ、バタンとドアを閉めた。それと同時に周作さんは車を発進させるのだった。
「ノゾミーーーっ‼ カムバーーーック‼」
タタリ王子の絶叫が聞こえたけど、振り返らなかった。
一限目の授業の後の休み時間。
ボクは姫乃ちゃんや織目さん、水野さんら女子たちといっしょにおしゃべりをしていた。
俊介が「なるべく女子たちと行動していたほうがいい。オレたち男といると、タタリ王子に怪しまれる」とアドバイスしてくれたからだ。
「ね……ねえ、ノゾミちゃん。タタリ王子とケンカでもしたの? さっきから、こっちをものすご~くおっかない顔でにらんでいるんだけど」
織目さんが、はなれた席でボクをじーーーっと見ているタタリ王子をチラチラ見ながら、ボクに小声で聞いた。
「わがままな王子様に振りまわされて大変なのはわかるけど……あんまり冷たい態度を取っていたら外交問題になったりするんじゃないかしら?」
心配性な水野さんなどは、ボクとタタリ王子が険悪な雰囲気であることをすごく気にして、顔が真っ青である。
「でも、険悪になっちゃうのは仕方ないんだよ、糸子ちゃん、真奈美ちゃん。昨日の夜、あの王子ったらノゾムくんの家を武装した人たちで包囲しちゃったんだよ」
姫乃ちゃんがプンスカ怒りながら、二人にそう教える。織目さんと水野さんは「ええーっ⁉」と声をそろえてビックリした。
「あ、あわわ……。ウラメシヤ王国、恐ろしすぎだよぉ~……」
水野さんはガタガタとふるえ、半泣き状態。
織目さんも「思っていたよりもヤバイね、ウラメシヤ王家……」とあきれかえっている。
「でも、そういうことならますます気をつけたほうがいいよ? 『オレの言う通りにならないのなら、鳥かごの中に閉じこめてオレの自由にしてやる!』とか考えるかも知れないよ?」
「つ、つまり、ノゾミちゃんを監禁しちゃうっていうこと⁉ あ、あばばばばば!」
織目さんの言葉に水野さんがふるえあがる。
……そういえば、うちのお姉ちゃんが持っている乙女向け恋愛シミュレーションゲームで、そういうバッドエンドルートがあったような……。
ボクは、暗い牢獄みたいな部屋の中に閉じこめられた自分を想像して、背筋が冷たくなった。
せめて、そんなところに閉じこめられるのなら、ちゃんとお姫様みたいなかわいいドレスを着せてほしいなぁ……。それだったら、とらわれのお姫様の気分があじわえ……。
いやいや、おかしな妄想をしている場合じゃないよ! しっかりしろ、ボク!
「そんなことをさせてたまるかってんだ、こんちくしょう! ……げふん、げふん。そ……そんなことさせないもん! ノゾミちゃんはわたしが守るんだから!」
姫乃ちゃんが鼻息荒くそう宣言すると、近くの席でボクたちの会話を聞いていたらしい俊介もやって来て、
「なにかあったらスマホで連絡しろ。親友のおまえのためなら、どこにいてもかけつける」
と、言ってくれた。俊介は、ボクが女の子のかっこうになっても親友として接してくれる。本当に頼りがいのある幼なじみだ。ただ……。
「……ねえ、真奈美ちゃん。俊介くんとノゾミちゃんが見つめ合っていると……なんだかすごく絵になると思わない?」
「……き、奇遇だね、糸子さん。実はわたしも、さっきから胸のドキドキが止まらないの。見た目だけは、イケメンと美少女の素敵な組み合わせだから……」
……昨日から女子たちのボクと俊介を見る目が、なんだか熱っぽくなっているのが少し気になるのは、ちょっと困るかも……。
俊介が「こいつはオレにとって一番大事な存在」なんて誤解を受けるようなセリフを言ったからなぁ~。
「チッ……。おい、庶民! オレの許嫁に気安く話しかけるな! そいつはオレのモノなんだぞ!」
さっきからボクをにらんでいたタタリ王子がついにがまんできなくなり、俊介にそう怒鳴って席をガタンと立った。
「ノゾミがだれといっしょにいるかはノゾミが決めることだ。ノゾミの自由を束縛するな。そういう相手をしばろうとするヤツは、モテないぞ」
「なんだと? オレがモテないだって⁉ こいつ……庶民のくせして生意気な……」
おっかない顔でにらみあう二人。
バチバチバチ‼
わ、わ、わ。またまた二人がボクをめぐって火花を散らし始めちゃったよ!
ボクが本当の女の子だったら、イケメン二人にはさまれた三角関係にドキドキしちゃうんだろうけど……。残念ながら、ボクは男なんだよねぇ……。
「もうがまんならん。決闘だ。校庭に出ろ!」
タタリ王子はそうさけび、肩を怒らせながらボクと俊介に近づいて来た。しかし、
シュバババ! シュバババ!
どこから飛んで来たのか、タタリ王子の足元の床にたくさんの手裏剣が突き刺さったのである。
「う、うわわ⁉ なんだ、これは!」
おどろいたタタリ王子が尻もちをつく。俊介や水野さん、織目さんも目を大きく見開いてビックリしている。
こ、これって、もしかして……。
「は、服部重蔵さん⁉」
ボクがそう言うと、姫乃ちゃんがコクリとうなずいた。そして、ボクの耳に顔を近づけ、
「『あのわがまま王子がななみんの息子さんに近づこうとしたら、容赦なく攻撃するでござる』と言っていました。だから、安心してください」
と、耳打ちした。
さすがに一国の王子様に手裏剣を投げるのはやりすぎなのでは……。
ななみん親衛隊のみなさん、お母さんへの強すぎる忠誠心のあまり、なにをしでかすかわからないからちょっとこわいなぁ~。
「く……くそっ! これではノゾミに近寄れないではないか。ノゾミに怒られると思ってボディーガードたちを屋敷に置いて来たのが裏目に出てしまったか……」
「ふっふ~ん! いい気味です! ノゾミちゃんを困らせるからバチが当たったんですよ。しっかりと反省して、少しはおとなしくしていてください!」
ドヤ顔の姫乃ちゃんが腰に手を当てながら、ふんぞり返ってタタリ王子を挑発した。
「ぐ、ぐぬぬぅ……」
タタリ王子は歯噛みしてくやしがった。プライドの高いわがまま王子がここまでコケにされてしまったら、がまんならないだろう。きっと、怒りが大爆発する寸前にちがいない。ひ、姫乃ちゃん、必要以上にタタリ王子を追いつめないほうが……。
ウラメシヤ王家の人たちは、武装した集団でヒトの家を包囲する超超非常識な一族だ。本気でプッツンしちゃったら、織目さんが言っていたように、ボクを鳥かごの中に閉じこめようとするかも知れない。
う、う、う……。なんだか嫌な予感がするなぁ~。




