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第12話 流星の花

「えっ、ちょちょっ、待っ……て、えっ?」


 両手を前に突き出して、とっさに防御しようとしたジーンの横を、幾本もの槍が豪速で通過していく。

 ポカンとしながら目で追うと、その槍たちはどれも天高く昇っていってしまった。


「え? あ、あれ? わたしに……じゃない? てか、どこまで行くの……」


 見る間に槍たちは小さくなっていく。

 しかしすぐに、消えて行った方角からいくつもの白い光が現れた。


「ぐ、グレイフィール様? あれって――」

「……先ほど飛んでいった槍だ。それを今また呼び戻している」

「ええっ!? な、なんでそんなことを」

「理由は後で説明する。とにかく、灰になりたくなければいますぐここを離れろ」


 そう言うとグレイフィールは<転移>を使ってさっさと姿を消してしまった。

 ジーンも、すぐに言われた通りにする。


 グレイフィールの気配を追って移動すると、そこはさきほどの場所から少し離れた岩山の上だった。

 槍たちが、白い軌跡を描いて地上へ堕ちていくのが見える。


 しばらくすると槍の落下地点から、ものすごい衝撃波がやってきた。

 側にあった木々たちが爆風でゆさゆさと揺れる。


 ジーンは高く結いあげた左右の髪の束を押さえながら、グレイフィールを見た。


「ぐ、グレイフィール様? さっきのは……」

「あれは私の槍で起こした<擬似的な流星>だ」

「擬似的な流星?」

「例の花を生み出すためには、この現象を起こすことが不可欠なのだ」

「え? ってことは――」

「まだやることがある。一旦戻るぞ」

「あ……はい」


 二人があわただしくさっきの場所に戻ると、あれだけたくさんあった大型生物の骨はすべて溶けていた。

 まばらに生えていた木も、いたるところでブスブスとくすぶっている。

 さらになだらかだった地平は、大きく窪んでしまっていた。


「うわー、だいぶ悲惨なことになってますねぇ……」


 ジーンは若干引き気味で、辺りを見回す。


 グレイフィールは窪地の中心に立つと、右腕に魔力を集中させはじめた。

 周囲にただよう濃密な<魔素>を、地表付近から逃げないよう固定する。


 すると、魔素の結晶とも言える無数の小さな光が次々に生まれた。そしてそれはすぐにスッと地面へと潜っていく。


 しばらく待ってみると、そこここから若い青葉が生えてきた。

 さらにみるみるうちに成長し、あっというまに黄色の星形の花をつける。

 それは日暮れていく草原の中で幻想的に光っていた。


「わーっ、すごい! これ……もしかして全部<流星の花>ですか? 綺麗~! 荒れ地に花が咲きましたねっ、グレイフィール様!」

「ああ。どうやら成功したようだな」


 グレイフィールは足元の一つを摘み取って、眼前に掲げる。


「これは、自然に発生する確率がきわめて低い植物だ……。まずドラゴンなど、長く生きた魔物の骨が必要となる。そしてそれらが古くなり朽ちかけたところに、流星などの高層から落下するものが飛来しなければならない。なぜなら、空中に漂う階層ごとの異なった魔素らを、高速でかつ高温で融合させる必要があるからだ。それには流星が最適で、だがそれが任意の場所に堕ちてくる確率はきわめて低く、それゆえ人為的に――」

「あのー、グレイフィール様?」

「……なんだ」


 せっかくいい気分で持論を展開していたのに、それをジーンに水を差されて、グレイフィールはあからさまに不機嫌になった。


「質問ならば後にしろ。今は先に考察を――」

「いや、なんかあの、お客様……みたいですよ?」

「は? 客?」


 ジーンがおそるおそる指さした方角を見ると、大きな青いドラゴンが悠々と空を飛んでいた。

 そしてそれは、ものすごい形相でこちらをにらみつけている。


「あれは……この墓所を守る番人、か」

「えっ? 番人?」


 グレイフィールがつぶやくや否や、青いドラゴンは鱗を夕日にきらめかせながら、急速にこちらに降下してきた。

 ぐぐぐっと長い首を下に向け、地面に到達する直前でふわりと羽根をひろげる。

 ほぼ音もなく降り立ったそのドラゴンは、強い殺気をグレイフィールたちに向けてきた。


【我はこの墓所の墓守。何者だ、お前ら! ここをこのような有り様にしたのはお前らか!】


 グレイフィールは側に置いていた魔法のトランクを開けると、花を中に入っていた収集ケースにすばやくしまう。

 そしてドラゴンに向かって叫んだ。


「ああそうだ。この通り、ここに咲いている花、流星……いや、竜生の花が必要だったのでな!」

【……なっ!】

「竜生……? え? 流星の花、って名前だったんじゃないんですか、これ?」


 横から発されたジーンの問いに、グレイフィールはちょうどいいとばかりにドラゴンにも聞こえるよう説明をはじめた。


「流星の花は別名、竜生の花とも呼ばれている……。竜の骨からもよく発生するからな。よもやそれを知らぬとは言わせんぞ。墓守のドラゴンであればなおさらな!」

「はー、なるほど。竜生ってそういう……さっすがはグレイフィール様、博識ですね~!」

【……】


 異様に褒め讃えるジーンに、グレイフィールは少しだけ嬉しくなったが、すぐに冷静さを取り戻した。

 今、その名を外で軽々しく呼ばれるわけにはいかない。

 目つきを険しくしてみせると、ジーンはあわててその口元を手で覆った。


 ドラゴンは相変わらず警戒心を解くことなく、グレイフィールたちと向き合っている。


【その花のことならば、もちろん知っている。だが、それにしても早すぎる。先ほどここに流星が落ちたのを見た。普通ならば、それからひと月はこの植物は花をつけぬはずだ。それを……いったいお前たちは何をした? そしてどこの誰だ!? 名を名乗れ! 我らの神聖な墓所を汚すとは……許せん、お前たちは死をもってその蛮行を償え!】


 グレイフィールの説明に、青色のドラゴンは納得どころか強い怒りを示してきた。

 そして勢いよく口から真っ赤な火炎を吐きだす。

 グレイフィールはそれを<転移>でさっと躱すと、片手に自慢の黒い槍を出現させた。


「まったく、余計な争いは避けたかったのだがな……。やむを得まい!」


 そう言うと、それを大きく振りかぶった。

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