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第11話 薬草狩りの準備

「これと、これと……あとこれもいるか」


 グレイフィールはそう言いながら、イエリーの<魔法の荷箱>とほぼ同じ機能を持つ<魔法のトランク>に図鑑や収集キット、スコップなどを収納していた。


「ああっ、嬉し~~~いっ! グレイフィール様がやっと塔から出てくれる~~~っ!」


 部屋の隅では、吸血メイドのジーンが両腕を広げ、呑気にくるくると回っていた。

 それを横目で眺めつつ、グレイフィールは出かける準備を淡々と進める。


「おい、ジーン。これはあくまでも『人間のため』の行動だ。くれぐれも勘違いするなよ。私が魔王になるため、ではない」

「はいはーい。わーかってますよう!」


 相変わらず喜びの舞を続けているジーンに、グレイフィールはややイラつきながら言う。


「それと探索には私だけで行く」

「へっ? いやっ、わたしも行きますよ!? だって、ずっと側でグレイフィール様を見守っていきますって言ったじゃないですか!?」

「ああ。だが、他の魔族に見られると面倒だ。ここにいろ」

「えええ~~~っ、そんなあ! いやですっ、絶対に行きますっ! もし置いて行かれたら魔界中探しちゃいますよ? グレイフィール様どこですかー、って。それでもいいんですかっ!?」

「それは、余計、目立つな……。仕方ない」


 グレイフィールはトランクからあるものを取り出すと、それをジーンの方へと放った。


「ん? なんですか、これ」

「それは<変装の首輪>だ」

「変装の首輪?」

「いいから着けてみろ」


 それはなんの装飾もない、ただの金の首輪だった。

 ジーンはさっそく、後ろ側にある留め金を外して着けてみる。


「ん? 別に、なんの変化もないですけど……?」

「鏡を見てみろ」

「……はい」


 言われて、ジーンは壁に立てかけたヴァイオレットの鏡に自分の姿を映し出してみた。

 すると、そこには髪の色は同じだが、体型や服などまるごと変わった別人の姿が映っていた。


「えええっ!? な、なにこれ!」


 小柄で表面の凹凸がほとんどなかったジーンの体は、いまや誰もが振り返る、長身でグラマラスな体型へと変化していた。

 服もメイド服から、なぜか紅色のワンピースとなっている。

 ジーンは驚きに身を震わせた。


「こ、これがわたし……?」

「それは装着した者の姿かたちを、本人が別人だと思う姿に変えられる首輪だ。それならば、お前がジーン・カレルだとは気付かれまい。そして私も――」


 そう言うと、グレイフィールも同じものを身に着けた。

 すると見る間に頭の黒い巻き角が消え、顔も青年のものからやや老けこんだ顔へと変わっていく。

 そして白いシャツを着ていた姿から、黒っぽい上下の服と外套を羽織った姿へと変わっていった。


「うわー。グレイフィール様! なんかいい感じの渋いオジサマになりましたね~! あと、なんかちょっと、人間みたいです……」


 じゅるりとジーンは口元のよだれを拭く。 

 グレイフィールはそのそぶりに若干引いたが、あえてなんでもない風を装った。


「そうか……では行くぞ」

「はいっ!」


 グレイフィールはトランクを持つと、鏡の前に立つ。


「おい、鏡」

「はいは~い! お呼びかしら~~~?」


 呼びかけると、紫髪の男ヴァイオレットが鏡の中に現れた。


「先ほどの話の通り、私はこれから<流星の花>があるだろう場所へ行く。お前にはこの世界のどこにでもつながれる機能をつけてやった。だからとっととそこを探せ」

「はあ~~~? 何よう、その頼み方っ! んもう、雑!! 鏡使いが、荒いんだからぁっ!」


 ぷりぷりと不満を漏らしながら、ヴァイオレットは鏡の表面をゆらゆらとさせはじめる。

 言われた通り流星の花を探しているようだ。

 けれど、いくら待ってもその場所は現れない。


「どうした?」

「あっれぇ~~~、おっかしいわねぇ~~~、さっきのお花、魔界のどこにも無いみた~い」

「なんだと!?」

「ええっ」


 ヴァイオレットの回答に、グレイフィールとジーンは思わず落胆の声をあげる。


「どどど、どうするんですか? グレイフィール様。ワーウルフの商人さんに、あんな約束しちゃいましたけど……結局ありませんでしたー、ってのはマズイのでは?」

「……問題ない」

「へ? 問題ない!? いや、問題ないわけないでしょう!」


 グレイフィールは目をつむると、ヴァイオレットにもう一度告げた。


「では、続いてドラゴンの骨が落ちている場所を探せ」

「え? ど、ドラゴンの骨? うーん。<死体>ってことぉ?」

「いや、違う。<骨>だ。できたら死んで何年も経ってそうなやつがいい。死にたては除外しろ」

「え、うーん……わかったわ~~~」


 難しい注文に、ヴァイオレットは難色を示しながらも一生懸命に探しはじめる。

 しばらくすると、夕日を背にしたとある岩山が映し出された。

 そのふもとの草地には、巨大な、おそらくドラゴンのものであろう骨が幾本も転がっている。


「えーと、ここなんてどうかしら~~~?」

「ふむ、いいだろう」


 グレイフィールは頷くと、ちらりと背後を振り返った。


「ジーン・カレル。いいか、これからこの地に赴くが、決して私の足手まといになるな。もし邪魔をしたら、また槍で串刺しにするからな。わかったか」

「うっ……は、はい」


 グレイフィールはジーンにそう念を押すと、さっさと先に鏡の中に入っていってしまった。

 残されたジーンは、なんとなく二の足を踏んでいる。


「どうしたの~、吸血メイドちゃ~ん。行かないの~?」

「い、いやー、なんていうか、ちょっと不安っていうか……」

「足手まといになるな、ってさっき言われたからぁ?」

「いや、そっちじゃなくて……。わたし、自分の力以外で<転移>するの初めてなんですよ。だから、なんだか緊張しちゃって」


 それを聞いたヴァイオレットは、一気に怒りを露わにした。


「はぁ~? なによそれ! アタシの能力バカにしてんのぉ? てかなに寝ぼけたこと言ってんのよ!? アンタ、あの冷血王子様のお目付け役でしょっ!?」

「そ、そうですけど……」

「だったらつべこべ言わず、さっさと行きなさいッ!」

「は、はいっ! い、行きます……!」

「そう。女は度胸よっ! いってらっしゃーい!」


 ジーンは意を決すると、えいやっと勢いよく鏡の中に飛び込んだ。

 すると景色ががらりと一変する。

 気が付くと、離れの塔の中から、一気に壮大な岩山のふもとへと到着していた。


「えっ? うわーっ、ホントちゃんと転移したぁ~~~。変な感じ~!」


 ふへへっ、とジーンの口からは安堵とともに奇妙な笑い声がもれる。

 ふと周囲を見渡すと、少し離れたところにグレイフィールが立っていた。


「あ、グレイフィール様!」


 大きな骨がたくさん散らばっているあたりで、グレイフィールはひとり片手を天に向けていた。

 そこへ駆け寄ろうとして、ジーンはぴたりと足を止める。


「え? あ、あれは……」


 上空に、とある物体がいくつも浮かんでいた。

 それは幾度もジーンの体を貫いたもの。

 グレイフィールの黒い槍が、無数に空を占拠していた。

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