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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サラフィー様の手の中で

暁伝 外伝 副将スウェア その二

作者: Lance

 森から旋風が駆け抜ける。

 まさしく戦場に吹く一陣の風だった。

 たった一騎の騎将が戟を振り回し、硬直状態の戦線に割り込むや、状況は味方に有利となった。血煙、兜首、得物を握った腕、血飛沫、それらが空高く上がり、その下を騎将はまるで潜るようにして馬を走らせ、得物を振り回していた。

 そこだけ穴が開いた。

「あそこだ! お前ら、将軍に続け! 将軍を死なせるな!」

 副将スウェアは同じく徒歩の部下達を叱咤激励し、息を切らしながら駆け抜ける。

 それでも眼前では武具が飛び、鬨の声が悲鳴に成り代わっていた。伏兵部隊は全体としては出遅れたが、大軍を前にこうして戦場を盛り返し支配したのであった。

 スウェア達が追い付いた頃には、総大将ブロッソの号令が鳴り響き、展開していた正規兵達は意地と勇気を見せ敵へ敵へと突進した。

 自分の主人と寸断され、スウェアは泡を食っていたが、蠢く味方勢から一騎の騎馬が悠々と出て来た。

「将軍! アカツキ将軍!」

 スウェアは慌てて駆け寄った。

 アカツキ将軍は、黒毛の愛馬ストーム共々、鎧兜は緑色の血に塗れていた。

 アカツキ将軍は言った。

「すまんな、また突っ走った」

 右手で戟を担ぎ、左手には三つの兜首がぶら下がっていた。

 スウェアはその様子を見て胸が高鳴った。

「お前達はまだ走れるか?」

 アカツキ将軍が問う。

「アカツキ隊一同、幾らでもついて行きます!」

 スウェアが言うと、配下達が声を揃えて応じた。

「地獄の底までも!」

「よし、ならば行くぞ! アカツキ隊は戦場を並走し敵の横腹を削ぐように食い破る!」

 アカツキ将軍が馬を駆けさせる。

「アカツキ隊、将軍に続け! こんなところでへばってんじゃねぇぞ!」

 スウェアは声を上げた。



 二



「と、言うわけだ。アカツキ将軍はうちの自慢さ」

 酒場で親友にして将軍に昇進してしまったグラン・ローを相手にスウェアは雄弁にアカツキ将軍のことを語って見せた。

「自慢できる上司がいるってのは良いもんだよな。俺の場合、シリニーグ将軍だ。いろいろ面倒見てもらって、ただの門番が今ではこの通り爵位と将軍位を授かっている。どちらかと言えば、アカツキ将軍は俺にとって好敵手だな」

「好敵手だと?」

 スウェアは親友のことを生意気だと思い、腹を立てた。すると親友は言った。

「自慢する気はないけど、俺、アカツキ将軍とサシでやって勝ったこともあるぜ」

「な、なにぃっ!?」

 スウェアが驚きの声を上げると酒場中の話し声が止み、視線がこちらへ釘付けになった。

「お前、ただでさえ声デカいんだからボリューム落とせよな」

 グラン・ローが呆れたように言う。

 スウェアは口を閉じ両手で押さえていた。

「わるいな、お騒がせした」

 グラン・ローが言うと酒場は再び賑やかになり始めた。

「それとさっきの話だけど嘘じゃないぞ。信じないなら本人に訊いてみたらどうだ?」

「そんな失礼なことができるかよ」




 三



「グラン・ローがか?」

 アカツキ将軍が言った。

 王宮にある新造の広い部屋だった。ここにアカツキ将軍はリムリアさんと住んでいる。爵位も用意された様だがアカツキ将軍は断り続け、ただの将軍として地位を拝命している。だからこそ、本来なら貴族街に屋敷を構えるところを城に住んでいるというわけだ。そんな例は珍しくもなく、暗黒卿やサルバトール卿も城に部屋を持ち住んでいた。

 スウェアはグラン・ローの言うことが信じられず、アカツキ将軍の部屋、いや、家の門を叩いたのであった。

「ああ、確かに負けたな」

 アカツキ将軍はあっさりと認めた。

「俺はどんな武具でも小器用に使えるのが自慢だが、盾だけは例外だ。お前も壁のグランの突進を受けてみれば分かる。全く隙が無い」

 その時、リムリアさんが顔を出した。

 その顔立ちは変わらない。どこか幼さのある顔だった。一見すればアカツキ将軍が未成年者を拉致監禁しているように見えるが、リムリアさんは成人はしているらしい。

 そして二人には子供がいる。その赤子がリムリアさんの腕の中に抱かれていた。

「スウェアさん、こんにちは」

「こりゃどうも、奥様、お久しぶりです」

 にこやかな顔にスウェアは同じく笑顔で応じる。

「お坊ちゃんもお久しぶりです。今は寝てるんですかい?」

 スウェアは声を落として尋ねた。

「ううん、起きたみたいだよ」

 リムリアさんがこちらへ歩み寄って来る。

 アカツキ将軍とリムリアさんの子の名前はゼータという。アムル・ソンリッサ陛下が名付け親だ。

 ゼータお坊ちゃんがキャッキャッ言い出した。

「知ってる? ゼータってスウェアさんの声が大好きなんだよ」

「おお、本当ですか?」

「抱っこしてあげて」

 リムリアさんがゼータお坊ちゃんを差し出す。

 スウェアはアカツキ将軍を仰ぎ見た。

「遠慮するな」

 彼はそう言った。

「では、少し失礼して」

 ゼータは満面の笑みを浮かべている。

「ゼータお坊ちゃん、スウェアお兄さんが来たよ。ベロベロバー」

 するとゼータはスウェアの腕の中ではしゃぎ出した。

 スウェアは思ったのだった。

 この子のためにも、アカツキ将軍は俺が殺させはしないと。

 そうして、残る戦線、スウェアはアカツキ将軍を敵の歯牙に掛けさせないためにも、その赤子のためにも、駆けて叫んだ。

「お前ら、将軍に続け! アカツキ将軍を絶対に死なせるなアアアアッ!」

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