桜町の日常
桜並木を、すごいスピードで少女が駆け抜けて行く。
ーーーー時は平成ーーーーー
五月のある日、桜町一の桜並木では、毎年の名物、桜吹雪が雨のように降り注いでいた。
古く、赤茶けたタイルに沢山の薄紅が敷かれ、桜の絨毯と化している。
木々の隙間から漏れ出る昼の木漏れ日は、優しく観光客や通勤中のサラリーマンやOLを見送っている。
沢山の人が和やかに桜を楽しんでいる中、
「うわああああああい!ちこくだああああ!」
可愛らしい声を裏返しながら、とある少女が桜並木を駆け抜けて行く。
周りの人は、観光客はなんだようるさいな、と目を向け、地元民は、もうこんな時間かと慣れたように時間を確認した。
……と、観光客は、ハッと息を呑んだ。
"可愛い"や、"美しい"では表せない美貌が、そこに有ったからだ。
冬のとある日、外を走っているときに疲れてふと見上げた晴天の空のように、
冷たくて、清々しくて、息を飲むような、なんとも言えない感情が沸き上がって泣きたくなるような……そんな蒼髪に、
透明な湖の深淵を覗き込み、そして覗き返されたような、見つかってしまったかのような、そんなゾクリとした恐怖がする、大きなアーモンド形の、高貴な猫のような瞳。
陶器で出来ているみたいに滑らかで白い、艶やかな玉のような肌。
少し凹凸が少なく、小柄ではあるが、それもまた少女の人形的な、神秘的な魅力が際立たせている。
形の良い鼻も、ぷっくりとしたピンクの唇も、
美の女神も裸足で逃げ出すような眩い美貌に拍車をかけている。
桜の絨毯を蹴散らしながら走る少女の名前は、桜里舞。
現在、遅刻気味である。