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二メートル先の恋人

作者: 翼 くるみ


 白く長い廊下の先から、車いすに乗った女性がやってくる。

 髪は白髪交じりで、頬や目じりはすっかりと垂れ下がっている。だが、その瞳は変わらない。もう何十年前になるだろうか。初めて出会ったときと同じ優しい瞳をしている。

 女性を乗せた車いすは、私の二メートル先で停車し、女性は、ゆっくりと立ち上がった。それから、不安定な足取りだが、一歩、一歩、ゆっくりと、確実に私の方へ向かって歩み始めた。

 女性が、足を踏み出す度、忘れていた時間が巻き戻り、私たちは若返っていく。

 大切な約束を交わしたあの日、あの場所。沈みゆく夕陽に輝く彼女の涙。頬に伝わる柔らかな感触。そのどれもが大切な宝物のように輝き、温かな光で私たちを包んだ。

 そして、彼女は私の前まで来ると、優しい瞳で私を見上げた。

 艶やかな黒髪、ほんのりと赤い頬。凛とした表情だが、柔らかく微笑んだ口元。飾りっけはないが、無垢でいて美しい。真っ白なワンピースも良く似合っている。

 ああ、私は忘れていた。こんなにも愛し、愛された人のことを。

 私は、両手を震わせ、彼女をそっと抱きしめた。

 温かい。それでいて、華奢で、愛おしい。

 やっと会えた。もう忘れはしない。

 彼女を。思い出を。約束を。


——利伸


3月10日。雨。


 良枝が、また牛乳を買ってきた。

 冷蔵庫には、すでに三本もあるのに、何をやっているのだか。

 子供がいない私たちにとっては多すぎるだろう。

 

3月11日。曇り


 良枝が、また牛乳を買ってきた。

 「まったく何をやっているんだ。ばか者」と、さすがに今日は強めに叱った。

 本人は「ごめんなさい」と、悪びれた様子だったので、もう大丈夫だろう。

 冷蔵庫の牛乳は四本になったが、うち一本は賞味期限が切れてしまった。

 やれやれ。


3月12日。雨。


 明日は、良枝が友人と旅行へ行く予定になっている。

 普段であれば、前日から準備をしているのだが、今日はその様子はない。

 「明日、旅行に行くんだろう」と聞くと、「そうだったっけ?」と、完全に忘れていたようだ。

 最近は、テレビばかり見ているせいで、なまくらになっているのだろう。


3月13日。晴れ


 今日は、朝から大変だった。

 良枝には、昨日言ったはずなのに、今朝には旅行に行く事を忘れていた。

 急いで準備をして出て行ったが、あれでは間に合わないだろう。

 まあ、天気が良いことだけは、幸いだな。


3月14日。晴れ


 良枝は旅行中のため、いない。

 久しぶりに一人で家にいると、なんとも退屈だ。

 昼食は即席ラーメンで済ませ、夕食は車に乗って、前から気になっていた定食屋へ行った。なかなか美味かったが、七十歳になると、食が細くなってしまい、少し残してしまった。三十年前であれば、二人前は楽に食べられたのに。なんとも情けない。


3月15日。曇


 お昼過ぎに、良枝が帰ってきた。

 楽しかったらしいが、疲れた顔をしている。

 そのせいか、珍しく鍋を焦がしてしまった。

 遊び疲れるなど、とんだ怠け者だ。



——良枝


3月20日。雨のち曇り


 雨は、昼すぎに止んだけど、一日を通して空は暗く、重たい感じ。

 そのせいで、今日は、朝からなんとなく調子が良くない。

 家の冷蔵庫に、牛乳が四本あったのだけど、うっかり買ってきちゃった。

 利伸さんは、若い頃から毎朝牛乳を飲んでいたので、うちでは欠かさなかったけれど、さすがに多すぎね。


3月21日。雨。

 

 今日は一日を通して雨が降っていた。

 洗濯物が乾かなくて困っちゃうわ。

 

3月22日。晴れ


 マーケットからの帰り道が分からなくなった。

 きっと、いつも通る道で工事をしていたせいよ。そのせいで回り道をしたから分からなくなったんだわ。

 利伸さんには「遅い!」って、叱られちゃった。私のせいじゃないのに。


3月23日。晴れのち曇り


 今日は朝からもう大忙し。

 ごみの日をすっかり忘れちゃってて、利伸さんに「なんで忘れるんだ!」って叱られた。覚えていたんなら、やってくれればいいのに。


3月24日。晴れのち雨


 朝、お天気が良かったから洗濯物を干そうとしたけど、掃除をしている間に、洗濯機に入れたまま、忘れちゃっていた。でも、お昼前に雨が降ったから、外に干さなくて逆に良かったのかも。

それにしても、なんだか、最近物忘れが多くなってきた気がする。高齢者の仲間入りをしたからかな。


3月25日。雨。


 今日は、なんだか朝からやる気が出ないというか、身体がだるい。

 名前は忘れちゃったけど、パッチワーク教室のお友達が、「また一緒にやりましょう」って誘いに来てくれた。でも、「忙しいから」って、断っちゃった。悪い事しちゃったな。でも、もう細かい作業は面倒なのよね。



——利伸


4月28日。晴れ


 世間はゴールデンウイークということで、盛り上がっているようだが、定年を過ぎた私には関係のない事だ。

 仕事を離れてしまうと、何もやることがなくなるのだな。何か始めなければ、と思ってはいるが、何をしたらいいのやら。

 結局、家でごろごろしてしまう。


4月30日。晴れ


 良枝の体調が良くないようだ。

 昼食の際、食器をどこに仕舞ったのか、分からなくなってしまい、酷く混乱していた。次第に身体がピクピクと小刻みに震え出した。しばらく横になると、回復したようだが、原因は運動不足のせいだろう。


5月5日。晴れ


 良枝は、また食器がどこにあるのか分からなくなって、体調を崩した。

 きっと体力が衰えているのだと思い、「もっと運動しなさい」と、注意しておいた。


5月7日。雨。


 まただ。

 良枝は、また食器の場所が分からず、身体を震わせ、不調を訴えた。

 だから、運動しなさい、と言ったのに、寝てばかりいるからだ。

 やれやれ。


5月8日。雨。


 今日もだ。

 一度、医者に診てもらったほうが良いのだろうか。


5月10日。曇り


 ここ数日の良枝を見ていると、どうもおかしい。

 相変わらず、牛乳は無駄に買ってくるし、帰りも遅いときがある。

 ごみの日も全く覚えていないし、食器の位置も分からなくなっているようだ。

 本当に運動不足が原因なのだろうか。


5月20日。曇りのち雨。


 ついに問題が起きた。

 良枝がお昼前に買い物へ行ったのだが、なかなか帰ってこない。

 そして、ようやく帰ってきたのは、すっかり暗くなってからだった。しかも、警察官が一緒だ。

 何があったのかと驚いたが、帰り道が分からなくなった良枝は、随分と遠くまで行っていたらしく、雨の中、傘もささず、河川敷を歩いていたそうだ。

 そこに通りかかった警察官が声をかけ、保護してくれたそうだ。

 警察官からは医者に診てもらうようにと勧められた。


5月25日。曇り


 市内の総合病院へ受診に行った。

 医師からいろいろな質問をされ、採血やMRIを撮った。

 そして、受けた病名は「認知症」だった。

 良枝は、そのなかでも「アルツハイマー型」と呼ばれる最も比率の高いものらしい。

 まだ六十八歳だぞ。早すぎやしないか。

 さすがの私もショックだった。



——良枝


7月2日。雨

 

 随分と夏らしくなってきたけど、まだ梅雨は明けていないようで、雨が降り続いている。

 今日は、地域の支援センターから元木さんという女の人が来た。

 高校生のお子さんがいらっしゃるらしいのだけど、全然、そうは見えない。もっと若いのかと思った。

 愛想のいい人で、色々と生活の相談に乗ってくれるらしい。


7月5日。雨


 今日は、利伸さんが買い物に付き添ってくれた。珍しいこともあるもんだわ。

 いつもなら歩いて行っていたけど、利伸さんが車を出してくれたので、随分と楽ちんだった。ただ、「それはうちにある」とか、「それはいらない」とか、横から口出しするので、ちょっとうっとうしかった。


7月10日。晴れ


 ようやく梅雨が明けたらしい。

 今日は、支援センターの元木さんっていう女の人がうちに来た。初めて会ったと思ったけど、すでに一度お会いしているらしい。上手く話を合わせられたかしら。

 何をしてくれる人なのかよくわからないけど、生活で困ったことがあれば、相談するように言われた。愛想が良くて悪い人ではなさそうね。


7月15日。晴れ


 今日は、利伸さんが買い物に付き合ってくれた。一体、どうしたのかしら。珍しい。

 まあ、でも車を出してくれたから、楽でよかったけど。

 一緒に買い物に行くなんて、何年、いいえ、何十年ぶりかしら。



——利伸


8月3日。晴れ

 

 今日は、良枝の定期受診に行った。

 脳の萎縮は、あまり変わりないそうだが、認知症の症状は進んでいる。

 迷子になるから、買い物には、必ず付き添うようにしているし、家事は、料理以外は、もうできなくなっている。掃除や洗濯は、私が一応しているが、なんせ、今まで一切の家事を任せていたので、四苦八苦だ。

 ケアマネージャーの元木さんからは、ホームヘルパーの利用を勧められたが、本人はなんと言うか。


8月8日。雨。


 今日はゲリラ豪雨とやつで、大雨が降った。

 そのため、予定していたヘルパーは一時間遅れで訪問してきた。

 吉沢さんというヘルパーは、物腰柔らかで、好印象ではあったが、本人との折り合いはあまり良くなかった。

 というのも、良枝のなかでは、自分で全ての家事を熟している、と思っているらしく、ヘルパーの必要性を感じていなかったのだ。

 私の方から良枝に言い聞かせ、一応、来週も来てもらうことにした。


8月15日。晴れ。


 初めてのヘルパー利用から一週間が経った。

今日は、天候に恵まれ、ヘルパーの吉沢さんは時間通りやってきた。お盆なのに大変だな。

 良枝には、朝から、散々「お前は家事が出来ていない。ヘルパーが必要だ」と言い聞かせた。かなり落ち込んだ様子ではあったが、観念したのか、吉沢さんが来る頃には、大人しく寝ていた。

 次回も昼寝をさせればよさそうだな。慣れれば、回数も増やしてもらおう。


8月22日。晴れ

 

 今日も良枝には、昼寝をしてもらった。その間に、吉沢さんに来てもらい、テキパキと家事を済ませてもらった。

 来週からは週二回に、訪問回数を増やすことにした。


——良枝。


9月3日。曇りのち晴れ


 利伸さんに、「お前は家事が出来ない」と、強く言われた。

 あの人のために、私がどれだけ、家事に専念してきたか、わかっているのかしら。

 今だって、手足は不自由ないし、料理、洗濯、掃除、みんな私がやっているのに。いい加減な事言って。

 あまりのショックで、少し涙が出た。

 もう知らない。

 私は、そのまま横になって寝た。


9月5日。曇り時々晴れ。


 夜中に目が覚めた。

 トイレを済ませ、お布団に戻ったけど、眠れない。なんでかしら。


9月6日。晴れ。


 夜中に目が覚めた。

 なんでか、そのまま朝まで眠れなかった。


9月7日。曇り


 なかなか寝付けない。

 きっと三時間も寝てないわ。


9月8日。曇り


 とうとう一睡もできなかった。


9月9日。晴れ


 眠たい。

 今日は、朝から眠たい。なんでかしら。

 昼間も何度も寝たり、起きたりを繰り返した。

 そしたら、夜眠れなくなった。


9月10日。曇り


 今が何時なのか分からなくなってきた。

 朝なのか、昼なのか、夜なのか。

 だって、いつも眠たいし、適当に寝たり、起きたりを繰り返しているから。

 なんだか、頭がボーっとするわ。


——利伸。


10月1日。晴れ


 最近の良枝は、寝てばかりだ。

 そうかと思うと、夜は何やらいそいそと起きているらしい。寝室を分けて、十年以上経つので、何をしているのかは分からない。

 眠たいので、確認する気にもならないのだが。


10月3日。晴れ


 良枝は、日中は寝て過ごしているので、食事の用意がほとんどできなくなった。

 朝食は私がパンなどを用意し、昼間は出来合いの総菜を買ってくる。夕食は良枝が作ることもあるが、煮物を一品作る程度だ。

 なので、ヘルパーが来る日は、有難い。


10月5日。曇り


 今日は、良枝が珍しく、日中に起きていた。

 しかし、機嫌は良くないようで、私に何かと小言を言ってくる。

 「財布がない」「化粧品がない」「服がなくなっている」「あの女のヘルパーが盗ったんだわ」と、言ってくるので、私の方も、つい腹が立ってしまい、怒鳴ってやった。

 大概のものは、自分で仕舞った場所を忘れているだけなのに、人のせいにするとは、何事だ。


10月8日。雨。


 今日も良枝は機嫌が悪い。

 昼寝から起きると、何時なのか分からないようで、「朝ごはんは食べたの?」と私に聞いてきた。もう昼過ぎであることを伝えたが、いまいち理解していないようだった。

 最近は、昼に寝て、夜起きている生活をしているせいで、時間の感覚が曖昧になっているようだ。

 それから、ヘルパーの家事のやり方が気に入らないようで、グチグチと文句を言っていた。自分では何もできないくせに。


10月15日。晴れ


 良枝は、時間の感覚がズレているせいか、夜の九時頃に出掛けようとした。幸い、私はまだ就寝前だったので、玄関で引き留めることが出来た。

 その後もなかなか寝ようとしないので、「早く寝なさい!」と叱りつけてやった。

 まるで子供のようだな。


10月22日。晴れ


 今日も良枝が、夜に出掛けようとした。

 「お買い物に行かなくちゃ。あなた、明日の朝の牛乳がないでしょう」とのことだ。

 「今、何時だと思っているんだ!」と叱りつけると、メソメソと泣きながら、部屋に戻っていった。

 まったく、泣きたいのはこっちだ。


10月26日。雨


 今日は、天気が悪いせいか、夜に出掛けようとすることはなかった。その代わり、深夜に起きてきて、風呂場で何かをしていた。

 いちいち、構っていられないので、放っておいた。


10月27日。雨のち曇り


 朝起きると、風呂場に濡れたズボンと下着がおいてあった。

 どうやら昨夜、良枝が小便を漏らしたらしい。それで起きていたんだな。

 汚れた衣服は明後日、ヘルパーが来るので、とりあえず、洗濯機のなかに入れておいた。

 本人には、「小便を漏らすな!」と、叱ったが、良枝は当然のように覚えていなかった。それがまた腹立たしい。


10月29日。晴れ


 今日は夜の九時頃から大変だった。

 まず、良枝が買い物に行くと言い出し、それを引き留め、寝たかと思えば、深夜に起きてきて、小便を漏らし、衣服や布団を汚してしまった。自分で始末しようとしていたが、余計な仕事を増やすだけなので、「お前は触るな!」と叱りつけた。

 まったく、手のかかる奴だ。

 おかげで、私は身体が休まれない日があり、疲れが溜まってきている。


11月2日。曇り


 今日は良枝の定期受診の日。

 脳の萎縮は進んできたようだ。しかし、萎縮の程度の割には症状が強く出ているとのこと。また、昼夜逆転の生活リズムが問題だと言われた。夜寝るための薬と落ち着かないとき(夜中に家を出ようとするときなど)に飲む薬も頓服で出してもらった。

 その日、ちょうどケアマネージャーの元木さんから電話があった。先日、行った介護認定調査の結果、介護度が引き上げられたので、ケアマネが変わるそうだ。


11月10日。曇りのち雨


 新しいケアマネの毛呂さんという男の人が来た。毛呂さんは、地域の支援センターではなく、別の事業所のケアマネらしい。なかなか体格が良く、勢いのある人だ。

 良枝の生活状況を聞かれたので、答えると、幾つか新しい提案をしてくれた。

 ①ヘルパーを週三回に増やす、或いは、デイサービスを利用

 ②紙パンツを使用する。

 結局、デイサービスは、良枝が嫌がり、ヘルパーの回数を増やすことにした。

 紙パンツの件は、私から渡しても嫌がられるので、ヘルパーが来た時に交換することになった。



——良枝


12月3日。雨時々雪


 吉沢さんっていう女の人が来た。

 初めて会った気はしないが、よくも知らない人だ。

 私の代わりに、掃除や洗濯をしてくれるお手伝いさんらしい。そんなの必要ないのだけれど、利伸さんは「お前は何もするな」と怒るので、仕方なく、家事は任せることにした。

 吉沢さんは、帰るとき、私にトイレへ行くように勧めた。別にしたくもないけど、考えることも億劫なので、言われた通りにした。

 私は、いつの間にか、紙パンツを履いており、しっとり濡れていた。すると、吉沢さんが気を利かせて新しい紙パンツを渡してくれた。だけど、女性同士でも、おしっこを漏らしたところを見られるなんて恥ずかしいわ。


12月5日。雪


 今日は喜多さんという年配の女性が来た。

 この方は、少し勢いがあるというか、忙しない人だ。

 掃除、洗濯、料理をしてくれるのだけど、口調が荒くて、苦手だ。

 「お母さんは、あっち行ってて」と、私を邪険に扱う。一体、誰の家だと思っているのかしら。利伸さんも喜多さんの味方で、私を邪魔者扱いする。

 皆して、私を虐めるのだ。


12月10日。曇り


 ふと、買い物に行っていない事を思い出した。

 利伸さん、毎朝牛乳を飲むから買っておかないと、怒られちゃう。

 しかし、買い物へ行こうと思って、玄関へ行くと、利伸さんに怒られた。

 「どこに行く。今、何時だと思っているんだ!夜中だぞ」

 でも、牛乳がなくなったら・・・・。

 そうこうしているうちに、利伸さんが薬を持ってきた。それを飲むように言われた。正直、嫌だったけど、断るとまた怒るので、言う通りにした。

 薬を飲んでしばらくすると、なんだか眠たくなってきた。頭が働かない。


12月20日。雪


 目が覚めると、お布団の中にいた。いつの間に寝ていたのかしら。

 でも、眠たいからもう少し寝ていよう。


12月22日。雪のち曇り


 目が覚めると、お布団の中にいた。

 あれ。ここはどこかしら。家に帰らないと、利伸さんが待っているはずだわ。

 だけども、眠気が強くて起きられない。

 あの人、仕事の帰りが遅いから、まだ寝ていたっていいわよね。


12月23日。晴れ


 利伸さんが起こしに来た。食事だそうだ。

 言われる通りに、食卓へ行くと、総菜が並べられていた。もっと早く起こしてくれれば、私が作ったのに。

 味はよくわからない。なんだか、ボーッとするから食べるのも嫌になってきた。

 薬?とりあえず飲めばいいのね。

 あら。ここはどこかしら。

 ああ、うちか。

 食事の用意をしないと。

 「お前は座ってろ!」

 利伸さん、そんなに怒らなくてもいいじゃない。誰のために食事の用意をしようとしているのか、わかっているのかしら。


12月26日。曇り


 知らない女の人が来た。

 私の代わりに食事の用意や掃除をしてくれるそうだ。

 本当は嫌だけど、今日は、身体がだるいから、任せるわ。

 そういえば、お気に入りだったグレーのカーディガンがないわ。そうか、あの女の人が盗ったんだ。

 「馬鹿者。そんなことがあるわけないだろ!」

 利伸さんに告げ口したら、怒られた。

 なんで信じてくれないの。本当のことなのに。

 酷い。


12月28日。雪


 知らない男の人が来た。なかなか迫力のある人で、圧倒されちゃった。

 「良枝さん。何でも相談に乗りますよ!」だって。

 それから利伸さんと何か話をしていたけど、私には何を言っているのかよく分からなかった。男の人同士話が合うのかしら。



——利伸


12月28日。雪


 ケアマネの毛呂さんが良枝の様子を来た。

 良枝は、適当に話を合わせていたが、毛呂さんの事は覚えていないようで、とんちんかんなことばかり言っていた。

 「ヘルパーが物を盗っていく」だの、「私は三十歳」だの、「今日は暑いわね」だの、聞いているこっちが疲れてしまう。

 良枝の状態は悪くなる一方で、昼間は寝ているか、起きていても目が離せないので、大変だ。それにどれだけ注意してもすぐに忘れてしまうので、それが余計に腹立たしく、また叱りつけてしまう。

 主治医からは、あまり否定的なことは言わないように、と助言を貰ったが、気を付けているつもりでも、つい叱ってしまう。

 これが介護疲れなのかと、毛呂さんに相談すると、時には息抜きが必要です、と言われた。そこで、良枝は嫌がっていたが、デイサービスへ年明けから通わせることにした。


1月8日。雪


 正月は大雪が降った。

 それがなくても、外出は疲れるので、良枝を見ながら家に引きこもっていた。

 そして、良枝が今日からデイサービスへ行く事になっている。

 デイサービスには、朝九時に迎えが来て、夕方四時に帰ってくる予定だ。最近は、あまり入れていない風呂にも入ってきてもらうことになっている。

 準備は昨晩のうちに済ませ、朝から食事を摂らせて、慌ただしく支度をさせた。

 しかし、迎えの人が来たとき問題が起こった。

 「嫌よ。私はどこにも行かない。なんで行かなきゃ行けないの。だって、寒いじゃないの」

 良枝がデイサービスに行くのを嫌がったのだ。

 まったく、駄々をこねる子供のようだ。

 どれだけ説明をしても理解してもらえず、つい怒鳴りつけてしまった。そうすると、シクシクと涙を流しながら、大人しくデイサービスへ行った。

 毎回、これでは余計に疲れる。

 それに良枝が出掛け、いざ一人になると、デイサービス先で周りに迷惑かけていないか心配になったし、何より、家族の面倒もみられない自分が情けなく、後ろめたい気持ちになった。

 そのせいか、あまり休めなかった。


2月4日。雪時々雨


 あれから良枝はなんとかデイサービスに通っている。

 週二回行くのだが、時々、気分が乗らないと、嫌がって、暴れだす。私は、怒らないようにしているつもりなのだが、つい怒鳴りつけてしまう。そうすると、良枝は子供のようにシクシクと泣き、渋々、デイサービスへ行く。


2月6日。雨


 最近、良枝がトイレを失敗するようになてきた。

 一応、トイレには行っているのだが、ほとんど紙パンツ内に尿失禁している。しかも、尿失禁の回数が多く、ヘルパーだけでは間に合わないので、朝と寝る前は、私が替えている。

 しかし、小便のほうはまだいい。大変なのは、大便の方だ。二日一回の頻度で大便が出るので、なるべくヘルパーかデイサービスで対応してもらっているが、時々、夜中に大便を漏らしてしまう事がある。自分でも気持ち悪いのか、紙パンツを変えようとして、部屋中、便塗れになったことがある。あの時は、どうしようかと思った。

 頼むから、夜は大人しく寝ていてくれ。


2月10日。雨


 夕方になると、「うちに帰らないと」と、良枝が言い出した。

 「ここはお前の家だ」と、言ったが、理解できないようで、何度も注意していると、そのうちに怒って外へ出て行ってしまった。本当に勘弁してくれよ。

 良枝を一人で放っておくわけにいかず、私もついて行った。

 町内を一回りすると、納得したのか、うちに戻った。

 外はまだ雪が残っており、雨も降っていたので、非常に寒かった。


2月12日。曇り


 先日、良枝に付き添って、寒空の下、町内を歩いてきたせいか、私は久しぶりに風邪を引いた。

 幸い、すんなりと良枝がデイサービスに行ってくれたので、少しばかり休むことが出来た。しかし、大変なのは夜だった。

 「買い物に行くわね」と、良枝が言い出したのは深夜一時。

 アホらしいと思ったが、風邪のせいで、強く叱ることもできず、何とか良枝を引き留めようとしたが、  「あなたは、寝ていてちょうだい。すぐ帰ってくるから」と、良枝はひょうひょうと答えた。もういい加減にして欲しい。

 私は、重だるい身体に鞭を打って、力の限り大声を上げた。

 「馬鹿者!いいから早く寝ろ!この能無しが」

 良枝は怒鳴られたショックで、またシクシクと泣き、部屋へ戻って行った。

 それから三十分もしないうちにまた起きてきて、外に出ようとしたので、今度は、頓服の薬を飲ませた。 それからは落ち着いたのか、朝方まで眠っていた。


2月15日。晴れのち曇り


 私は、風邪をこじらせてしまった。そのせいで、まだ完全には治っておらず、身体が重だるい。

 今日はヘルパーの喜多さんが来てくれた。喜多さんの食事は美味しそうだが、口調はやや強く、良枝の苦手そうなタイプだ。

 喜多さんは、テキパキと家事を熟すと、きっちり時間通りに帰って行った。

 喜多さんが帰ると、良枝は食卓に来て、食事を摂った。今日は割と落ち着いているようだった。しかし、 やはり問題は夜に起こる。

 まだ昼夜逆転の良枝は、深夜一時頃になると、起き出し、外出の準備を始めた。

 「どこに行く」

 「今からうちに帰るの。連れて行ってくれる?」

 「ここがお前の家だ」

 「違うわ。あなたが連れて行ってくれないなら、私、一人で行くわ」

 また、このやり取りが始まった。

 こうなってしまっては、何を言っても聞かず、良枝には理解できないらしい。

 私は、仕方なく良枝について、町内を一回りした

 眠いし、だるいし。体調は最悪だった。


2月25日。晴れ


 ついに良枝が入院した。

 というのも、連日、夜に良枝が起きるせいで、私は睡眠不足に陥っており、うっかり昼寝をしてしまったのだ。その間に、良枝が家を出て行った。

 慌てて探しに行くと、家からそれほど遠くない場所で地面に倒れていた。

 どうやら側溝に足を引っかけて、転んでしまったようだ。

 自力では立ち上がる事ができず、酷く痛がったので、私もどうしたらいいのか分からず、救急車を呼んだ。

 市内の総合病院に運ばれた良枝は、検査の結果、右足を骨折していた。「大腿骨頸部骨折」という高齢者に多い骨折らしい。


2月26日。晴れ


 足の骨折の治療法は、手術をして、人工骨頭を入れるらしい。

 その手術も予定が埋まっているため、明日まで待つしかない。

 しかしながら、良枝にはそれが理解できず、痛みを堪えて動こうとするので、身体はベッドにベルトで固定されている。

 私は良枝が入院している間、家で休めるかと思ったが、環境が変わって落ち着かない良枝のために、昼も夜も付いていなければならなかった。

 これでは、家にいた時の方が幾らかマシだ。


3月4日。雨のち曇り


 先日、良枝の手術は無事に終了し、今日からリハビリが始まった。

 痛みは、それほど強くないようで、本人は骨折をしたことを忘れているくらいだ。

 主治医の話によれば、きちんとリハビリを受ければ、また歩けるようになるだろう、ということでひと先ずは安心した。

 しかし、きちんとリハビリを受ける、というのが、認知症の良枝には難しかった。


3月5日。曇り


 「いや、触らないで!」「あっち行ってってば!」「何するのよ!」

 着替えを取って、家から病室に戻ってくると、良枝が騒いでいた。

 リハビリ職員が、病室に訪れているのだが、良枝がリハビリを拒んでいるのだ。

 「寒い!」「私は眠たいの!」

 リハビリ職員は困り果てた様子で、看護師も駆けつけ、良枝を説得したが、一向に聞く様子はなく、布団をかぶって寝てしまった。

 昔は、あんな風に声を荒げる事なんてなかったのに。


3月7日。晴れ


 「お父さーん!お母さーん!」

 深夜に良枝が叫び出した。

 私は、少しでも良枝の不安を和らげられるようにと、夜も病室で寝泊まりしている。

 「おい、良枝。どうした」

 「お母さーん!お父さーん!」

 良枝には私の声が届かないようで、延々と叫び続けていた。

 看護師によれば、「せん妄」という幻覚などが見える意識障害の一種らしい。術後や環境が変わるストレスで生じるらしく、しばらくすれば治ります、とのことだった。しかし、尋常じゃない叫び声に、こちらがどうにかなりそうだ。


3月15日。曇り


 良枝のせん妄の症状は、まだ続いていた。

 そのせいで、私はほとんど眠れない日々が続いた。

 そんな折、病院の相談員の方から、退院の話をされた。

 まさか、こんな状態でうちに連れて帰れる訳がない。リハビリをきちんと受けてないので、まだ歩けないし、夜も叫ぶし、とても私の手に負えない。

 すると、転院してはどうか、と言われた。転院先は、リハビリ病院らしく、そこに行けば、歩けるようになるかもしれないとのことだった。

 ここでは全くと言っていいほど、リハビリを受けられなかったので、リハビリ病院へ転院してもきちんとリハビリを受けてくれるか心配だったが、僅かな希望にかけることにして、転院を承諾した。


3月20日。晴れ


 良枝がリハビリ病院へ転院した。

 正しくは、回復期病院と呼ばれるらしく、ここで約二か月間、リハビリを受ける予定だ。

 病院の造りは、今までいた総合病院の雰囲気とは異なり、木目調の床で、大きくとられた窓が明るく、モダンな印象だった。一瞬、ホテルかと思うほどだ。

 そんな病院らしくない雰囲気が、良枝には合っているらしく、転院初日は落ち着いていた。まあ、移動で疲れていたのもあるだろうが。


3月21日。晴れのち曇り


 リハビリ病院では、夜の付き添いから解放された。

 良枝の事は心配ではあったが、看護師が「大丈夫ですよ。お父さんも休んで下さい」と、言ってくれたので、それに甘んじた。正直、もう心身は疲弊し、限界だったので、助かった。


3月22日。雨


 車を廃車にしてしまった。

 病院からの帰り道、急に人が飛び出してきたと思ったので、ハンドルを切ったら、電柱にぶつかった。しかし、人影は私の見間違いだったらしく、実際には誰もいなかった。

 年のせいか。なんとも情けない。


3月24日。雨


 私は、何でもないところで、転びそうになった。

 それに最近は背中も丸くなってきた気がする。

 良枝の事ばかり構っていたので、自分の身体変化に気付けていなかった。

 それとも、リハビリ病院に良枝を預けたことで、気が抜けてしまったのか。


3月26日。曇り


 良枝の見舞いは、毎日欠かすことなく行っている。

 車は壊れてしまったので、仕方なくバスか、タクシーを利用している。正直、通うのには体力が必要だが、夜寝られる分、以前よりはマシだ。

 それと、少しばかり喜ばしい事があった。

 良枝がリハビリを受けてくれるようになってきたのだ。

 「こんにちは。今日も調子は良さそうですね」

 リハビリ職員が目線を合わせ、優しく微笑むと、「あら。こんにちは」と、良枝も少し笑う。

 夜間は、まだ眠れないときもあるようだが、総合病院にいた時のようなせん妄はなくなった。

 このまま、リハビリを受けて、回復してほしいと切に願う。


4月1日。晴れ。


 どうも、私の身体の調子がおかしい。

 だるいわけでもないし、どこか痛いわけでもない。しかし、なぜか、歩き難いのだ。

 足を一歩出そうとするが、思うように出せず、歩くのに時間がかかる。

 そのせいで、今日は良枝の見舞いに行くのを諦めた。

 寝れば治るだろう。


4月2日。晴れ


 私の体調は改善した。

 背中は丸いが、昨日よりは歩き難くない。

 今日は、良枝が入浴日なので、洗濯物を取りに行かなければならない。

 バスは段差があるし、バス停から歩く必要があるので、念のため、タクシーで見舞いに行った。

 良枝は、今日は穏やかで、訓練室では、平行棒を使って歩く練習をしていた。私は嬉しさのあまり、思わず涙が出そうになった。

 しかし、問題が起きた。

 その問題は、良枝ではなく、私に起きた。

 訓練室から病室に戻る際、平らな床面の廊下で、私は転んでしまった。幸い、怪我はなかったが、自分でも驚いた。いつの間にか、私の足腰は弱っていたのだ。

 私にもリハビリが必要かもな、と皮肉を自分自身に投げかけた。


4月4日。曇り


 不思議なことが起こった。

 病室で、良枝とリハビリの迎えを待っているときだった。

 ドアの入り口に、白っぽい服を着た少年が立っていたのだ。

 「ボク、どうしたのかな?」

 私が、その少年に話しかけると、良枝は不思議そうにした。

 「利伸さん。誰と話をしているの?」

 「誰って、そこに子供がいるだろうが」

 「どこにもいないけど?」

 認知症の良枝には、見えないのだろうか。

 視線をドアに戻すと、少年はいなくなっていた。

 間もなく、リハビリ職員が迎えに来たので、私は、先程の少年について、尋ねた。

 「さっき、小学生くらいの子供がいたんですけど、子供さんもここに入院しているんですか?」

 「いえ。ほとんどの方は高齢者ですよ。きっと、お見舞いの方のお子さんじゃないでしょうか」

 リハビリ職員が、そういうので、私は納得した。


4月10日。雨

 

 私はまたしても転んでしまった。

 やはり、足が出にくくなっている。しかも、歩幅が狭く、ちょこちょこ歩きのようだ。背中も随分と丸くなってしまった。動きも鈍い。

 良枝の身体は良くなっていっているのに、私の方は悪くなっている。

 困ったものだ。


4月12日。曇り


 また良枝の病室に少年がやってきた。

 しかし、良枝は気付いていないようだ。鈍感な奴め。

 「ボク、どうしたのかな?」

 私は、良枝の不思議そうな表情を気にせず、話しかけた。

 すると、ちょうど看護師が訪室してきた。

 「失礼します」

 「看護師さん。この子、どこの子かね?」

 「ん?」

 私の言葉に看護師は、首を傾げた。

 看護師にも少年が見えていないのか、或いは、ふざけているのか。

 無性に腹が立ったが、看護師は上手く話を合わせると、退室していった。


5月1日。晴れ。


 私の体調が良くなさそうだ、と看護師やリハビリ職員から受診を勧められた。

 確かに、前傾姿勢で、足が出にくく、転ぶことが増えてきたので、体調の悪さは自覚している。しかし、医者に診てもらうほどでもないだろう。


5月3日。曇り


 今日は、今後の良枝の事についての話し合いがあった。主治医、看護師、リハビリ担当者、相談員が参加し、怪我の状態などを説明してくれた。

 だが、なぜか話に集中することが出来ず、私は、内容の半分も理解できなかった。

 とりあえず、五月末を目途に退院しましょう、という事だった。

 

5月5日。雨


 また転んでしまった。

 今回は、今までよりも派手に転び、私は目の周りに青あざを作った。

 再び、受診を勧められ、今回ばかりは仕方なく、医者に診てもらうことにした。

 

5月10日。晴れ


 以前、良枝が入院していた市内の総合病院へ受診に行った。

 診断の結果「レビー小体型認知症」というものだった。

 この私が認知症?まさか。信じられない。

 なぜなら、昨日のことだってきちんと覚えているし、良枝のように訳の分からない事も言わない。なのになぜ・・・・・。

 良枝の状態が良くなっているだけに、自分の病の発覚の衝撃は大きかった。

 医師の話によれば、レビー小体型認知症の初期では、記憶障害がそれほど表面化しないとのことだった。代わりに幻視やパーキンソン症候群(体がこわばり動き難くなる症状。動作緩慢、バランス能力の低下、歩行障害など)がみられるのが特徴的だとか。また、集中力や注意力も低下し、調子の良い、悪い、を繰り返して、徐々に進行していくらしい。

 落胆した私は、良枝の見舞いに行かなくなった。



———良枝


5月11日。曇り時々雨


 今日は雨が降ったり止んだり。

 そういえば、洗濯物どうしたかしら。まだ干しっぱなしになっていないかな。ちょっと見に行こう。

 あれ。上手く、歩けないな。

 どうしよう、って思っていたら、女の人が来た。

 「あの、悪いんだけど、洗濯物入れないといけないの。ちょっと連れて行ってくれる?」

 「大丈夫ですよ。もう少しでお迎えが来ます」

 「そう。でも、それじゃあ、間に合わないかも。お願い」

 「わかりました」

 女の人は、単調な返事をすると、私を車いすに乗せて、お部屋の外に連れ出してくれた。

 それから廊下を一回りすると、交代で男の人がやってきた。

 あの人は、リハビリの人だわ。今からリハビリなのね。

 「こんにちは。今日も、調子良さそうですね。カーディガンの色も素敵です」

 「あら、そうかしら。ありがとう」

 私は、リハビリの男の人と一緒にリハビリ広場へ向かった。今日は何をするのかしら。

 そういえば、何か忘れているような・・・・。


5月13日。晴れ


 今日が何日かだなんて分からない。

 年を取ると、日付の感覚もなくなっちゃうのね。

 いつからここにいるのかわからないけど、私はリハビリセンターで、リハビリを受けている。

 足が悪いみたい。でも、なんでかしら。

 それにしても、利伸さんが心配ね。

 あの人、私がいないと、何もできないから。


5月15日。晴れ


 今日はいいお天気。

 リハビリ担当の男の人が、車いすに乗せて中庭に連れて行ってくれた。

 気持ちがいいわね。お花も綺麗。

 そういえば、利伸さん、どこに行っているのかしら。

 看護師さんに聞いても分からないって言うし、心配だわ。


5月20日。雨


 もうすぐで、リハビリセンターから退院するんだって。

 主治医の先生が言っていた。

 どれくらいここに居たかしら。随分と、長く居たような気がするわ。

 それにしても利伸さん、どこに行っちゃったの。


5月25日。曇り


 あら。利伸さんがいない。

 どこに行っちゃったの?


5月27日。曇り


 利伸さん。どこなの?

 私を迎えに来て。


5月28日。雨


 利伸さん、傘持って行ったかしら。

 心配だわ。


5月29日。雨


 利伸さん、いないの?


5月30日。雨のち曇り


 今日で、リハビリセンターは退院。

 でも、利伸さんは迎えに来なかった。代わりに、知らない男の人が迎えに来た。体格が良くて、迫力のある人ね。名前は、毛呂さんと言うらしい。「お久しぶりです」って言っていたけど、前に会ったことがあるのかしら。いちいち覚えられないわ。

 それにしても、私、これからどこに行くのだろう。毛呂さんは、「大丈夫。景色の綺麗なところですよ」と言ったけど。不安だわ。

 ああ。利伸さんに会いたい。


6月20日。晴れ


 朝、目が覚めると、知らない場所にいた。

 どうやってここに来たかわからない。ここどこかしら。

 身体を起こすと、ピンク色のポロシャツを着た女の人が部屋に入ってきた。

 「どうされましたか」

 「別にどうもしてないけど」

 「そうですか。もうすぐ夕ご飯なので、食堂へ行きましょう」

 夕ご飯?朝じゃないのね。

 それから女の人は優しく、私を車いすに乗せ、食堂へと向かった。

 食堂には、いろんなお年寄りがいた。

 女の人もいれば、男の人もいる。歩いている人もいれば、車いすの人もいる。それから、ベッドみたいな車いすで、口を開けたまま寝ちゃっている人も。

 私は窓際の席に案内された。

 大きな窓からは海が見え、夕陽が沈んでいく様子が綺麗だった。

 食事も割と美味しかった。

 悪いところではなさそうね。


6月25日。雨


 朝、目が覚めると、知らない場所にいた。

 「ここどこかしら?」

 部屋の明かりは消えていて、足元灯だけが点いている。薄暗いわね。

 私が身体を起こすと、間もなく女の人が部屋に入ってきた。

 「どうされましたか?」

 「私、うちに帰りたいんですけど。主人が心配していると思うので」

 「大丈夫ですよ。おうちの人にはちゃんと言ってありますから。ゆっくり休んで下さい」

 「そんなこと言われても。うちの人、何もできないから心配なの。タクシーでも呼んでくれるかしら」

 「今は、夜中の二時ですよ。こんな遅くには外に出られません」

 朝ではなかったのか。でも、時間なんてどうでもいい。

 利伸さんが心配だわ。

 私の中で、今まで感じたことがないくらいの焦燥感が湧き上がってきた。

 「私、ひとりでも行きます!」

 女の人が言うことを聞いてくれないので、私は無理やり立ち上がろうとした。

 そうすると、女の人は、仕方がないな、という表情で、車いすを持って来てくれた。

 女の人は、私を車いすに乗せると、外に出ることはなく、ぐるぐると、建物のなかを回り始めた。どこに向かっているのかしら。利伸さんのところへ早く行かないといけないのに。

 「早くしてよ!もう!」

 つい口調が荒くなった。私って、こんなに怒りっぽかったかな。

 女の人は、慌てることなく、私に薬を渡した。断ろうとしたが、これを飲めば、利伸さんに会えると言ったので、仕方なく飲んだ。

 しばらくすると、湧き上がる焦燥感は引いていき、眠たくなった。結局、利伸さんのところへは行けず、私は眠りに落ちた。


——利伸


7月1日。晴れ


 カレンダーを見ると、今日は訪問看護の人が来ることになっている。

 私は、いつの間にか一人暮らしをしていた。

 良枝がいつか帰ってくるかもしれないので、家を守ることが今の私の責務だ。

 訪問の看護師は、お昼過ぎに来た。

 血圧や体温を測って、薬をカレンダーにセットしてくれた。それから、私をトイレへ連れて行ってくれた。歩行器を使って、ゆっくりと歩く私を後ろから見守ってくれる。

 トイレが済めば、しばらく雑談をして、帰っていく。それが週に一回。ほかの日は、ヘルパーが私の身の回りの世話をするためにやってくる。どの人も親切だ。


7月5日。雨


 今日は体の調子が良くない。

 身体は重たく、動き難いし、気持ちばかりが焦っている。

 なんとも言えない不安や焦りが私を襲う。

 どうしたらいいのかわからず、私は横になるが、眠れるはずもなく、すぐに起き上がった。

 そして、こういう日は、決まって知らない子供が家に来る。

 白い服を着た少年。

 少年は何も言わないが、物欲しそうに私を見つめる。

 「ボク、どうしたんだい。お菓子あげようか?」

 でも、少年は夢から覚めるようにいつの間にか姿を消す。

 そのことをヘルパーや看護師に言うが、あまり関心がないのか、「へー」と、適当な返事をするだけだ。


7月15日。曇りのち晴れ


 今日は、ケアマネの毛呂さんが来た。

 「最近は、どうですか」

 「良くも、悪くもないね」

 毛呂さんは、いつも私の事を気遣ってくれている————気がする。

 というのも、毛呂さんが前にいつ来たのか覚えていないし、何の話をしていたかも覚えていない。辛うじて、毛呂さんという人物だけを覚えているのだ。

 「良枝さんは、お元気みたいですよ」

 「そう。そうれは良かった」

 私は、自分が認知症だとわかってから良枝の見舞いには行かなくなった。

 次第に歩くのもおぼつか無くなり、バスにはもう乗れない。タクシーを使っても一人で家を出る気にもなれない。

 今、良枝は、海沿いの老人施設に入居しているらしい。

 もはや私たちの意思ではない。そうするしかなかった。

 また二人で暮らしたい、そんな思いはとうに胸の奥底に仕舞った。

 

7月22日。晴れ


 今日は訪問看護師が来た。

 カレンダーに予定は書いてあったが、すっかり忘れていた。

 「最近、転んでないですか?」

 看護師は、私の腕にある青あざをみて聞いてきた。いつ出来たものか分からない。

 そもそも、昨日、いや、今朝何をしていたかもわからない。

 私の記憶は、徐々に崩壊を始めていた。


8月6日。晴れ


 もはや私には、日付の感覚も時間の感覚もなくなりつつあった。

 カレンダーを見ても今日は何日か分からない。時計を見る習慣はなくなった。

 毎日のように、少年は家にやってくる。

 何かを告げに来ているように見えるが、何を言っているのかは分からない。


8月下旬。


 看護師とヘルパーが交互に訪問に来る。

 私は、そのときだけベッドから起きて、トイレへ行く。

 食事は、ベッド横に設けた簡易テーブルで食べる。

 身体が重い。

 少年はいつも私の部屋にいた。何を言っているのか分からない。

 「何を言っている!」

 時々、大声を出すと、看護師やヘルパーが驚いた表情をする。

 「いい加減にしないか!」

 少年は怒鳴りつけても、部屋を出て行かなかった。


9月。


 歩行器を使っても歩くのが大変になってきた。

 パーキンソン症候群のせいだけではない。

 一日の大半を介護ベッドの上で過ごしているせいで、体のあちこちが弱っているのだ。

 そのため、最近は、訪問リハビリの人も来てくれる。

 固まってしまった私の関節を、優しく動かしてくれる。痛みはない。むしろ心地よい。

 歩くのは、訪問リハビリの時だけだ。

 しかし、私にはもう何のために歩くのか、分からなくなってきた。

 それから、毎日やってくる白い服の少年は、ある日、少女を連れてきた。

 くすくす。くすくす。

 二人で楽しそうに笑っている。

 やはり、何を言っているのか分からない。

 私は、それに苛立って、時々、大声を上げるが、訪問看護師やヘルパーはもう慣れたようで、私が声を荒げても驚くこともなく、作業を続けている。


10月。


 私がベッドから離れることはほとんどなくなった。

 訪問リハビリのときだけ、身体を起こし、ベッドの端に腰かけるが、それ以外は寝て過ごしている。トイレの際も、尿意は感じるが、オムツ内で済ませてしまう。まあ、いいや、という感覚もない。それが当たり前になっているのだ。

 ケアマネージャーと名乗る男の人が来た。名前はわからない。

 「そろそろ、自宅での生活が難しくなっていると思うのですが・・・・」

 男の人は、申し訳なさそうに言った。

 しかし、私はこの家を離れる訳にはいかない。

 理由は————分からない。

 ただ、なんとなく誰に何と言われようが、この家から離れてはいけない、という強い思いだけが湧き上がる。

 「私は、絶対にここを離れない!」

 私の強い意志に、男の人は困った表情をして、「また来ますね」と言い残して帰って行った。

 部屋が静かになると、子供の笑い声が響いてきた。

 くすくす。くすくす。

 相変わらず、白い服の少年と少女が部屋にいる。

 二人は部屋の隅でヒソヒソと話し合い、小さく笑っている。

 なぜだろう。その二人を見ていると、懐かしさを感じる。

 私はいつの間にか、涙を流していた。

 


11月。

 

 目が覚めると、薄暗い部屋でベッドの上に横たわっていた。

 ここがどこなのか分からない。

 手足は、僅かに動かせるが、関節はギシギシと鳴き、まるで錆びついた機械のようだ。

 当然のごとく、身体は起こすことはできなかった。

 仕方なく、小さく首を動かし、部屋を見渡すと、なんとなく見慣れた風景である事が認識できた。

 しかし、私は、ここで何をしているのか。

 その理由は、分からないが、なんとなく、ここを離れてはいけない、という強い意志が湧き上がった。

そうか。私は誰かを待っているのだった。

 誰を・・・・?

 思考はそこで、途切れ、部屋の隅で小さく笑い合う少年と少女が見えた。

 くすくす。うふふふ。

 ベッドに横たわる私を気にする様子もなく、二人は楽しそうだ。

 そして、不意に、二人の会話が聞こえた。

 「私の事、忘れないでね」

 「うん、忘れない。約束だ」

 二人は、額を寄せ合い、祈った。まるで、二人の出会いが永遠になるようにと。

 その瞬間、私の中の忘れていた感情が込み上げてきた。

 愛おしい———。

 涙が頬を伝い、過去の記憶が蘇ってきた。


 十二歳。

 海沿いの道を、僕の少し先を歩く少女は、艶やかな黒髪を翻して振り返った。そして、桜の花びらのように儚い唇が動き、僕に問いかける。

 「ねぇ、知ってる?忘れないようにする方法」

 僕は、夕陽に照られる少女の美しさに見惚れてしまったが、すぐに首を振って返事を返した。すると、少女は、嬉しそうに言葉を続けた。

 「あのね、感情を高ぶらせるんだって」

 「感情を高ぶらせる?どういうこと?」

 少女は、足を止めると、口元に指を当てて少し考えてから答えた。

 「えっとね。すごく嬉しいとか、すごく楽しいとか、って思うことかしら」

 少女は、この町の議員を務める頭の良い父から聞いたのだろう。

 「ふぅん」

 僕が興味なさそうに返事をすると、少女はいたずらっぽい表情で歩み寄り、真っ直ぐだが、優しさのある瞳で僕を見上げた。

 「ねえ、ちょっと屈んでくれない?」

 「べ、別にいいけど」

 少女の瞳に見つめられた僕は照れ隠しをしながら、少女の言う通り、少し屈み、背丈を合わせた。

 「じゃあ、そのまま目を閉じて。五つ数えたら、目を開けてもいいよ」

 「なんでだよ。まあ、いいけど」

 そう言って、僕は目を閉じ、数を数え始めた。

 1・・・2・・・3・・・

 そのとき、僕の頬に柔らかな感触が伝わった。一瞬だったが、温かく、優しい感覚で、初めは何の事かわからなかったが、それが唇の感触であることを理解すると、慌てて目を開けた。

 「お、おま、ぇ、何するんだよ!」

 恥ずかしさのあまり、僕は顔を真っ赤に染めた。

 頬に口付けをした少女も顔を赤らめ、上目遣いで僕を見た。

 「ねえ、嬉しかった?」

 「べ、べ、べ、別に」

 僕は顔を背け、嬉しさを誤魔化した。

 「じゃあ、嫌だった?」

 少女が不安そうに見つめるので、それも否定した。

 「い、嫌じゃないけど。ちょっと驚いただけ」

 「そう。じゃあ、感情が高ぶったんだよね」

 「そういうことに、しといてやるよ」

 それを聞いた少女は嬉しそうに笑った。

 「これで、私の事、忘れないね」



——良枝


8月6日。晴れ


 ここの食事は美味しい。大きな窓から見える海も素敵。

 同じテーブルのお婆さん達は、初めて会うけど、気が合うみたい。職員さんたちもみんな親切。

 だけど、何か物足りない。

 いつも胸の中にぽっかりと穴が開いているような空虚感が付きまとう。

 私、いつからここにいるんだろう。

 いつまでここにいるんだろう。


8月20日。雨のち曇り


 沈んでいく夕陽を居ていると、寂しくなる。

 私の居場所は、ここではない気がして焦る。

 でも、本当の私の居場所ってどこなの?

 その答えは、いつまで考えても分からない。

 そのせいで、イラついてしまい、つい強い口調になってしまう。

 「どこに行くんですか?」

 ピンクのポロシャツを着た女の人が私を引き留めた。

 「どこでもいいでしょ。私、行かないといけないの!」

 「どこにですか?」

 「そんなのわかんないわよ!!」

 なんで怒っちゃったんだろうって、後悔することもない。だって、怒ったことも忘れちゃうから。


9月


 もとより、私には日付の感覚がない。

 朝なのか、夜なのか、そんなのはどうでもいい。

 ただただ、気が焦って、どこかに行かなければと思うばかり。

 誰かが私を待っている。

 そんな気がしてならない。

 でも、誰が待っているのだろう。待ち合わせ場所はどこだったかしら。


10月


 お天気のいい日に、紅葉を見に連れて行ってくれた。

 いい気分転換になるかと思ったけど、バスの中から見るだけなので、少し物足りない感じ。

 引率のピンクのポロシャツの女の人は忙しない感じだが、一緒にバスに乗っているお婆さん達は楽しそう。

 私は、頬杖をつきながら、車窓の外に目をやった。

 綺麗に色づいたイチョウの木の下で、若い男女が手を取り合っていた。

 女性の唇が微かに動き、男性に何か語り掛けている。

 ここからでは聞こえるはずはないのに、私の耳に女性の声が聞こえてきた。きっとそれは、空耳だったと思うけど、確かに私の心を動かした。

 「きっと、会いに行きます」

 その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。

 気付けば、自然と涙が溢れ、忘れたはずの遠い過去の約束が蘇ってきた。


 十六歳。

 「あのさ、学校を卒業したら、俺、町を出ようと思う」

 私に足並みを合わせてくれていた先輩が、俯き加減で言った。

 私には、分かっていた。先輩が遠くの町へ行こうとしていた事を。

 ———俺、医者になりたいんだ。

 目を輝かせて、夢を語ったとき、既に私たちは離れ離れになる運命だったのだ。

 「・・・・うん」

 私は、消えそうなくらい小さな声で返事をした。

 分かっていた。分かっていたはずなのに、いざ言葉にされると切なさで胸が苦しくなった。

 先輩は、ちらりと私の顔を見ると、何かを感じたのか、呟くように言葉を発した。

 「えっと・・・・・その・・・・。ごめん」

 謝らないで。

 謝られると、余計に悲しくなっちゃう。

 そんなことを胸の内で思いながら、私はかぶりを振って答えた。

 「ううん。仕方ないよ。だって、先輩の夢のためだもん」

 「ああ。そうなんだけど・・・・ごめん」

 先輩は、悲しそうな表情で、また謝った。

 「なんで、謝るの?」

 「だって、お前。泣いてるだろ」

 自分でも気付かなかった。

 私の目からは、ポロポロと涙が溢れ出ていた。

 そのことに気付くと、余計に切なくなって、悲しくなって、先輩と離れたくない、という思いが強く込み上げてきた。

 私は袖元で止めどなく溢れてくる涙を拭った。でも、涙は止まる事を知らず、気持ちばかりが大きくなっていった。

 「ごめんなさい。私・・・・泣くつもりじゃ・・・なかったのに・・・・・」

 「ああ、ごめん」

 先輩は、また優しく謝った。

 「初めから・・・・・分かってたはずなのに・・・・先輩と別れるって・・・こと・・・・」

 「うん」

 先輩は、立ち止まってしまった私に合わせて、足を止め、向き合った。

 「でも・・・・やっぱり・・・・離れたくなくて・・・・一緒に居たいって思って・・・・」

 「俺もだ」

 先輩は、イチョウの木の下で、私をそっと抱き寄せた。

 私は、先輩の胸の中で泣いた。声を上げて泣いた。

 秋の寂し気な風が吹き、イチョウの枝葉を揺らした。少し肌寒い日だったが、先輩の胸のなかは温かかった。

 トクン、トクン。

 先輩の胸に顔を押し当てると、心臓の音が聞こえてきた。

 リズミカルで、優しい音色。

悲しさや寂しさといった冷え固まった感情を、少しずつ温め、溶かしてくれる。おかげで、高ぶっていた私の感情は、徐々に落ち着きを取り戻していった。

 ———大丈夫。また会えるよ。

 そんな言葉が聞こえてきたような気がした。

 泣き止んだ私は、ゆっくりと先輩の胸から離れ、互いに手を柔らかくつなぎ合わせた。そして、真っ直ぐに目を見つめ合った。

 「俺は、お前が好きだ」

 「はい」

 私も先輩が好き。

 背が高くて、真面目で、優しくて、でも、時々おっちょこちょいなところが好き。

 「今は遠くに行くけど、必ず、お前に会いに戻ってくる」

 「私も、きっと、会いに行きます」

 私たちは、離れ離れになる。今の私たちには、永遠とも思える距離。だけど、気持ちはいつもつながっている。そう、信じていれば、必ずまた会える。

 「俺の夢が叶ったら、そのときは結婚しよう」



——利伸


12月。


 目を開けると、明るい部屋にいた。

 知らない天井。

 ここは一体どこかのだろうか。

 「ああ、目が覚めましたか?」

 私のベッドの横にいたピンクのポロシャツを着た女の人が、顔を覗き込んできた。

 「おお、利伸さん。こんにちは」

 次は、体格の良い男の人が顔を覗かせた。

 「あの、毛呂です。昨日も来たんですけど」

 「もろ?」

 「はい、毛呂です。えっと、施設に入って、今日で一週間が経ちましたが、どうですか?少し慣れてきましたかね?」

 私はいつの間にか、「施設」というところに来たようだ。それも一週間前に。全く記憶はなく、どうやってきたのか、分からない。

 「うちは・・・・どうなった?」

 「ああ、おうちですか。建物の方は、古くて値段はつきませんでしたが、土地の方は幾らかで売れそうですよ。ですから、入居費用は心配しなくても大丈夫です」

 何を言っているのか、よく分からなかったが、もう私の家がなくなってしまった、ということだけは理解できた。

 なぜだろうか。

 それが分かると、とてつもなく寂しいというか、悲しい気持ちになった。

 私は、あの家で何かを待っていた。

 忘れてはいけない人。

 遠い日に交わした約束。

 そういった漠然とした記憶だけが蘇り、誰を待っていたのか、どんな約束を交わしたのか、肝心なことは思い出せない。

 そのせいで、どうしようもない苛立ちや焦りが込み上げてきた。

 さっきから、部屋の隅でコソコソと笑っている子供たちにも腹が立ってくる。

 「うるさい!何も言うな!」

 私は、思わず大声を上げた。

 「ひぃ」

 毛呂と名乗った男は、仰け反り、驚いた様子だった。別に驚かせようとしたわけではない。感情が抑えられなかっただけだ。だが、悪いことをした、という感覚はない。すでに私には、相手の気持ちを読み取る能力が失われているのだから。


——良枝


12月。


 窓際の席で、編み物をしていると、体格の良い男の人が私を訪ねてきた。

 「こんにちは。良枝さん」

 誰だったかしら。

 「あの、毛呂です。ケアマネージャーの」

 「ああ、毛呂さんね。お元気そうね」

 分からなかったけど、分かったふりをした。毛呂さんに失礼にあたるというより、忘れてしまった事を悟られたくない、という気持ちからだった。

 「ええーっと、実はですね、旦那さんの利伸さんも今日からここに入居されることになったんです」

 「あら、そうなの」

 どういう意味なのか、よく分からなかったけど、驚いてみせた。

 「それで、お会いになられますか?」

 「ううん。今はやめておくわ」

 「そうですか。私もそれがいいと思います。まだ、旦那さんも状況が良く分かっておられないようですし。落ち着いたら、お会いすると良いかと思います」

 「そう。なら、そうするわ」

 それで話は終わり、毛呂さんという男の人は、大きな手を振って、帰って行った。

 何の話だったのかしら。



——利伸


 眠れない日が続いている。

 正確には、私には時間の感覚がないので、眠れていないような気がするだけだ。

 そして、今日も部屋の隅で、少年と少女がヒソヒソと小さく笑い合っていた。

 あの二人は何を話しているのだろうか。

 耳を澄ますと、微かに言葉が聞き取れた。

 ———ねえ。あの人が待っているよ。

 ———そうだよ。一緒に行こうよ。

 私に言っているのか。そんな気がしてならない。そう思うと、どうしようもないくらいの焦燥感が湧き上がってきた。

 あの人に、会わなければいけない。待ち続けた彼女に。

 私は、二人の言葉に同意し、ベッドから起き上がろうとした。しかし、上手く起き上がることが出来ない。まるで、体中が鉄のように固まっているようだ。

 それでもベッドの柵をつかみ、なんとか身体を横に向けた。

 すると、視線の先に、部屋の出口が見えた。僅かに開いているドアの隙間からは、光が漏れている。

 そのとき、ようやく自分のいる部屋が真っ暗であることに気が付いた。

 「おーい、誰か、灯りをつけてくれ」

 掠れるような声で、誰か、を呼んだ。しかし、誰も来る気配はない。

 もう一度、声を上げようと思ったが、今の自分には力強い声は出せないと感じ、仕方なく、自力で出口へ向かうことにした。

 私は、錆びついた関節を力の限り動かして、ベッドから転がり落ちるようにして、床に降りた。床に降りた衝撃で、身体のどこかを打ったらしく、痛みを感じる。しかし、どこが痛むのかは分からない。足なのか、腰なのか、腕なのか。

 そんな様子を子供たちは気にする様子はなく、出口から差し込む光へと導くように手招きをしている。まるで、暗闇の世界に落ちた私を、二人の天使が希望の光へと誘おうとしているようだ。

 あの先へ行けば、私は救われる。

 あの先へ行けば、彼女に会える。

 ———こっちだよ。

 ———早くおいでよ。

 ああ、今、行く。

 私は、氷のように冷たい床を這って前に進もうとした。しかし、誰かが私の足を引っ張っているのかと思うほど、前に進めない。身体は強張り、関節が軋む。光は見えているのに、近づかない。

 それがなんとも歯痒く、辛かった。

 あの光の先に彼女が待っているのに。あれほど、愛おしく感じ、会いたいと懇願していた彼女が待っているのに、前に進めない。

 もがけばもがくほど、無情にも身体の自由が利かなくなっていく。

 私は悔しくて、自分が情けなくて、涙が出た。

 頼む。誰か、私を光の先へと連れて行ってくれ。

 そう願ったとき時だった。

 暗闇の世界に、強い光が灯った。私は、あまりの眩しさに、目を細めた。

 そして、軽い足音と驚いた声が響き、誰かが部屋に入ってきた。

 「あ、利伸さん!どうしたの。大変!」

 女の人の声だったが、私の知っている声ではない。

 目が明るさに慣れてくると、女の人の輪郭がはっきりとしてきた。ピンクのポロシャツを着た茶髪の女の人だった。やはり知らない人だ。女の人は、慌てた様子で私に駆け寄り、全身を見まわした。

 「どこか痛むところはないですか」

 痛みならもう忘れた。それよりも———

 「私を、部屋の外へ連れて行ってくれ」

 誰でもいいから、彼女に合わせてほしい。私は、その一心だった。

 私の言葉を聞いた女の人は困った表情をしたが、私に大した怪我がないことを確認すると、その華奢な体つきからは想像もできないほどの腕力と巧みな体裁きで、私を車いすに乗せてくれた。

 「眠れないんですね」

 そう言って私を光の先へと連れ出してくれた。



——良枝


 今日は、眠れない。

 目を開けて、部屋を見渡してみるが、既に消灯しており、その様子を窺い知ることはできない。また、消毒液と排泄物の臭いが混じり合い、私の鼻を刺激する。それが、ここが自分の家ではない事を実感させてくれる。

 じゃあ、ここは一体どこかしら。

 私は体を起こし、ベッドに腰掛けた。

 親切にもベッドには柵が取り付けてあり、身体の動きが鈍い私でも容易に起き上がることが出来た。

 私はそのままベッドの柵を利用して、立ち上がったが、そこから初めの一歩がなかなか踏み出せず、歩くことはできなかった。

 すると、私が困っているのを察知したかのように、ピンクのポロシャツを着た女の人が入ってきた。

 「良枝さん。どうしたの。もう寝る時間ですよ」

 「ああ、ちょうど良かった。私を部屋の外に出してくれない?」

 「えっと、もう寝る時間なので、寝ていて下さい」

 そう言われると、なぜか反抗心が芽生えてしまう。

 「いいから、私を部屋の外に出してちょうだい」

 「もう皆さん、寝ていますよ。良枝さんもどうぞ休んで下さい」

 女の人は、別に私の悪口を言っているわけではないのだが、なぜか自分を否定されているような気分になり、だんだん腹が立ってきた。

 「知ってるわよ!もう!私、一人でも行くわ」

 そういうと、女の人は呆れた様子で、車いすを用意してくれた。

 初めから、そうしていたら良かったのに。

 私が車いすに腰掛けると、女の人は、私を連れて部屋の外に出た。

 廊下は薄っすらと明るかった。窓の外はすでに闇夜に覆われているので、蛍光灯の人工的な明るさだ。

 「どこに行きたいんですか?」

 車いすを押してくれる女の人は、面倒くさそうに聞いてきた。

 私は、少し考えてから答えた。

 「この廊下を真っ直ぐ進んで」

 理由はなかった。ただ、なんとなくこの先に何か———いえ、誰かいるような気がしたからだ。それも私の知っている人が。

 車いすが進む度、スリッパの軽い足音が廊下に響いた。音がよく響く白い廊下は、静かでどこまでも続いているように見えた。そして、その先にいる誰かに会いたいという思いが、徐々に膨らんでいった。

 いつも感じている焦りや悲しみではない。むしろ、期待と希望を感じる。

 ———やっと会える。

 私の中で、その言葉が浮かんできた。

 そうか。この廊下の先で、あの人が待っているんだわ。

 遠い昔に離れ離れになったあの人。

 私の大切なあの人。

 いつの間にかスリッパの音は重なり合っており、廊下の向こう側からも誰かが近づいてきていることに気が付いた。

 正面を見ると、車いすに乗った男性が、こちらに向かってきていた。

 そして、互いの車いすが押され、近づいていく度に、その輪郭がはっきりとしてくる。私には、その人が誰なのか、すぐにわかった。

 白髪ばかりの頭になっちゃったけど、短く切り揃えられた髪型は昔のままだし、深い顔のしわは、あなたの真面目な性格を表しているみたい。背中は随分丸くなったけど、肩幅からあなたの背が高いってことがすぐにわかるわ。それから、いつまでも輝くようなその瞳には、少年っぽさが残っていて、とても懐かしい。

 「ここで、止めてちょうだい」

 私は、車いすを押してくれていた女の人に声をかけ、車いすを止めてもらった。すると、向かいの車いすも私から二メートル先で止まった。

 あとは自分の足であの人のところまで行きたい。

 たった二メートル。わずか二メートル。

 手を伸ばせば届きそうな距離にあの人がいる。

 かつて、幼い私たちにとって、永遠とも思えた距離は、残りあと僅かとなった。

 私は、お腹に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、初めの一歩を踏み出した。



——利伸。


 車いすに乗せてもらい光の先へと連れて行ってもらった私は、今、白い廊下をひたすらに進んでいる。

 軽い足音だけが響く廊下は、どこまで続いているのだろうか。

 しかし、いずれは彼女のもとに辿り着くだろう。

 根拠も理由もない。すべてを失いつつある私の感性は研ぎ澄まされており、直感的にそう確信しているのだ。

 そして、いつの間にか、天使のような子供たちは姿を消しており、私は運命に導かれるように廊下を進んだ。

 気付けば、足音は二つになっており、その和音が心地よかった。

 丸まった背中を無理に起こして、顔を上げれば、白い廊下の先から誰かが近づいてきていた。それは、車いすに乗った女性だった。

 ああ、ようやく会えた。

 まだ輪郭はぼんやりしていたが、それが誰なのか、すぐに分かった。

 やはり、私の直感は正しかった。

 光に導かれた先に、私の求め続けた人がいた。

 白髪交じりの髪やすっかり垂れ下がった目じりや頬は、膨大な時の流れを感じる。しかし、その優しい瞳は、どれだけ時間が経っても変わらない。

 私たちの車いすは、二メートル程の間を開けて止まった。

 あと、二メートル。

 だが、今の私にはどれだけ時間をかけてもその距離は縮められない。

 すると、向かいの女性の方が立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 「悪いけど、私も立たせてくれないか」

 私は、車いすを押してくれた茶髪の女の人に、気の毒そうに声をかけた。女の人は、静かに頷き、私の腰をもって、そっと立たせてくれた。

 腰は鉛のように重く、細枝のような足はがくがくと震えた。だが、自分の足で立って、彼女を向かい入れたい。そして、この手で優しく抱きしめたい。

 その想いが私に力を与え、膝を強く伸ばし、腹に力を込め、立った姿勢を維持した。

 女性の方は、一歩、一歩、ゆっくりとだが、確実に私の方に歩み寄ってきた。

 女性が一歩足を踏み出すごとに、遠い記憶が蘇り、私たちを若返らせる。

 約束を交わしたあの日、あの場所。そのときの甘くも切ない空気感。そのどれもが懐かしく、愛おしい。

 あと、一メートル

 白い世界には、もう私たち二人だけになった。

 光に満ちた世界。そこに私と彼女だけが存在している。

 あと、五十センチ。

 彼女の足取りは、もうしっかりとしており、私の足も力強く地面に踏ん張っている。

 私たちは、あの日の姿まで戻り、彼女の艶やかな黒髪やさくらんぼ色の頬に見惚れてしまう。そして、凛とした表情のなかにある優しい瞳に見つめられると、胸が熱くなる。

 あと、十センチ。

 ついにこの時が来た。

 あの日から何年経っただろうか。

 どうして、私は忘れていたのだろうか。

 これほどまでに愛し、愛された人の事を。

 もう忘れない。

 彼女も。思い出も。

 彼女は私を見つめた。

 私は、震える手で彼女をそっと抱き寄せた。



——良枝。

 

 ついにこの時が来た。

 先輩が、町を出て、私たちが離れ離れになって、どれほどの時間が経ったのだろうか。

 今は、私たちを隔てるものは何もない。

 やっと会えた。

 やっと約束を果たせた。

 私は、顔を上げ、先輩の目を見つめた。

 相変わらず真面目な顔ね。でも、そこが好き。

 先輩の顔を見ると、途方もない時間を積み重ねて溜まっていた涙が溢れ出し、頬を伝っていった。

 あの時は、先輩と離れるのが寂しくて泣いた。でも、今は、先輩に会えて嬉しくて泣いている。こんなに素敵な涙があるかしら。

 先輩は、私を優しく抱き寄せた。

 トクン。トクン。

 心地よい心臓の音は、あの日のまま。リズミカルで、優しい音色。

 ああ。本当に会えたんだ。

 嬉しい。

 先輩、好き。



——利伸。


 ———これで、私の事、忘れないね。

 そう言った彼女に私はなんと言葉を返しただろうか。

 彼女と再会したことで、失われていたはずの記憶が、湧き上がるように蘇ってきた。


 十二歳。

 水平線の向こうに沈みゆく夕陽を眺めて、僕は誓った。

 「忘れるものか。だって、俺は、お前が好きだからな」

 その瞬間、彼女は驚いた表情をしたが、すぐに耳まで顔を赤らめた。しかし、その目からは一筋の涙が零れ落ちた。それでも彼女は、笑顔を作って言った。

 「でも、私、どこか行っちゃうかもよ」

 「だったら、俺が見つけてやる。どこに居たって、どれだけかかったって、必ずだ」

 僕が力強く言うと、彼女は嬉しそうに笑い、更に涙を流した。

 「嬉しい」

 彼女の涙は美しかった。夕陽が反射し、まるで宝石のように輝いた。

 僕は、今、この瞬間が永遠に続けばいいのに、と思った。

 二人だけの時間。まるで、世界に二人だけしかいないようだった。

 しかし、まだ幼い僕らにも、この時間は永遠には続かないと分かっていた。時は無情にも過ぎていき、現在は、いずれ過去になり、思い出になる。

 忘れるものかと、どれだけ強く願っても、いずれは、忘れてしまう日が来るかもしれない。

 だけど、きっと思い出す。

 彼女の事を。

 彼女との思い出を。

 彼女との約束を。

 そう。約束を誓った彼女の名前は———。



——良枝。

 

 ———俺の夢が叶ったら、そのときは結婚しよう。

 先輩の想いが込められた言葉。

 一つ一つの文字は、意味をなさないけど、文字が集まり、言葉になると、意味を成し、想いが込められる。そして、その言葉に私は感動し、胸が熱くなった。


 十六歳。

 私は先輩の言葉を聞き受けると、静かに頷いた。

 先輩は、優しくつなぎ合わせた手に力を込め、嬉しそうに笑った。いつもは真面目で、固い表情をしているけど、こういう時は、子供みたいに無邪気に笑う。いつも輝きを失わない瞳も子供みたいで可愛い。

 「良枝。俺、絶対に夢を叶えて、一人前の大人になるからな」

 「うん。私も先輩に見合うような女性になる」

 しかし、先輩は微笑みながら、首を振った。

 「いや。良枝は、今のままでいい。俺は、今の良枝が好きなんだ」

 思わぬ言葉に、私は恥ずかしくなり、顔が熱くなった。でも、嬉しかった。それから先輩は改まって言葉を続けた。

 「それとさ。もう先輩って、呼ばなくていいよ」

 「じゃあ、何て呼べばいいの?」

 「普通に名前で呼んでよ」

 「わかったわ」

 私は、小さく頷いた。しかし、初めて会った時から、ずっと「先輩」と、呼んできたので、今更名前で呼ぶのは照れくさかった。

 私の好きな先輩。

 私を好きな先輩。

 私は、イチョウの香りを運んでくる優しい風に乗せて、先輩の名前を呼んだ。

 先輩の名前は————。



———利伸、良枝。


 彼女は、私よりも二つ年下の近所の幼馴染。

 先輩は、初めて好きになった同じ高校に通う二つ年上の先輩。

 彼女の名前は、「恵子」。

 先輩の名前は、「誠さん」。

 私たちが、初めて恋をした人。


 誰にだって、忘れられない恋がある。

 しかし、その相手が、生涯を共にした相手とは限らない。


おわり。



認知症の主な症状は、記憶障害です。そして、一般的に記憶は、新しいことから忘れていき、比較的、過去の記憶は残っているものです。それが感情を揺さぶられるような印象的な出来事であれば、尚更の事です。

そして、記憶が失われていくと、今が何日の何時で、自分はどこにいて、何者なのか、徐々に分からなくなっていきます。また、友人や家族の認識も曖昧になっていくことでしょう。そんな自我が失われていくような恐怖と不安のなか、唯一の事実である過去の記憶にすがりたくなるのだと思います。

なので、利伸も、良枝も結婚相手である互いの事を徐々に忘れ、過去の想い人を思い出すのです。そして、互いの認識が曖昧になり、想い人と重ね合わせ、誤りの再開を喜び合ったのです。それが二人にとって、幸か不幸かは、わかりません。

また、この話には、二人を支える色々な職種の方にも登場してもらいました。仕事内容は若干、リアルと差異があるかもしれませんが、お許し下さい。

最後に、私の作品を読んで頂き、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みごたえがありました。認知症のリアルな感じを描写しながらも、ラストには夫婦の絆が……という話かと思っていたため、良い意味で裏切られました。とても自分好みの作品です。
[良い点] 最後そうきたかぁぁと、ちょっとびっくりしました。けっこうデカくて難しいギミック使ってるにも関わらず破綻はないですし。 読了後、なんともいえない哀愁が感じられた。最後の数行が唯の綺麗なご都…
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