幸せに続く道
朝。
まだ日は出たばかり。
肌に当たる風は冷たく、
吐く息は白く。
サクッ、サクッ、サクッ、サクッ。
新雪を踏みしめ、
ひとり、駅への道を歩く。
靴の中のつま先がちょっと痛い。
少し憂鬱。
左右に続くブロック塀。
住宅街。
私以外、ひっそりとしている。
取り残された道祖神を横目に、角を曲がり、
今日は白髪の、赤いポストを通り過ぎ、
少し歩いて、
私は顔を左に向ける。
門の向こう。
2階建て。
軒の下。
原付きバイクの黒いシート。
まんまるで座る、黄色い目の黒猫。
脚の先を体の下に隠し、
静かに私を見ている。
少し幸せ。
道の突き当たりの、階段の上に出る。
遥か向こう、
空と大地の間は、輝くようなオレンジ色。
遠方に見える、黒いシルエットの高層ビルたち。
今日も良い景色。
少し幸せ。
階段を、滑らないよう注意しながら下りていき、
また、住宅街を歩き、
やがて、ガードレールのある、
少し広めの道路に。
信号を渡り、
その先の、緩いカーブを曲がると、
垣根の上に張り出す、茶色い枝が見えてくる。
梅の枝。
堅い表皮に小さな蕾が、
滴のように、いくつも付いている。
あと少ししたら、
また白い花を見られるに違いない。
足取りが僅かに軽く。
少し幸せ。
道を歩く人が増えてきた。
マフラーを揺らす、制服姿のどこかの学生。
通勤カバンを片手に提げた、ベージュのコートの会社員。
車の音。
段々、大きく。
やがて、いつもより少し遅いスピードで、
私を追い越していく。
何となく、ナンバープレートに目を。
3425。
34は、好きな野球選手の背番号。
25は私の誕生日で、こっちも好きな数字。
少し幸せ。
だいぶ駅に近付いてきた。
私は歩きながら、道端の色々なものに目を向ける。
街路樹。
店の看板。
ちょっと弛んだ、頭上の電線。
ここら辺には、まだ好きな風景が無かった。
見付けられたら、
今より、きっと少し幸せになれる。
だから探す。
今でももう、だいぶ幸せだけれど、
もっと幸せになりたい。
だから探す。
でも、そうやってあちこちをキョロキョロしてると、
ちょっと楽しい。
だから見つからなくても、少し幸せ。
世の中に好きなものがいっぱいある人は、たぶん幸せだし、
逆に嫌いなものばかりな人は、
たぶん、そうじゃないんじゃないような気がしてる。
悲しいことやツラいことがあって気落ちする日々が続くときは、
身の回りに、自分の好きなものを新しく作ってみると、
きっと少しだけ、幸せになれるんじゃないかなぁ・・・。