第七話 奥義パーティードレス剣
ソフィアは、パーティードレスを着るのが、とても嫌なようです。
ああ~、鬱じゃ。
死にたい・・・
わるいな、今はほんとうにそんな気分なのじゃ。
じつは今日、わしの初お目見えパーティーがあるのじゃ。
今までは、嫌じゃと言って後回しにしてきたのじゃが、いつまでもそんなことはできなかったのじゃ。
母が、もう許しませんよ、と言ってきたのじゃ。
わしとしても、そんなことはわかってる。
じゃが、ひとつだけどうしても、嫌なことがあるのじゃ。
それは、ひらひらのドレスを着る事じゃ。
わしの普段着は、特注のズボンなのにじゃ。
わしは、母に聞いてみた。
その時の答えはこうじゃ。
「母よ、やっぱりドレスを着なければいかんのかのう」
「ドレスなんてあたりまえです。ソフィアあなたって子は・・・」
あの時の母の顔を思い出すと、もうなにも言えなんだのじゃ。
うう~、これもあの馬鹿天使のせいじゃ。
「うわ~っ、綺麗なドレス。これ、おじいちゃんが着るの?」
馬鹿が来おった。
「そうじゃ、わるかったな」
「わるいだなんて。ソフィア姫ならきっと似合うよ」
この人の気も知らぬ馬鹿が。
ソフィア姫はわしのことじゃ。
じゃが、わしの本性はただの爺じゃ。
似合う似合わないの話じゃないのじゃ。
「あっ、だれか来る。じゃあねぇ~」
とうとうこの時がやってきてしまったのじゃ。
あの、禍々しいドレスを着る時が。
わしは、まるで着せ替え人形のように、メイドたちによって着替えさせられたのじゃ。
「とてもかわいいですよ~姫様」などと、皆が口をそろえて言ってくるのじゃ。
ティアまでもが。
「お似合いですよ、姫様」
な、泣けてくる。
そして、お目見えパーティーが始まった。
「よく集まってくれた。二人の娘を紹介しよう。長女のソフィアと、次女のリンダだ」
や、やめてくれ父よ。わしは早くこの場を立ち去りたいのじゃ。
しかし、父の長話はなかなか終わらず、終わったころには、わしは腑抜けのようになってしまったのじゃ。
「ソフィア大丈夫か」
「向こうの椅子にでも座ってろ」
「す、すまぬ。兄よ」
あまりにも呆けていたのか、二人の兄が心配してやってきたのじゃ。
わしの性格を、よく知る二人の兄が。
この二人に、心配されるような日が来るとは・・・
暫く座っていると、ティアがやってきたのじゃ。
「姫様、お水です」
「ありがとうなのじゃ」
さすがティアなのじゃ。
わしのことを一番わかっとる人間なのじゃ。
うむ、ドレスを着るのは嫌じゃが、パーティーを眺めるだけならなかなか良いものじゃ。
可愛い女の子が、あちこちにいるのじゃ。
さすがに、皆が皆どこかの爵位もちの、ご令嬢じゃ。
じゃが、わしとて負けてはおれぬ。
じゃから、パーティーに出る代わりにあることを、母にお願いしたのじゃ。
それは、ティアやメイドたちにもドレスを着てもらうことじゃ。
母は、ちょっと渋々じゃったが、父はノリノリで賛成してくれた。
それだけではない。
これからの、王室主催のパーティーは、メイドたちもドレスを着ることになった。
父の奴も、やはり男という事じゃの。
「あの~、姫様、私たちまでドレスというのは、ちょっと・・・」
「とてもかわいいから、いいのじゃ。ティアたちは、立ってるだけでもいいのじゃ。」
「でも~・・・」
「執事長も、今日は楽しむように言ってたじゃろ」
「それはそうですが」
「あとは、執事たちに任せとけばいいのじゃ」
執事長のマーロンは、男のくせにというか、男だからこそというか、意外と気の合うじじいじゃ。
まあ、今日はここでやけ食いしながら、女たちでも眺めるとするか。
「わるいがティアよ、何か食い物でも取ってきてくれんかの」
「分かりました姫様」
おっ、なぜかあそこにはいい女が、集まっておるな。
おお、真ん中におるのは、ダラス兄ではないか。
なかなかやるもんじゃな、あやつも。
ん、あっちには、少しばかり残念な女が集まっておるの。
あれは兄グレンか。
じゃが、どちらの兄も、少しばかり迷惑な顔をしておるの。
ま、まさか、好みの女が反対という事か。
それでも相手をしなければならぬとは、王子の仕事も大変じゃな。
「姫様、食べ物を取り分けてきましたよ」
「ありがとうなのじゃ。わしのことはもういいぞ。向こうでおしゃべりでもしてくるのじゃ。」
「わかりました」
わしは、向こうのほうが騒がしいので、ティアがいこうとしたのを、わしは止めたのじゃ。
「ティアよ、あれはなんだ」
「気づいてしまいましたか。何処かのご子息がメイドにドレスなどもったいないと、ケチをつけているのです。」
「ティア、これを頼む」
わしは、取り皿をティアに渡すとそれに向かって走っていった。
「やめんか、どこぞのバカ息子が!メイドはすべてわしのものじゃ。文句があるならわしが聞いてやる」
「そうですか、それではメイドにドレスを着せるのをやめてもらいたい」
そのとき、おくれて兄たちもやってきた。
あにたちは、何か思惑があるのか、それを止めようとはしなかぅた。
「それは出来ない話じゃ。それでも、お前の意見を通したければ、わしと勝負しろ」
「ははは、勝負ですか。神経衰弱でもやるというのですか、姫様」
「何を軟弱なことを言っておる。勝負と言えば、剣に決まっておろうが」
そのことが聞こえた王妃は、
「や、やめ」
辞めなさいと言おうとした、王妃を王が止めた。
王は、王子たちからソフィアの剣の腕前を聞いていた。
そして、王自らが勝負の掛け声をかけたのじゃ。
「これは、余興じゃ。相手を殺したりはしてはならぬ。いいな、それでははじめ!」
バカ息子は、普通の剣を、ソフィアはレイピアを選んだ。
バカ息子は、負けるはずがないと、思っていたのだろう。
こんな小さな小娘ごときに。
だが、勝負はあっけなくついた。
「負けました~許してください」
「ちっ、もっと穴をつけてやるつもりじゃったのに」
バカ息子は、急所を突かれはしなかったものの、それ以外をめった刺しにされて血まみれだった。
執事長はこれを見て思った。
さすが姫様。
王女ではなく、王子だと思えば頼りになるおひとだ。
まだ、小さな子供だというのに。
執事長は、ソフィアのことを女の子ではなく、男として見ていたのだった。
小さな女の子がこれだけ強いという事は、他の王室の人間はどれだけ強いのかと、その場に居合わせた人間は、そう思ったでしょう。