第四話 はじめてのことば
元極道のソフィア姫は、とても悩んでいます。
みなさん、お元気ですか。
・・・
ぐわ~っ!
やめじゃやめじゃ!
恥ずかしすぎるのじゃ~!
ん、見たなお主。
まあいい。
わしはいま、悩んでおるのじゃ。
「ソフィアちゃん、ママでちゅよ~よんでごらんなちゃい」
呼べるか~!
この、わしの母はどうやら、ママと呼ばせたいらしい。
じゃが、わしはこんなこっぱずかしい事は出来ぬ。
じゃからこのさき、このわしの母のことを何と呼べばいいか、悩んでおるのじゃ。
わしを生んでくれたことには、感謝はしているのじゃ。これでも。
女に生まれたこと以外は。
しかしじゃ、それはこの母には関係ない。
すべて、あの馬鹿天使が悪いのじゃ。
おっ、すまぬ。
呼び方は今のうちから、考えておかなくてはならんじゃろう。
赤子など、あっというまに喋り出すに決まっておるのじゃ。
「様子を、見に来たよ~」
どうやら、馬鹿天使が来たようじゃ。
「どうしたの?難しい顔してるよ。でも、赤ちゃんの顔だからかわいいけど」
「お主か、今悩んでおるところじゃ」
「何を悩んでるの?」
「このわしの母を、どう呼ぶかで悩んでおるのじゃ」
まあ、この馬鹿天使に相談しても仕方がないじゃろうが、話し相手にはちょうどいいのじゃ。
「どう呼ぶって、ママでいいんじゃない」
「いや、わしはそんな軟弱な呼び方したくはないのじゃ」
「それじゃ、お母さまは?」
「それは、わしが恥ずかしいのじゃ」
「めんどくさっ」
めんどくさいじゃと。
わしにとっては、めんどくさいどころか、大事なことじゃ。
わしを生んでくれた母のことじゃからな。
この、馬鹿天使が。
「じゃあさ、普通におかあさんでいいんじゃない」
「それも考えたがな、一応わしは王女で、母は王妃なんじゃろ」
「それもそっか・・・これはどう、母上」
「そいつも考えた。じゃが、しっくりこん」
馬鹿天使が考えたやつは、どれもわしが一回は考えたことがあるやつばかりじゃ。
使えないやつじゃ。
さすがに、かあちゃんとは呼べぬしなぁ。
かあちゃんか。
昔は、よく怒られたものじゃ。
喧嘩をしては、頭をひっぱたかれたものじゃった。
「おじいちゃん、なに笑ってんの。気色が悪いよ。赤ちゃんの姿なのに」
「おお、すまんすまん」
いま、赤ちゃんの姿なのに気色悪いと言われた気がするのじゃ。
どんな笑い方をしとったんじゃ、わしは。
「う~ん、ほかに母親の呼び方ってあるのかなぁ」
しかたがないのじゃ。
やはり馬鹿天使は、あてにならなかったのじゃ。
ここは、我慢をして今まで考えたやつから、選ぶしかないじゃろう。
「こんなのどう?母親だからははっていうのは。冗談だけど」
母、母か。なかなかいいのじゃ。
「母、なかなかいいぞ、天使よ、お前は天才か。さっそく呼んでみるのじゃ」
「ちょ、ちょっとまって」
わしは、起きて呼んでみることにした。
丁度いいことに、わしは母に抱かれておった。
「あ~あ」
「あなた、いま、ソフィアがママって呼んだわ」
「なに!わしがおまえのパパだぞ~呼んでごらん」
ち、ちがうのじゃ!
わしは、ははと呼んだのじゃ~!
ままなどと、呼んではおらぬのじゃ~!
王妃は、ママと呼ばれてさぞかし嬉しかったことでしょう。実のところは「はは」ですが。