第二話 天使のサービス
これは、一人の極道のお話です。
わしの名前は、いや、やめておくのじゃ。
わしは、ただの極道。
死ねば、地獄の只の極道じゃ。
極道のわしにも、夢はある。
死んだら、孫が見ていたアニメのなんとか少女に、迎えに来てほしいという夢じゃ。
笑いたければ笑うがいい。
わしは、だれが何と言おうと、美少女が好きなのじゃ。
だからといって、わしは変態ではないのじゃ。
その辺は誤解するんじゃないぞ。
とにかく、迎えは美少女がいいという話じゃ。
あの時までは・・・
その日、わしは散歩をしていたのじゃ。
極道が、真昼間に散歩などするなというやつもおるかもしれぬ。
じゃが、その辺は大丈夫なのじゃ。
よほどの阿保じゃない限り、わしの命を狙うものなどおらん。
なぜなら、わしはこの国の極道どもを一つにまとめ上げた人間じゃからじゃ。
まあ、兄弟げんかのようなものはあるがの。
そのときは、わしが一言いえば収まる。
ほどほどの喧嘩なら、させとくのが一番じゃ。
ガス抜きは、必要じゃからの。
わしはこんなことを考えていた。
そして、その時はきた。
わしが、信号待ちをしていると一匹の猫が、車に引かれそうになっていた。
わしは、思わず猫を助けてしまった。
自分の命と引き換えに。
ああ、死ぬときは、鉄砲玉に撃たれるか、老衰がよかったのじゃ。
なんとか少女は迎えに来てくれるのじゃろうか。
こんなことを考える余裕が、その時のわしにはあった。
まだじゃろか、となんとか少女を待っていると、いきなり目の前に少女が現れたのじゃ。
わしは、その少女を見て、
「なんじゃ、美少女じゃないのか」
と、口走ってしまったのじゃ。
それを聞いた少女は、
「すみませんねぇ、美少女じゃなくて」
「すまんすまん、お前も可愛げがあってなかなかのものじゃぞ」
「はいはい、ありがとうございます」
「ところで、少女よお前は何をしに来たのじゃ」
「そうそう、わたしはおじいちゃんの転生先を決めに来たの」
こいつは、何を言っているのかよくわからん。
わしは、わしにも分かるように、こいつに説明させた。
こいつが言うには、神様は忙しいので代わりに生まれ変わる先を決めに来たというのじゃ。
それも、わしが初仕事らしいのじゃ。
「もう~、おじいちゃん悪い事ばかりしてたら、虫にでも転生させるのに」
「虫じゃと。そんなのわしは嫌じゃぞ」
「うん、わかってる。おじいちゃんたら、中途半端に悪い事してるから悩んでるの」
どうやらこいつは、わしをどんなふうに生まれ変わらせるか悩んでいるらしい。
そして、わしに聞いてきた。
「おじいちゃん、転生するならなにがいい?」
わしは、冗談半分でこう言った。
「そうじゃな、可愛い女の子がいいのじゃ」
「わかった。初仕事だからサービスしちゃうね」
そう言うと、少女は消えた。
同時に、わしの意識も飛んでしまったのじゃ。
おぎゃ~おぎゃ~おぎゃ~
ん、これは、赤ん坊の泣き声じゃ。
だれか、あやしてやらんか。
「お妃さま、お生まれになりましたよ。元気な女の子です」
「よ、よかった」
「おつかれさまでした。さあ、お抱きになってください」
ここは、分娩室らしいのぉ。
ん?
「わたしが、あなたのお母さんですよ~」
どういうことじゃ。
わしは、なんでこんなところにいる。
な、なんじゃこれは。
体がうまく動かせん。
そんなわしを、綺麗な女が見つめていたのじゃ。
はたして、女として生きていけるのでしょうか。