6 キャラメイク終了
「しまった」
女神から俺のサポートをするように使わされたらしい天使、身長15センチで短い四枚翼のユンピアが口走った。
天井の隅から、フラフラとこっちに飛んで来る。
「ご、ごめんなさい」
あれ、何かしおれている。
「ギフトの説明を忘れてたわ」
ほほう。
「違うのよ、そんな致命的なミスとかじゃないんだから!」
ほほう。
「ただ本当はスキルを選択する前に、絶対に教えなくちゃいけない情報ってだけの話なんだから」
……ほほう、また同じようなミスを。
つーか絶対って何だよ。
世間一般では、そういうのを致命的ミスと表現するんじゃないのか。
「うー」
俺の思考を読んだらしいユンピアがうなる。
「いいから言ってみろ、なんの話だよ」
「わかった」
恐る恐るといった風にきり出した。
「えっとね、ダナウエル大陸で生まれた住人たちは、全員が女神様の加護を受けているんだけど、特別に大きな加護を与えられている者がいるの。つまりそれがギフトなのよ。簡単に言えば普通のスキルとして覚えることが出来ない、キャラクター独自の特別な能力ね」
「なるほど、それを俺も習得していると」
「アンタだけじゃないわよ、RV四号型から登録したプレイヤーは、全員がギフトをもらっているわ」
「ふむ」
「ギフトの内容については、本人の魂の性質が能力化したものだから、自由に選ぶことは出来ないって女神様が言ってた」
「だから最初から表示されているのか。それで俺の場合はゲートって能力なのか」
「そういう事ね」
なるほどね、つまり変更できないギフトが、例えば近接攻撃に関わる才能だった場合、今回の俺が選んだ遠距離攻撃スキルは、もの凄く相性が悪いって話になるのね。
火の魔法の才能があったのに、覚えたのは水魔法だけだったとか。
隠密の才能があったのに、壁役の重鎧戦士を作ってしまったとか。
……うん、この説明をせずにスキルを選ばすとか、まさに致命的ミスと言えるな。
「うー」
またユンピアが、うなり声を上げる。
ふはは、たっぷり反省したまえ。
そして本当に頼むから、今後はこういうミスはやめてくれよ。
「わかってるわよ、ちゃんとやるわよ!」
「で、肝心の俺のギフトは、いったいどういうものなんだ」
本気でくやしそうなユンピアを見て、それ以上いじるのは可哀想になった。
まあ実際、それほど気にしてなかったし。
何故ならば、たとえ近接攻撃に関する才能があったとしても、さっきの俺なら鉄砲術を習得していた自信があるからだ。
俺は自分のことを、そこそこ知っている。
「ア、アンタってやつは……」
おいおい顔が引き攣っているぞ、その苦々しい表情は天使にあるまじきだな。
「サポートミスした私が悪いはずなのに、ぜんぜん悪いって思えなくなるのは何故かしら。鼻の頭をかじってやりたいわ」
いきなり怖いことを言う。
さりげなく鼻をかばっておこう。
「アンタのギフトだけどね、ゲートってのは名前の通り門の能力、別々の場所をつなげて一瞬で移動できるものよ」
深呼吸をして気分を変えたらしいユンピアが、説明口調になる。
もともとの性格なのか、それとも本当に仕事好きなのか、サポートっぽい説明を始めた途端に、声色も明るくなっていく。
「横についている数字の1、つまりゲート1ってのはスキルの熟練度1と同じ意味よ。ただしスキルは使用していれば熟練が増していくけど、ギフトの方は使用するだけじゃ熟練度が上がらないの。でもってギフトの熟練を上げる条件はプレイヤー毎に違うのよ」
ふむ、熟練はともかく、やはりゲートは移動系の能力だったか。
だがどうなんだろう、それはドラ◯エで言うところのルーラなのか、ドラ◯もんで言うところの◯こ◯でもドアなのか、はたまた絶対可憐チ◯ドレンで言うところのテレポートなのか。
さらに熟練度1ってのは、距離に関わるのか、回数なのか、場所なのか。
どうなんよ、そこんとこ。
「そうね前世紀のアニメとか分からないからスルーするけど、熟練度1ってのはマーキングできる数で、ゲートって能力はマーキングした場所に移動する能力のことね。好きなだけ使えるしMPも消費しないわよ。ただそれ以外のことは私も知らないわ、使ってるところを見たことないし」
「見たことないのか。ってことはゲートって能力はレアなのかな。あとドラ◯もんは今世紀でも放送したアニメだから」
「知らないわよそんな事。能力のレア度にしても、サービスを開始した今月に一万人、来月にも一万人、多ければ合計で二万人のプレイヤーがダナウエル大陸に来ることになるから、どれだけの人がゲートってギフトを持つのかなんて、ぜんぜん分からないわ」
「そうか、ふむ」
「ただし今の大陸の住人だと、その手のギフトを持ってる人は一人もいないわね。だからね、もしかしたらレアかも知れないわよ」
オープンフィールドのゲームだと便利な能力だし、ある種の定番能力だから、けっこう習得する人が多そうだな、と少し残念に思ったのが筒抜けだったらしい。
慌てたようにフォローするユンピアが微笑ましい。
その気持ちが嬉しかったので人差し指を伸ばして、ピンクの髪の頭の撫でてあげた。
「ちょっ、なによ、子供扱いしないでよね」
そう言いながらも避けはしない。
しかしだ、今更だがこっちの天使には輪っかが無いんだな。
光で出来たドーナツ型のやつがさ、頭の上に。
おかげで頭が撫でやすいたけど。
「輪っかが無いなんて、当たり前でしょ」
思考を読んだらしいユンピアが言う。
なにが当たり前なんだよ。
「既存の宗教を連想させるような設定は、出来るだけ避けて作ったのよ」
「ほう」
「そうしなきゃ違う宗教の人が、忌避感を持っちゃうでしょ。RV四号型は世界中の人に売ってるんだから」
「なるほど深いな」
「でしょー」
ユンピアが得意げだ。
「このあたりは女神様のアドバイスが効いているわね。日本アストリック社の開発チームって、最初は日本神話をベースにしてたみたいだから」
「おい」
「あ」
いきなりのぶっちゃけメタトークに、思わずツッコミを入れてしまった。
そこまでは言っちゃいかんだろ。
なにその運営と女神様ってのが、じつは昔から裏で繋がってる的な発言は。
よく分からんが生々しいぞ、すごく生々しいぞ。
もう純粋なゲームキャラとして、女神様を見ることが出来ないぞ。
「あわわわわわ」
こっちはよく分かりやすいリアクションを取っている。
「今のは全部なし! いいわねアンタも忘れなさい!」
俺の回りをグルグル飛び回るのは止めてくれ。
虫かよ、こいつは。
仕方ない、可哀想だから、うなずいてあげよう。
するとユンピアがピタッと止まって、こっちを見た。
涙目だ。
しかしまあ。
この短時間で、どんだけポカをやらかすのやら。
この先、本気で心配だぞ。
「大丈夫なんだもん、ちゃんと出来るんだもん」
しおれてる。
口調が俺のPCの、AIイメージに近づいている。
この分だと、もうすぐ大斗にぃにぃと呼びそうだな。
ほれ言ってみろ。
大斗にぃにぃって。
楽になるぞ。
「なるか! 誰が呼ぶか!」
まあユンピアのミスや失言は、もうどうでも良いから。
さっさと棚上げされている能力値の方を終わらせて欲しい。
なんだか、この白い部屋から、えーと固有結界だっけか、抜け出せなくなりそうだ。
手早く終わらそう。
「そういうわけだ、ちゃっちゃと行こうぜ」
「わかったわよ、悪かったわよ」
ユンピアがコンソールの方をにらむと、最初に見た能力値ステータスが表示された。
ふむ、最初はディズニーアニメみたいに指をまわしていたのに、あれはやっぱり趣味だったのか。
普通に映せるのな。
「う、うるさいわね」
じつはもう能力値の割り振りは決めてあった。
選んだスキルが遠距離攻撃の鉄砲術だから、何はともあれ命中判定にプラス補正が欲しい。
そこでまずは器用度に10ポイント。
次に、銃の装備の条件が筋力の高さだったので、そこそこ強力な銃でも装備できるように、筋力に10ポイント
最後に、とにかく死んでしまったらお終いだ。序盤は死にやすい気がするのでHPを上げておく。
体力に10ポイント。
これで決まり。
こんなところだろう。
ちょちょいとタッチディスプレイをいじる。
ふと横を見ると、またもやユンピアが微妙な表情をしていた。
はっ!
そうだよね、また相談せずに決めちゃったね。
……ゴメン。
「怒ってるのか」
「怒ってないわよ」
と言いながらも、唇をとがらせる。
と、とにかく。
これで能力値は設定を終えた。
レベル:1
名前:ナミノ
種族:人間族
性別:男性
称号:なし
獲得した能力値ポイント:0/0
知力 :5
筋力 :15
器用度:15
敏捷度:5
体力 :15
精神力:5
HP:60/60
MP:10/10
ギフト:ゲート1
獲得したスキルポイント:0/0
スキル:鉄砲術 熟練度1
:狙いうち 熟練度1
:攻撃エンチャント(無属性) 熟練度1
獲得した称号:なし
これが現在の俺だ。
名前は波野大斗の苗字を使って、ナミノと名乗ることにした。
ちなみに上から五行目まで。
レベルから称号までは、プレイヤー同士で互いに確認できる。
ただし、当人が承諾すればの話だが。
頭の横に浮かぶんだって。
レベル:1
名前:ナミノ
種族:人間族
性別:男性
称号:なし
こういう感じで、名刺代わりに使えるみたいだ。
見れるのはプレイヤーのアバターキャラクターだけで、NPCのは駄目らしい。
「でもよし、とりあえずこんなもんだよな」
「そうね、これで初期設定は終了よ」
ユンピアも相槌を打つ。
「長かったわ、とっても長かったわ」
疲れた声も出す。
もっともユンピアの疲労の半分は、本人のせいだと思うけどな。
「わかってるわよ、うるさいわね。って言うか残りの半分は、絶対にアンタのせいだからね」
「はいはいそうですね」
「ムカつく」
そう言って、イーッと歯をむき出しにする。
なにこいつ、ちょっと可愛い。
と思ったら、その思考を読んだのか、少し頬を赤くしたユンピアが、コンソールの方へフラフラ飛んで行った。
自分の顔を隠すように画面をのぞきこむ。
「そ、それじゃこれが本当に最後ね」
何やらタッチディスプレイを操作する。
空中に硬貨が三枚あらわれたかと思うと、床に落ちて金属音を立てた。
「なんだ」
「あ、ゴメン落ちちゃった。それ金貨よ、初期装備のひとつなの」
屈んで拾い上げる。
「それじゃダナウエル大陸に転送するわね。ゲーム開始を宣言して頂戴」
「俺が言えば良いのか」
「うん、私にはその権限はないから」
「そっか」
「えーと、それじゃゲームを始めてくれ。ダナウエル大陸オンライン開始!」
「了解したわ!」
ユンピアが嬉しそうに応えた。
読んでいただいて、ありがとうございます m(_ _)m
明日からしばらく一日一話、13時頃に投稿します。