5 能力値とスキル
「というわけで、各能力値は、様々なスキル判定の指標になるわけよ」
とユンピアが締めくくる。
話をまとめれば。
知力は、感知系と魔法系のスキル判定に関わっている。攻撃魔法のダメージアップなどだ。知力が高いからと言って、本当に頭が良くなるわけではない。
筋力は、低ければ装備できる武器鎧が少なくなり、荷物やドロップアイテムも少ししか持ち歩けない。肉体労働作業や、物理の追加ダメージにも関わる。
器用さは、操作や生産系のスキル、命中判定に関わる。また作業や攻撃などのクリティカル値を上げる。
敏捷は、回避や身体能力を上げて、移動速度にも直結している。この数値を高くしたら、現実には有り得ない動きで遊べそうだ。
体力は、そのままスタミナとHPに、また毒の抵抗力などに。
精神力は、MP量や魔法抵抗などに関わる。
HPの算出は、体力の四倍。
MPの算出は、精神力の二倍。
ということだ。
「しかしな、スキル判定の指標になるってことは、つまりどんなスキルがあるか判らないと、能力値をいじれないってことだよな」
「え?」
「そうなるだろ。ランダムじゃなくて初期ボーナスを振り分けるタイプなんだろ。だったら選んだスキルが有利になる能力値にしなくちゃ駄目だろ」
「え、あれ、そ、そうね、確かにそんな順番になってた!」
「おい……」
あははーと笑いながら、ユンピアは目玉を上に向けて左右に動かしている。
何やら検索しているらしい。
「よし、これよ!」
突然びしっとキメ顔を作るが、もう色々と遅いと思うんだよな。
「う、うるさいわね、大丈夫って言ってるでしょ、これよこれスキル一覧!」
そういうわけで、今度はコンソールの画面いっぱいに、凄まじい種類のスキル名が映し出された。
思わず息を飲む。
反射的に読むの諦めたくなる量だ。
「なんだこの膨大な数は。それに技や魔法も系統じゃなくて、それぞれ個別のスキル扱いか」
「そーね、魔法だとファイアボールと炎の壁などは別々のスキルで、個別に習得する必要があるわ。火系統のカテゴリーとして、まとめて習得は出来ないのよね」
「剣術だと、基本の動きは剣術スキルだけど、カブト割スキルとか溜め攻撃スキルとか、それぞれ別ものとして覚えるんだな」
「どうでも良いような生活系スキルも、細かく分けられているわよ。まあスキルがなくても充分に生活できるけどね。例えば薪割りとか犬の散歩とか。むしろそんなスキルで持つ人は変人ね」
ユンピアが指を立てて半眼で言う。
「ちなみにだけど、初期設定の段階で覚えられるスキルは、3つまでだから。その後はレベルが五の倍数になるたびに、好きなものを1つ習得する権利がもらえるわ」
「なにぃ……」
そういう大事なことを、ついでの情報みたいに扱わないでくれ。
しかし、この膨大に細分化されたスキルから、最初はたった3つしか選べないのか。
とりあえず、ざっと目を通してみる。
剣術、体術、槍術、棍術、弓術、盾術、鉄砲術、大砲術、回避、跳躍、馬術、遠見。
カブト割、体当たり、乱撃、影縫い、シールドアタック、分身、アクロバット。
火玉、火壁、風切、土壁、水霧、治癒、滅菌、守備エンチャント、攻撃エンチャント。
木工、石工、武器鍛冶、防具鍛冶、商談、調合、鑑定、薬草師。
エトセトラエトセトラ。
このシステムから見えてくるのは、みんなで役割分担をして、専門性を高めて、協力しましょうってメッセージだ。
でもなあ、俺って基本的にソロ傾向なんだよなあ。
ネトゲであっても、ソロで行動するのが性に合うんだよな。
だからソロプレイできないタイプのゲームは、基本的に遊ばないんだよな。
リアルの時間を合わせて皆で集合とか、一緒に戦闘するためにキャラのレベル合わせとか、レアドロップの権利とか、戦闘時のコストの不平等を無くすとか。
好きな人は問題ないんだろうけど、俺は面倒なんだよな。
まあ一ヶ月は無料なわけだし、とりあえずアバターキャラクターのメイキングはやっておこう。
ダナウエル大陸そのものには興味があるし。
「で、どうするのかしら、アンタはどんなスキルが好みなのかしら」
ユンピアが楽しそうだ。
私だったらこれねーとか、勝手に妄想している。
さてどうするか。
まずは戦闘系か、生産系か。
でも長く続けるか判らない以上、長期プレイでないと旨味がなさそうな生産系は避けておくか。
まあソロプレイという意味なら、間違いなく正解なんだけど。
戦闘系にするなら、戦い方の選択だよな。
戦士で行くか、魔法使いで行くか。
ファンタジーと言えば魔法だが、魔法の細分化もすごいので、恐らく極めたければ一系統、無理しても二系統に絞ることになる。
何故なら、説明文に上級スキルがあると明記されているからだ。
下級スキルの成長が、習得条件らしい。
魔法ってのはどれも属性が付いているらしい。ということは、敵の属性との相性によって、かなり不利なケースも出てくるわけだ。
火系統が得意なのに、火系統のモンスターを倒さなくてはいけないクエストとか、なかなかキツイ事になりそうだ。
やっぱり魔法使いはソロプレイ向きでじゃないかもな、防御にも不安も残る。
そもそもMP切れが怖い。
ならば消去法で物理攻撃の戦士しか残らないわけだけど、スキルの種類から考えて、例えば剣術の他に盾術を選んだら、後は攻撃か防御スキルで底上げをしないと不安だ。
あっさりと三つを使い切ってしまう。
でもなあ、接近して戦闘すれば必ず攻撃を受けるから、回復魔法も欲しい。
ソロだから、回復手段は必須だよな。
最初に覚えるべきは、攻撃力アップ系か、防御か、回復魔法系か、いっそ回避スキルか、悩むとろこだ。
うーん、でもなあ。
やっぱ連戦とか考えると、剣士のソロも難しいよな。
接近戦だと、嫌らしいザコに囲まれて、タコ殴りにされそうだし。
……とすれば、あとは弓と銃か。
これも魔法と同じで防御面に不安が残りそうだ。
ただ魔法と違って属性はないから、全般的に通用するだろう。
弓術の欄をタップしてみると、大まかな説明文があらわれた。
大体、想像通りだった。
長距離攻撃できるのは魅力的だが、やっぱり矢の本数に限りがある。
これって下手したら、金食いスキルになるかも知れない。
序盤泣かせの可能性が高い。
じつは俺はけっこう弓が好きで、いわゆる狩りゲーだと弓を選択する事も多いから、今回も弓術スキルにしようかなあ。
最後に銃の欄をタップしてみたが。
駄目だ、これ火縄銃だった。
一発ごとに弾込めをしなくてはいけないし、湿気で火薬の質が落ちるとか、妙にリアルすぎる設定がある。
軍隊ならともかく、とてもソロプレイ向きではない。
……でもなあ、なんだろう、ちょっと興味を覚えてしまう。
えーと、他の記述は。
銃であれば、どの形態でも同じスキルで扱える。
装備できる銃は鉄砲術レベルに関係なく筋力のみで決まる。
また与えるダメージは火薬量や弾の種類によって、大きく変化する。
部位破壊に優れ、ヘッドショットが狙える。
火薬や弾丸は有限で、所持している分しか攻撃できない。
うーむ、これって最大のネックは、恐らく連続攻撃だろう。
説明によると。
一発撃った後は、引き金を戻し銃をおろして、銃身の先端から火薬を入れる。
続いて弾丸を入れて、長い棒でギュッギュと押し込む。
その後は点火用の発火薬を受け皿に入れて、引き金に繋がる縄の火種をチェック。
準備が整ったら、銃を構えて狙って撃つ。
という感じらしい。
この一連の作業は、どう見積もっても二十秒、いや三十秒はかかりそうだ。
そして金食いスキルの可能性が高い。
弾だけでなく、火薬も買わなくてはいけないだろう。
不遇だ。
間違いなく不遇スキルだ。
そしてこのスキル持ちは、他プレイヤーから地雷として扱われるのは間違いない。
よく理解はしているのだ。
絶対に避けるべきなのに。
だがしかし。
妙に気になってしまう!
そうだな、ここは突き進むところ。
ポチッとな。
俺は鉄砲術の欄の横にあった「習得」というボタンを指でタップした。
「ああーっ!」
コンソールの横で何気に眺めていたユンピアが、突然悲鳴のような声を上げた。
「アンタそれはどうかと思う!」
さすがサポートキャラを自認するだけあって、あまり勧められないスキルというものが判っているらしい。
「あまりどころじゃないでしょ……、うわーもう習得しちゃってるわよ、それ決定ボタンなんだからね」
ユンピアが、なんだか泣きそうな顔をしてる。
「うう、私がついていながら、女神様に何て言えば良いのかしら」
「いやいや、そこまでじゃないだろ。使い勝手は悪いけど、威力だけなら他の武器より数段上っぽいし、そこそこ強烈な魔法をMPなしで使えるようなもんだろ」
演唱時間の長い魔法と思えば、大きな違いは無いとも言える。
「そんな単純な話じゃないわよ。魔法なら撃った後も少しは誘導できるから命中しやすいけど、銃なんてまとに当てるのも一苦労じゃない。そもそも魔法と違って連射ができないんだから。その手の武器は大人数で運用すれば恐ろしく強力だけど、個人がひとりで使っても、大して脅威じゃないのよ」
とユンピアが、意外にまともな話をする。
「しかも相手が人間なら、どこかに一発当てれば痛みで終わるんでしょうけど、モンスターは簡単には倒せないわよ。弾込めしてる最中に接近されてオシマイよ」
うんまあ正しいよな、そのあたりは分かってるんだよ。
狩りゲーの弓も似たようなもんだし。
でも良いじゃないか、ゲームなんだから。
火縄銃で本気の戦闘とか、やってみたいじゃないか。
それに最悪、全部最初からキャラを作り直せば良いじゃないか。
「アンタねえ」
「大丈夫だって、残りのスキルは二枠あるんだし、有利になるように構成すれば良いんだからさ」
「本当かしら」
ま、まあ何とかなるんじゃないのか。
「あっとふったつー、あっとふったつー」
冷たい視線のユンピアを横目に、節をつけて口ずさみながら、ディスプレイをスクロールさせて行く。
銃に関係しそうなスキル、何かないかしらん。
って俺いまちょっとテンション上がってるぞ、なんでだろう、そんなに銃スキルを使うのが楽しみなのかな。
パワーショット、貫通、ダブルアタック、って銃弾でもダブルアタックとかできるのか、一発で二発分とかコスパ抑えれるのは良いな。
おやトリプルアタックってのもあるぞ。
これって三点バーストってやつじゃないのか、しかも弾ひとつで三発分になるらしくてリーズナブル、超お得すぎる。
ダブルとトリプルの両方を覚えたら強力だろうな。
スキル使用後のクールダウンがあるから、交互に使うと効果的だ。
あ、でも、火縄銃だと弾込めしているうちにクールダウンが終わってるから、二種類を習得しても意味ないか……。
他には気配断絶、匂い消し、音消し、追跡、など潜伏不意打ち系。
回避、跳躍、疾走、など身を守ったり逃走する系。
遠見、周辺感知、危険感知、など獲物発見系。
回復魔法を覚えるのも有益だ。
あるいは弾丸の制作を自分でする生産系とか。
ちなみに弾を作るためには、彫金スキルが必要になる。
材料から作りたかったら、金属を掘るための採掘スキル、金属を精製してインゴットにする鍛冶系のスキルも必要だ。
今回は、そこまでガッチリ生産をするつもりはない。
そういう職人プレイも好きだし、スキル枠が多ければやるんだけどね。
特殊な弾丸の制作をやってみたい。
おっと火薬の存在を忘れていた、火薬制作は何のスキルなんだろう。
おおお、花火職人ってのがあった!
いや、まあ、生産は後回しだ。
残念だが仕方がない。
さっき見つけた乗馬も気になるけど、そんなの覚える余裕もない。
馬上から銃で狙い撃つとかロマンだよなあ。
くっそー、このゲームを続けるとしても、趣味スキルが覚えられるのはいつになるんだろうか。
そんなことを考えながら画面をスクロールさせていくうちに、面白いものを見つけた。
狙いうちスキル。
うん、これ良いんじゃないのか。
これにしよう。
命中判定に大きくプラス。部位狙いに大きくプラス。さらに細部狙いに大きくプラス。クリティカル値の上昇。溜め攻撃の効果もあるようだ。
溜めに関しては専門の溜めスキルと違って、チャージ時間が長いらしいが。
しかしこれは狙撃、とくに初撃との相性がすごく良いよな。
むしろ鉄砲術の基本と言っても良いくらいだ。
すぐさま「習得」のボタンをタップする。
「あ」
とユンビアが反応したが、今度はスキルの内容を見て納得したようだ。
「なんだよ」
「アンタがすっごい適当に習得するから、こっちがドキドキするわよ」
「まずは命中させる、間違ってないだろ」
「そうね、でもひと言くらい相談してくれても良いと思うのよね……」
後の方は小さい声でブツブツ言ってたから、全部は聞き取れなかった。
けどまあ、そうだよな。
一応サポートするために来てくれてるわけだし。
よし、次は相談してみるとしよう。
だからそんなに落ち込むなって。
で、残す枠は、あとひとつ。
初撃で確実に不意をつくため、潜伏、隠密系を覚えるか。
接敵されたときのため、回避か逃走用スキルを覚えるか。
あるいは無難に近接戦闘スキルか。
お、これは。
魔法か。
エンチャント。
攻撃力付与の魔法。
うーん魔法か、魔法だよ。
ファンタジーの世界なんだから、やっぱ魔法も使いたいなあ。
攻撃力付与には、無属性の他にも火や氷など面白いやつがある。
うわー楽しそう。
これって俺が剣士を選んでたら、絶対悩んでたな。
全属性のエンチャントができる魔法剣士とか、すごくロマン仕様だ。
まあスキル枠がキツイけどね。
しかしエンチャントか。
本気で検討するなら、最初に覚えるのは無属性だな。
環境に左右されない安定感と、純粋な攻撃力アップが良い。
さらに普通の魔法は属性有りきで無属性がないから、状況次第では重宝するかも知れない。
……これにするか。
MPの使いみちがないのも、もったいない気がするし。
それに何より、通常攻撃が通用しない敵も出そうな気がするし。
うん、付与魔法だな。
攻撃エンチャントの「習得」をタップした。
「あ!」
とユンピアがまた叫ぶ。
あ、そうだ、今度は相談するはずだった。
ユンピアを見ると、頬を膨らませて涙目になっている。
「ご、ごめんよ?」
「…………」
悪かったよぉ。
「知らないわよっ、勝手にすれば良いのよっ」
ツンっとソッポを向いて、白部屋の天井の角に飛んでいってしまった。
後ろ姿が小さい、小さいぞ。
ほんとゴメンってば。
今度なにかおごるから、勘弁してくれ。
ん?
いまユンピアが、こっちをチラッと見たな。
さて、何はともあれスキルの三枠は選びきった。
これで次はやっと能力値だ。
それから、さっきから気になっていたのだけど。
ギフトのゲート1って、いったい何なのだろう。
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レベル:1
名前:
種族:人間族
性別:男性
称号:なし
能力値ポイント初期ボーナス:30/30
獲得した能力値ポイント:0/0
知力 :5
筋力 :5
器用度:5
敏捷度:5
体力 :5
精神力:5
HP:20/20
MP:10/10
ギフト:ゲート1
スキルポイント初期ボーナス:0/3
獲得したスキルポイント:0/0
スキル:鉄砲術 熟練度1
:狙いうち 熟練度1
:攻撃エンチャント(無属性) 熟練度1
習得した称号: