4 初期装備
ユンピアがディズニーアニメのような動きで指を振ると、真っ白い部屋の中央付近に、俺そっくりの等身大アバターキャラクターがあらわれた。
二本足で立っている。
服装は現実の俺と同じ、つまり今の俺とおなじ格好をしており、ゆったりしたズボンと、断熱素材で編まれた紺のセーターだ。
自分自身をじっくり観察する機会など、普通に生活していたら無いものだ。
こうして自分のアバターを見ていると、どこまで行っても代わり映えのしない普通の高校一年生男子だと、あらためて認識させられてしまう。
髪型、顔つき、背格好、どれをとっても真っ当で、何一つ尖った部分がない。
「本当に平凡よねー、十人集まったら必ず最後に名前を呼ばれるタイプよねー、でもって居なくなっても気付かれない感じ」
「やかましいわ」
ユンビアがクスクス笑いながら言う。
まったく、これのどこが天使なんだ。
アバターの横に、タッチパネル付きのコンソールが浮かび出てきた。
口頭の他にも、パネル操作で設定を選択できるらしい。
衣服の一覧があったので、ざっと目を通してみたが、あまりの数の多さに目眩を起こしそうになった。
部位それぞれ毎に、数百着はありそうだ。
たかだか初期装備の衣服に、ここまで選択を広げなくても良いだろうに。
画面の左下に装備クリアというボタンがあったので、指で触れてみた。
すると、それまでアバターの着ていた衣服が消滅して、真っ裸になる。
「え……」
「ぶっ」
他意は無いと思われるが、装備を解いたらアバターが振動して、股の間の大切な部分がブラリンっと揺れてた。
ユンピアの視線が固まる。
「あ、装備クリアって、裸になるのか」
「なんちゅうものを見せるのよ!」
やっと顔をそむけたユンピアが、真っ赤になって叫ぶ。
天使でも女子っぽい反応なんだな。
性別とか、無いのかと思ってた。
「あるに決まってるでしょ、いいから早くなんか着せなさいよね!」
「悪い悪い、ちょっと待ってろ、えーと下着の項目はどこだ」
「ぶらーんってなってた、ぶらーんって……」
なんだよ天使に性別があるなら、お父さんのを見たこともあるだろうに。
てか恋人とかいないのかね。
いないんだろうなあ。
悲しいねえ。
あ、えっと、そうそう下着の項目はどこだっけかなー。
呪い殺されそうな視線を感じたので、慌ててタッチディスプレイの衣類項目をスクロールさせる。
しかし裸を見られてるのは俺の方だが、不思議と羞恥心が沸かないな。
ユンピアは可愛い天使って感じだが、やっぱり小さいからだろうか、あんまり気にならない。
下着の項目を見つけたので、適当にトランクスでも履いておくことにした。
赤青緑白のイングランド風チェック柄だ。
何気に派手だが、下着だから別に良いだろう。
よしタップと。
「そういうセンスなのね……」
残念な子を見るような様子でユンピアが言う。
やかましいわ。
ついでにスボンの一覧を見て、こっちも適当に丈夫そうなジーンズを選ぶ。
昔ながらの綿帆布製品、というかそれを模した別の生地らしいけど、百五十年前からのロングヒットは今も健在である。
ベルトは黒革。
靴下は白で良いか、これは木綿か。
上の肌着も白でシャツも白、無地のYシャツにしよう。
上着には本革の茶色いブレザーを選択する。
最後に靴だが、コゲ茶を基調に黒い線の入った、革製のウォーキングシューズを選んでみた。
どれも適当にパッと目についたものばかりだが。
白シャツにジーンズ、茶色いブレザー、コゲ茶の靴、リアルの俺では値段的に手が出ない、ちょっと大人な革製品が多めだ。
「まあ、こんなもんだろ」
「意外にまともね、つまんない」
「何を期待してたんだ」
「まあいいわ。ちなみにここで選んだ装備が、LDSで夢を歩くときの基本的な格好になるからね」
「ほほう」
「もちろん拾った物や作った物に着替えることは出来るわ。その場合は、ここのアバターの服装も変更されるけど、いま選んでいる初期装備はデフォルトになるから、ボタンひとつで瞬間的に、新品の初期装備に戻ることも出来るわ」
なるほどねえ。
「それじゃ初期装備の項目は終了するわね、その格好で良いのよね」
「おう、良いぞ」
「了解」
承諾するとポンって感じで、それまで本体の俺が着ていた部屋着が、たった今選んだアバターの服装と同じになっていた。
「おお」
と声がもれる。
ズボンの隙間から中を覗くと、パンツもチェック柄のようだ。
細部まで同じである。
「とりあえず衣装は終了ね。次に進みましょう」
ふむふむ、次があるのか。
初期設定って、他に何があるんだろう。
「えーとね、ええっと、うーん……、次の設定は、えーと、あっ能力値か」
ユンピアが頭をひねりながら言う。
おいおい大丈夫か、たしか本来のRV四号型のサポートAIって、こいつが来るときに上書きで消されているんだよな。
任せて平気なのか不安になってきた。
「だ、大丈夫よ、私は仕事が出来る方だから問題無いわ」
ほんとかよ、そのセリフがフラグにしか聞こえんわ。
「任せなさいっての、ほら次は能力値の設定よ」
そう言ってユンピアが、またディズニー映画のように大げさな動きで指を振ると、アバター横のコンソールに、能力値らしい数字が映し出された。
レベル:1
名前:
種族:人間族
性別:男性
称号:なし
能力値ポイント初期ボーナス:30
獲得した能力値ポイント:0/0
知力 :5
筋力 :5
器用度:5
敏捷度:5
体力 :5
精神力:5
HP:20/20
MP:10/10
ギフト:ゲート1
スキルポイント初期ボーナス:3
獲得したスキルポイント:0/0
スキル:
:
:
習得した称号:なし
「へええ、こんな感じなのか。しかし能力値って何に必要なんだ」
「主にダナウエル大陸オンライン用ね。自分自身の夢の中を探索するときも、能力値に応じてRV四号型のシステム補助が入るようになってるのよ。つまり別の言い方をするなら、なんでもイメージ通りに反応してしまう夢の中の自分を、キャラ設定という枠でしばって安定させるって事にもなるのよ」
「ほほう」
「まあ自分の夢を探索する限りは、能力値の数字が高くても低くても、さほど関係ないから、ダナウエル大陸オンラインでレベルを上げる必要はないけど」
「なるほどな」
「だからね、ゲームをするのは本人の自由で、別にやらなくっても大丈夫なんだけど……」
ユンピアが言葉を止めて、じっと俺を見た。
なんだってんだよ。
「でもさ、もちろん、アンタはダナウエル大陸に来るのよね」
「ん?」
「来るのよねー?」
「あ、ああそうだな、一ヶ月は無料で遊べるようだし」
「そう、なら良いのよ」
ほっとした様子だ、そんなにゲームに誘いたいのか。
「うんうん、ならばよろしい」
ユンピアが鷹揚にうなずく。
そりゃまあ無料期間は遊ぼうと思ってるよ、その先は分からないけど。
「それじゃ、ざっと説明するわね、ちゃんと聞きなさいよ!」
なんか急に張り切り始めた。
各能力値の役割を話しだす。
時々棒読みっぽくなるのは、思い出しながら話しているせいか、あるいは何かカンニング的なことをしているのか。
ちょこちょこ眼球が動いている。
うんこれは絶対、カンニング的な動きだな。
俺には見えないカンペを読んでいるな。
このカッコつけめ。
図星だったのだろう、ユンピアがすっと視線をななめ上にずらした。