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14 ワイト迎撃戦 前編

 どこかユーモラスなその姿は、ユーモラスな分だけ醜悪でもあった。

 暗い赤茶色の身体に着けているのは、高級そうな短い腰巻きがひとつだけだ。

 ワイトのミイラ顔に不釣り合いな、みずみずしい丸い目玉が二つ。

 時折首を揺らすような仕草も、おどけているように見える。


 嘲笑を浮かべた口元の歯は、グールとは違って普通の人間と同じだった。

 両手の爪にしても、鋭くてカッターナイフみたいだったが、グールのように長いわけじゃない。


 身体能力は高いという話しだったが、物理攻撃力に関しては、さほど強くないのかも知れない。


 が、いずれにしても。


「やらせるか!」


 俺の正面にいるってことは、エルシアさんの背後に居るという事だ。

 そのエルシアさんの背に手を伸ばしたワイトに向かって、俺は腰タックルを仕掛けた。


「きゃあっ」

 エルシアさんを、乱暴に押しのける形だ。


「どっせい!」

「グッ」

 意表を突けたのかも知れない。

 ワイトは回避ができなかった。

 腰にしがみついたまま、ワイトに体重をかけて、地面に倒そうとする。

 古びたゴムのような皮膚が気持ち悪い。

 そこに顔を押し付けている格好だ。

 ガサガサでグニャリと冷たい。

 腐臭もする。


 倒されるのが嫌だったのか、意外に強い足腰のバネでワイトは踏ん張って耐えた。

 片方の手で俺の肩をつかみ、もう片方で俺の頭を髪ごとつかむ。


「痛ってえええ!」

 肩の方に鋭い爪が食い込んだ。

 五本の指先が、確実に二センチくらい刺さっている。

 握力が異常に強い、ナイフみたいな爪が肩甲骨をゴリゴリ削っている。今にも肉ごとえぐり取られそうだ。

「ぐおぉぉぉ!」

 痛い、マジ痛い、膝が崩れそうになる。

 すると奴は髪の毛をつかんでいる方の手で、無理やり俺の顔を、上に引っ張り向けた。


「馬鹿ナ男ダナ」


 ワイトが喋った!

 こいつ会話ができるのか、ザラっとした嫌な声だ。


「馬鹿ナ男ダ! ハァーハッハッハハッ!」

 笑い声は、少し甲高かった。

 それにしても顔が近い。

 かがむようにして顔を近づけて来る。


 ワイトが口をパカっと開けると、何やら青白い光が浮き出てきた。

 まさかこれが、命を吸い取るバイタル・ドレインか!


「くそ!」


 腰に回していた両腕を下にスライドさせて、膝のあたりにかけて引っ張る。

 この際、肩に食い込む爪の痛みは無視だ!

 歯を食いしばる。

 すると強引な両足への膝カックンでバランスを崩したワイトが、背中から倒れ込み、うまい具合に、後頭部を地面にぶつけてくれた。


「グオッ」

 唸り声を上げる。

 口元の青い光が消えた。

 つかんでいた肩の爪も外れた。

 俺はそのままワイトの腹に馬乗りして、マウントポジションを取った。



「ワイトが来たー! ワイトが来たー!」

 ユンピアが飛び回りながら叫んでいる。

 いきなりの襲撃だったので、ドーマンとチェルシの二人も準備が出来ていないだろう。

 馬車の陰で分からないが、出来るだけワイトの動きを止めて、ホロ布を準備する時間を稼がないといけない。


 ワイトはその筋力に任せて、俺を腹の上に乗せたまま、上半身を起こそうとしてくる。

 俺の身体ごと持ち上がってしまいそだ。

 くそ、見た目よりも力持ちだな。


「寝てろよ!」

 顔面に向けて殴り付ける。

 両手を交互に振りかざし、左、右、左、右、と何度も何度も。

 筋力15に器用度15、ついでに狙いうちスキルもあるから、威力もあるし狙いも外さない。

 起き上がりかけたワイトは、またドサリと背中を地面に落とした。


 残念な事に、素手攻撃程度では、大したダメージは望めそうにないが。

「コ、コノ、フザケタ奴メ!」

 と、もの凄く嫌そうな顔はしている。

 攻撃力は低くても、何かしらのダメージは与えているのだろう。


 よし、もっと殴ろう。

 ワイトが両腕で顔を庇うようにしたので、片手でどかしながら、横の隙間からパンチをフックで入れる。

 良い感じだ。

 こっちのペースって感じだ。


 実のところ、俺は喧嘩の経験などは無かったが、リアル系の格闘技ゲームにハマった事があった。

 視覚とサウンドのみのバーチャルシステムだったけど、それなりに真に迫っていたし、ファンタジーな必殺技も無い硬派なゲームだった。

 己の技のみが、勝負の行末を決める。

 そういう内容だ。


 だからまあ、その手の勝負なら、決して不得手ではない。

 まあ格闘ゲームの話だが。


「ワイトが来たー! ワイトが来たー!」

 ユンピアが叫んでいる。

 けっこう長く戦っている気がしないでもないが、恐らくまだ一分も経っていない。

 もっと時間を稼がないと、ドーマンとチェルシが間に合わない。

 かなりキツイが、救いがあるとすれば、まだ一撃もドレインを喰らってない事だ。

 代わりに肩に受けた傷は、もの凄く痛いのだけど。


 またワイトが、パカっと口を開いた。

 青白い光が集約されていく。

 バイタル・ドレインか!

 ワイトが両手を伸ばして、殴っていた俺の両手を左右でつかみ取った。

 二人一緒に、バンザイをしているような格好だ。


 しまった、この体制だとドレインをまともに喰らってしまう。


「フハッ」

 変な声を出しながら、ワイトが青白い光線を口からはいた。

 それが俺の顔に命中する。

「くそ!」

 顔中が光に包まれて、いきなり息苦しくなった。

 なるほど、HPがゴッソリ抜かれる感覚があった。

 これは、継続されたらヤバイ。


「好きに出来ると思うな!」


 青白い光を出しているワイトの口にめがけて、俺は思いっきり頭突きを食らわせた。

 ガゴッっと鈍い音が、けっこう大きく立った。

 額の上あたりがワイトの歯にぶつかって、一瞬目の前が赤くなるような痛みが走る。


「ガアアァッ」

 ワイトが声を上げた。

 ここで止めるわけにはいかない。


 そのまま自分の頭を持ち上げて、もう一度頭突きをした。

「ガアァッ」

 二発目で青い光が消えた。


 まだだ!

 もう一度、頭を振りかぶって、勢い良く頭突きをする。

「ぅおりゃあ!」

「ンガアァッ」

 くそ、こっちの頭も痛い、歯が額に刺さって嫌だ。


 一瞬だけ余裕が出来たので、急いで自分のHPを確認すると、74\100だった。

 さっきの一撃で26ポイントを吸われたようだ。

 いや、頭突きの分の被ダメージもあるかも知れないが。

 いずれにしても、これで後ドレイン攻撃二回分は、充分に耐えられそうだと分かる。

 まずは、ひと安心だ。


「何ナンダ貴様ハ!」


 恐らく今まで、積極的な密着戦をされた経験がなかったのだろう。

 ワイトは勝手が分からず、戸惑っている様子だった。


 俺も額からの出血がかなり酷かったが、無視してもう一度頭突きを喰らわせようと頭を上げたら、ワイトはつかんでいた俺の両腕を放し、身をよじってマウントポジションから逃れようとした。

 ふっ、自由にさせるものか。


 どうやら筋力の高さでは負けていたが、ものすごい差があるわけでもないようだ。

 ワイトが腹ばいになり背中を向けて、俺の下から這い出そうとしたので、俺はそのまま首に腕を巻きつけて、スリーパーホールドをかけることにした。


 まあ後ろから気管を締めるバック・チョークであれ、頸動脈を狙うスリーパーホールドであれ、アンデットには何のダメージも与えられない。

 それは充分に分かっている。

 一対一の戦いであったら、まったく意味がないだろうが。

 これは時間稼ぎなのだ。

 ある意味、最高の形になってくれた。


 嫌がったワイトが身体を起こして立ち上がろうとしたが、俺はそれを許さない。左右に大きく揺さぶってバランスを崩させる。

 地面に倒れ込んだワイトが、後ろに手を伸ばして、どこかをつかもうとするが、そのナイフのような爪はヤバイので、何とか避けようとまた左右に揺らす。


 その俺の爪を嫌がる動きでやっと気づいたのか、ワイトは首に回していた俺の腕に、鋭い爪を直接突き立てた。

 すごく痛い。


 放っておくと腕の肉そのものをグチャグチャにされかねないので、慌ててホールドを外したけど、すぐに両手で後頭部をつかんで、背後から体重をかけることで、ワイトの顔面を地面に叩きつけた。

 スポーツの試合でやったら、地面に顔面を叩きつけるような行為は反則かも知れないが、これは殺し合いだから大丈夫だ。

 流れに従い、背中にドンと腰を落として、動きを封じてみる。


 それを嫌がったらしいワイトが、また身をよじって仰向けになったので、最初と同じく腹の上にマウントポジションを取り、また最初と同じように、両腕を交互に振り上げながら、顔面を殴ることにした。


「グッ、ゴッ、キ、貴様!」

 こちらだって命がけなのだ。

 一度つかんだ優勢を、簡単に手放すわけにいかない。


 が、さすがに自分の持つ大きな武器、ナイフのような爪を利用することを思い出したらしく、座り込んでいた俺の足のふくらはぎあたりを、両足同時につかもうとしてきた。


 くっそ、もっと光線のドレイン攻撃にこだわってくれたら良いのに。

 殴って阻止する自信があったのに。


 一瞬どうするか迷ったが、もう覚悟は決まっていた。

 ここで離れても、また密着して時間を稼がないといけなくなる。

 で、密着し直したら、どうせまた爪の攻撃を受けてしまう。


 俺はふくらはぎを、諦めることにした。


 この先、この戦闘中に走れなくなるかも知れないが。


 後は馬車のホロ布をかぶせて、ロープでグルグル巻いて、同時に油をかけて気化させた後、火をつけてパニックを誘いながら、袋叩きにするだけだ。

 ドーマンの槍とチェルシの弓矢で、ドカドカ突き刺して満身創痍に追い込む。

 とどめは刺せなくても、HPを削ることは普通に出来るそうなので、ボロボロになって逃げ帰ってもらおう。


 だから布をかぶせる事が出来たら、後はドーマンたち三人に任せても大丈夫だろう。

 そこまで時間を稼げたら、俺の役目は、一応は終りだ。

 動けなくなったとしても問題ない。


 それにどうやら内臓や大きな血管など、重要な部位を損傷しない限り、あまりHPが減ることもないようだ。

 ここはもう、あえて爪をくらう覚悟をするしかないのだ。


 ワイトがふくらはぎを、ジーンズの上からガッとつかんできた。

 大雑把に強引に、力任せに爪を突き刺して来る。

 ジーンズを突き破って、爪と指がふくらはぎにめり込んで来る。

 最悪、部位破壊はあるかも知れないが、幸いな事に、動脈切断を狙ったりする老獪さは持ち合わせていないようだ。


 だが、もちろん、痛いことは痛い。

 とてつもなく。

 頭の中が真っ白になって行く。


「痛ってえぇぇぇ!」


 思いっきり叫んだ。

 叫ぶ事で何とか耐えている。


「いでえぇがああぁ!」


 これってゲームなんだよな。

 なんでこんなに痛いんだ、変だろう。

 てか俺、なんでここまでして頑張っているんだ。

 馬鹿じゃないのか。


 いやでもこれが現実だったら、もっとずっと大きな激痛なんだろうか。


 ワイトの口元が、青く光りだした。

「痛ェンだよ! 手を離せよ馬鹿野郎!」

 その顔に目掛けて、こぶしを殴りつける。

「ガァ!」

 光が消える。

 ざまあみろ、この上ドレインまで撃たせはしない。


 と、見ると俺の両こぶしが、少し白く光っていた。

 いつの間にか無意識に、エンチャント魔法をかけていたようだ。

 武器や道具だけじゃなく、自分の肉体にもかけられたのか。


 これは良いな、攻撃力アップだ。

 もっと殴ってやる!


「待たせたなナミノ!」


 その時、ドーマンの声がした。



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