1 プロローグ
初の連載やってみます。
まだまだつたない文章ですが。
どうぞよろしく、お願いします。
眠っている時に見る夢。
もしも夢の世界で自由に冒険できたら、もの凄く楽しいに決まっている。
少なくとも、俺はそう思う。
二十世紀の終わる寸前、ルシード・ドリーム・システムというものが開発された。
夢の中で、夢だと気づいたまま、自由に冒険できるシステムだ。
その五十年後、ルシード・ドリーム・システムは、一般家庭用のゲーム機として発売された。
それまでの何千万円もする筐体とは違い、百三十六万円という破格で。
まあ破格とは言っても、家庭用ゲーム機としては、常識外れに高額なんだけど。
販売は実験的な意味合いが強いらしく、初期ロットの生産は二万台だった。今後最低でも一年間は、追加で販売をしない方針らしい。
二万台はユーザーサポートを充実させたいので、二回に分けて発売するという話だった。
発表した年の11月と12月である。
RV四号型を制作発売したのは、グローバル・アストリック・グループの日本支部、日本アストリック社という企業だ。
グローバル・アストリック・グループは量子コンピュータの分野で世界トップを走っており、今回のことでルシード・ドリーム・システム、意識を持ちつつ夢を見るシステム、略してLDSでも、業界の先端に躍り出た事になる。
世界中のゲーマーの夢、全感覚型バーチャルシステム、その家庭用ゲーム機。
これまでもLDS機器は発売されてはいたが、軽く一千万円を超えるような高額商品だったので、個人が気軽に手を出せるものではなかった。
その点、今回の価格は、軽四の新車を購入するくらいの値段だ。
さらに言えば革新的な小型化に加えて、性能面でもRV四号型は他社より頭一つ抜けたらしい。
当然の結果かも知れないが、購入申し込みは世界中から殺到した。わずか三日間で、購入希望者が四百万人を超えたほどだ。
ゲーム機の購入権利は、抽選によって選ばれた。
日本アストリック社のサイト会員に登録して応募する方式だった。
ちなみに重複登録や重複応募は、発覚した時点で資格を失うルールである。
それにしても、大量の重複審査なども含めて、わずか三日の間に四百万の応募数に対応出来たのは凄い。もしもこの時代に量子通信や量子コンピュータが実用化されていなかったら、サーバーや回線が何回もダウンしていたと思う。
そして、このネット抽選に、俺は当選してしまった。
RV四号型の購入権を手に入れてしまった!
当たったのは初回11月発売の分で、その年の夏の出来事である。
浪野大斗、十六才。
東京都の鳥小金井高校の一年E組。
身長171センチ、体重58キロ、現在帰宅部で中学生の時は演劇部に所属。
黒髪と黒い目をした、ごくごく平凡な日本人。
でもって陶器の貯金箱の中身は、ごく平凡を下回る2330円。
購入権が当たってしまったのだから、何がなんでもRV四号型を購入したい。
いや、しなくてはいけない。
絶対に。
俺はサラリーマンの父と農婦の母に頭を下げ借金をして、貯金魔の妹に土下座をし借金をして、さらに昼夜の短期バイトを何本も入れて。
勉学は何気に放置して。
それでも足らないので父方の祖父と両方の祖母たちにも頼り、このあたりで学校の実授業を休んでバイトに明け暮れていたのが親にバレてしまい、かなり大変な事になったのだが、誠心誠意の謝罪とプレゼンテーション(とくにルシード・ドリーム・システムの学習機としての優秀さをアピール)で何とか乗り切って。
11月の初回発売直前に、きっちり136万円を用意することに成功した。
約二ヵ月半を費やした結晶。
まさに血を吐くような努力の結晶。
……ふう。
俺ってば、やればできる子だったんだよ。
もっともその後は極度の緊張が解けたせいか熱を出して寝込み、数日間も満身創痍な状態が続いてしまったが。
だがしかし緊急クエストは達成した。
予約も支払いの手続きも終わった。
後は発売日に、アストリック社からの宅配を受け取るだけだ。
そしてついに。
ついに。
その日がやって来た!




