第74話:脱出
ルージュの過去を一方的に知ってしまった俺は、このことを伝えるべきか迷っていた。
本来なら素直に伝えるべきなんだが、言った後にどんな反応をされるかを考えると気が気でなかったため、勇気が出ずにいたのだ。
俺がうだうだ迷っている一方で、ルージュは魔物狩りに意欲的で、この階の魔物をどんどんと狩っていた。
そして、大方狩り終わり、素材を回収したところで俺の探知に人間の反応があった。その位置は下層から上がってくるもので、相当な強さを持っているようだ。
「ルージュ、誰か来る」
「ほんと? 珍しいんじゃない?」
俺たちはすぐに戦闘態勢に入れるよう警戒しておく。
といっても、冒険者を襲うような人物が今このダンジョンに入るメリットはないので、その人物たちが悪人である可能性は低そうだが。
「――だな」
「――はい……あれ?」
下層へと続く階段から出てきたのは、二人の金髪のお姉さんだった。
「冒険者の子ですか?」
色素の薄い金髪を伸ばした女性が、俺たちに気付いて声をかけてくる。
その表情は優しげで、不思議と相手の警戒を解くような雰囲気を持っている。
「そうです。お金稼ぎに来ました」
隠すようなことでもないので事実を伝える。
すると、俺たちに話しかけてきたお姉さんは驚いた声を出し、憐憫の眼差しを向け、もう一人のポニーテールのお姉さんは何かを決意したように拳を握っていた。
「……他に仕事はなかったの?」
俺はポニーテールの人の質問に答える。
「まあ、一番割がいいので」
俺の言葉に、お姉さんは涙で目を潤ませている。
何か重大な勘違いをされている気がして、俺は慌てて訂正を入れる。
「ちょ、あの、別に無理してるわけじゃないんですよ?」
「えぇ……大丈夫です。そうやって人に弱みを見せないように生きてきたんですよね……ぐすん」
「こんな子が生まれないような国にしなくては……」
しかしお姉さんは声も上擦り、鼻をずるずるいわせて俺に近づいてきた。
ポニーテールのお姉さんも何かぶつぶつ言っている。
「えぇ〜……。なんでそうなるんだ……?」
全く誤解が解けていないどころか、更に誤解を深めたような気がしてならない。
そうしているうちに、お姉さんは俺の前まで来て、頭を撫でてきた。
「よしよし、もうこんな危険なことしなくて大丈夫ですからね。お姉さんが安全で割の良い仕事を探してあげま……なんてことですか……!」
「っ! あの、これは!」
お姉さんの手が俺の耳に触れてしまい、彼女は驚きに表情を染める。俺は一気に警戒心を高め、お姉さんから離れようとする。
しかし、お姉さんが俺の頬を両手で挟んだことによって俺の動きは止められた。
「これは……なんてことですか。なんてことですか!」
「うぶっ」
そして、強い語気とともに抱きしめられた。
「辛かったですよね……。幼いのに生計を立てなければならず、しかもハーフということで迫害までされたんでしょう……」
いやぁ、まあ別に間違ってはないんだけど、生きていく上で金銭的困窮はしてないんだよなあ……。
お姉さんは号泣していた。そして、その涙はお姉さんの顎の下にあった俺の服へ全て落ち、俺の右肩はびちょびちょになっている。
誰か助けてくれ。
「シアンの服びちょびちょじゃん」
ルージュさぁん!
今までだんまりを決め込んでいたルージュが助け舟を出してくれ、俺はなんとかお姉さんの捕縛から解放された。
「『ドライ』。はい、これで大丈夫。私はソフィで、この子はナタリア。騎士団に所属しているんですが、白虎騎士団って知ってますか?」
俺の服を乾かした色素の薄い金髪の女性――ソフィさんは自己紹介をしてくれた。
「いえ、知らないです」
「あら……。じゃあ、簡単に説明すると――」
ソフィさんの話をまとめると、この国には四つの王直属の騎士団があるらしく、そのうちの一つの騎士団に二人は入っているらしい。非常に雑な説明だが、特に深堀りする必要もないだろう。
「なるほど。ソフィさんたちはすごい人たちなんですね」
あんまり精神年齢相応な返答をしても変に思われるので適当におだてておく。
すると、ソフィさんは嬉しそうに微笑んだ。
「うふふ。そうですよ。ですから、困ったことがあればなんでも言って下さい」
続いてナタリアさんも、
「ああ。すぐに解決とはいかないかもしれないが、絶対に動いて見せるさ」
と、快活に笑顔を見せた。
「ありがとうございます。じゃあ、困ったことがあったら相談させてもらいますね!」
俺も、彼女たちの親切心に笑顔で返す。
それが健気に映ったのか、今度はナタリアさんと二人でなでなでと抱擁をされた。
二人はルージュにもやろうとしたが、彼女は全力で拒否したため、触れられることはなかった。
一通り俺を弄り終わったあと、ナタリアさんが口を開く。
「そういえば、この街は異常に税金が高いな」
その発言がソフィさんの中で何かと結びついたのか、俺たちをじっと見つめる。
「な、なんですか?」
「……名前を聞いてもよろしいですか?」
「えっと、俺がシアンで、この子がルージュです」
「あなたたちがダンジョンに潜らなきゃならなかった理由って、この税金のせいなんじゃないんですか?」
あ、やべ。これ下手したら領主の爵位取り消しとかなるやつかもしれない。
そこまで考えて動揺、固まった俺を見て、二人は声を揃えて言う。
「「明日一緒に領主に会いに行こうか(行きましょう)」」
「いや、大丈夫です……あの、あのーっ!」
俺の言うことに二人は聞く耳を持たず、明日二人と領主の屋敷に行くことが決定してしまったのだった。
☆☆☆☆☆☆
「おかえり二人とも!」
二人と別れて、ギルドで換金し、宿に帰った俺は夜遅いにも関わらずアイラ、リア、サニャクルシアに出迎えられた。
三人とも寝ずに待っていたらしく、目が赤くなっており、アイラに至っては目がとろんとしている。
「ただいま、待っててくれてありがとうね」
俺はみんなの健気さに感動して、みんなの頭を撫で回す。
「むぅ〜。私がお姉ちゃんなのにぃ」
「たまにはこういうのもいいかも」
「ふ、ふぁぁ」
三者三様の反応を示す彼女らだが、アイラとリアはお姉さんを気取っている立場としては納得いかないのだろう。
「シアン〜、仕返しだよ〜」
「弟を労うのがお姉ちゃんの役目よ」
「ちょ、やめてぇ……」
仕返しとばかりにシアンを撫でまくる。
特にアイラのなでなでに弱いシアンは、しばらくの間なすがままにされる――かと思いきや。
「待って……シアン。今日ダンジョンに行ったんだよね?」
アイラが手を止めて、真剣な表情でシアンに問う。
「え? うん」
「……なんで、ダンジョンに行ったのに知らない女の人の匂いがするの〜?」
アイラは笑顔で俺に尋ねるが、その目は全く笑っていない。
「や、あの、ダンジョンで色々あってですね……」
「お姉ちゃんに黙って変なことしちゃだめでしょっ!」
「シアン君、私に黙ってそんなことしてたの……? 最低っ!」
「シアン君……そ、そういうことに興味あったんだ……」
「話を聞いて! 違うって! なあルージュ!」
「……ふん」
俺の弁明は全て無視され、俺は彼女たちに袋叩きにあったのだった。
深夜、俺へのお仕置きで気が済んだ三人はそれぞれ自分のベットに入った。やはり夜更かしは辛かったようで、みんなすぐに寝息を立て始めた。
さて、俺も寝ようかな……。
特にすることもないので俺も寝ようと目をつぶっていると、布団がゴソゴソと動いて、誰かが俺のベットに潜り込んだようだ。
そいつは俺の腕を両手両足で拘束し、胴体にも同じような感触かあったため少し眠りづらさを感じたが、俺の身体もやはり子どもなのだろう、特に気にすることなく意識を手放したのだった。
俺の身体にひっついていた少女には、白色の尻尾があったそうだ。




