ローラ6
「キイチロ?キイチロ?」
返事がない。ただの・・・いや眠ってしまった様だ。岩の壁にもたれ掛かって、崩れる様に眠ってしまった。あたしは近づき、肩の辺りをチョンチョンと突っついてみた。
・・・キイチロは全く目を覚ましそうになかった!
このまま見ているのも良いのだけど、ちょっと苦しそうな体勢だなと思い、肩を持って床に寝かしてあげた。意外と重い。掴んだ肩の筋肉が固くて、でも、スベスベしてる。キイチロの頭に顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅いでみた。何だかお日様を浴びた狼の様な匂いがする。(あぁ・・・ずっと嗅いで居られるゥ・・・) キイチロの頭を抱え込んであたしは満足感に浸ってしまう。頭の匂いを堪能すると、あたしは膝を折りその上にキイチロの頭を乗せてみた。
(クッ・・・こ、これは良い物だ。)どこかで聞いたセリフを思いながら、キイチロの顔をじっくりと眺める。
細身の身体に良く似合う小さめの頭に短いけどサラサラの黒い髪、知性を感じさせる額と男らしい太い濃い眉、瞳は閉じているけど睫毛か長くて女の子みたい。でも顎のラインとかしっかりしていて、唇がフルフルで・・・・・・・
(ちょっとだけ・・)
指先で唇に触れてみる。手の甲に鼻息が少し掛かる。あたしは何だか、背筋がゾクソクしてきた。(・・・もっと・・・)
片手をキイチロの頬に当て軽く撫でながらもう片方の手を首筋に這わせて行く。筋肉の付いた固い首の真ん中にある喉仏を触ると骨の様な、でも柔らかい感じにドキドキしてきた。首の下にある鎖骨は凄くエロチックであたしを誘っているみたいだった。
もう我慢が出来なかった。スウスウと寝息を立てているキイチロの頭を起こさない様にとドキドキしながら膝の上から下ろして行く。
慎重に慎重に、目を覚まさないでと願いながらゆっくり下ろすと四つん這いのまま体を回り込ませて、キイチロの胸へと顔を近づけた。側に寄るとキイチロの汗の匂いなのか、男の匂いがして顔を着けて嗅ぎたくなるが、今の目的は其処じゃない。あたしはゆっくりキイチロの鎖骨に向かった!あたしはハアハアと息を切らして鎖骨にたどり着くと口を開け、舌を付けようと・・
「・・・何してる。エロ吸血鬼。」
あたしはキイチロに覆い被さり鎖骨に舌を這わせ様とした格好のまま固まってしまった!
§§§
まだ眠り足りないのだが、何かを感じたのか、うっすらと目を覚ますとローラが四つん這いになって舌を出しているのが見えた。
正直美味しいシチュエーションなのだが、俺は吸血鬼に襲われる趣味はなかった。なので声を掛けたのだが、ローラは固まったまま動かなくなってしまった。
「ローラ・・」
声を掛けるがローラは動かない。多分全身が真っ赤になっているのだろう。良く見るとプルプル震えているみたいだった。顔には冷や汗だろうか?だらだら流れて彼女の心情を良く表している。冷や汗ってあんなに流れるモノなんだな。
俺はゆっくり起き上がり少しだけ離れると、ローラは『ビョン』と跳ね、そのまま綺麗な土下座の体勢を取った。これがウワサのジャンピング土下座か。
「スミマセンデシタ!!」
ローラは顔を地面に付けたまま、全身で謝り始めた。なんかそのまま潜って行きそうだったので、
「あー、分かった。取り敢えず顔を上げろ。」
と言ってみたが、ローラはプルプル震えて顔を上げない。仕方ないので
「俺はまだ眠いんだ。もうしないって言うなら許してやるから顔を上げろ。」
と言って見るとようやく顔を上げて俺を見た。その顔はイタズラが見つかった子供か、悪さをして叱られた仔犬の様だ。 俺はため息を付くと
「後で罰を与えるが、俺は今眠いから俺が起きるまでそのまま正座してろ」
そう言うと、俺はそのまま横になって眠ってしまった。