第3話〜街の人〜
俺は、ファルーの手を引きギルドを出た。
国営であるギルドは奴隷紋のあるファルーを助けてやれないらしい。
じゃあ、俺が届けてやるまでだ。
俺はファルーの前に片膝をつく。
「ファルー、俺がお前を両親のところへ連れて行ってやる。付いてきてくれるか?」
ファルーは、首と尻尾をぶんぶん振りながら抱きついてきた。
とりあえずは、肯定ということでいいだろう。
「よし、じゃあ、旅の準備だ。まずはファルーの服からだな。」
ファルーは自分の服を見て、小首を傾げた。
ファルーは布製の半袖シャツと布製のズボンしか着ていないのだ。もう少しお洒落をしてもらいたい。
「さぁ、服屋に行こう。可愛いのを買ってやる。」
俺はファルーを片手で抱っこすると街を歩き始めた。
実は服屋は昨日の散策で見つけていない。散策というよりは散歩目的で歩いていたから、目立っていたギルドだけを見つけることが出来たのだ。
誰かこの街の地図を作ろうとは思わなかったのか。
ちなみに、この街も円形になっておりその中心にギルドがあるようだった。
俺はファルーを片手で抱っこしながら街を歩いていく。
日用品店、古本屋、武器屋、防具屋、宿屋、雑貨屋、服屋、喫茶店、青果店、テントになっているものもあれば建物で運営しているものもある。
その時突然、ファルーに耳を噛まれ動きを止められた。ファルーの方を見ると、ファルーは過ぎてきた店の一つを指差していた。
「服屋…あっ、思いっきりスルーしてた。」
踵を返して戻り、服屋の前まで来る。
「よし、入るか。」
俺は服屋の扉を開け中に入った。
「いらっしゃい。」
店の中は広くはないが、狭くもなかった。奥のカウンターに40代ほどのおばさんが椅子に座りながら俺を、いや、ファルーを見ていた。
俺はファルーを抱っこしながらカウンターの前まで歩いていく。
「すいません。」
「あぁ、分かってるよ。その子のだろう。あんた、旅人だね。これまで何人も旅人は見てきたからね。なんとなく分かったよ。動きやすくてかわいいのを着せてやりたいんだろう。いいよ、待ってな。」
おばさんはひとしきり言うとカウンターの奥に入っていってしまった。
この街の人はみんなおしゃべり好きなのだろうか。
その間に、俺は店内の服を見て回る。ドレスに、スーツに、ワンピース、メイド服まで置いてある。どこが発達していてどこが発達していないのかよく分からなくなる。
「どうした、少年。珍しいものでも見つけたか?」
そんな長い間ぼーっとしていただろうか。店主がいつの間にか服を持って出て来ていた。
「メイド服とかまで置いてあるんですね。」
「あぁ、服屋だしね。着せてみるかい?おいで、お嬢ちゃん、着せたげるよ。店番よろしく頼むよ、少年。」
正直、見てみたい。
ファルーは、降ろしてやるとこちらを向いてきたが、大丈夫だと微笑んでやると店主について奥に入っていった。
少しして、店主が奥から話しかけてきた。
「どうしたんだい、この子は。迷子なのかい?」
真剣な口調だ。
「奴隷紋、知っているんですね。」
「これまで何度か見てきて気になって調べちまったのさ。初めて知った時はびっくりしたもんだよ。」
「奴隷商に誘拐されていたみたいなんです。そこをたまたま助けて、これから東の獣人族の森まで届ける予定なんです。」
「へぇ、じゃあ、まずは南の港を目指すといい。」
「はい、エリーさんもそんなようなことを言っていましたね。」
「そうか、あそこは魚が美味しい港町だよ。」
「はい、行ってみます。ありがとうございます。」
この街は、おしゃべりで優しい人がたくさんいるようだ。
「はい、出来たよ、お嬢ちゃん。少年、見てやんな。」
店主はそう言うと、ファルーを連れて奥から出て来た。
瞬間、俺は初めて萌え死ぬという単語を理解することができた。
白黒のメイド服の下からファルーのふさふさの尻尾が覗いていてなんとも可愛らしかった。
ファルーはすぐに店主の陰に隠れてしまう。
「似合っているよ、ファルー。こっちおいで。」
ファルーは、こっちに来ることはなかったが、ふさふさの尻尾だけは大きく横に振られていた。
「これは、旅するには向かないからね、試着だけだよ。おいで、お嬢ちゃん。次は旅人用の服だよ。」
また、2人で奥に入っていく。
「少年、あんたの服はいいのかい?」
「俺のはいいんですよ。男はある程度のものがあれば十分でしょう。最悪、上は裸とかでも。」
「ハッハッ、威勢がいいね。若いのはいいもんだよ。今の内に色々なことをやっておきな。」
また少しして、店主がファルーと共に奥から出てきた。
今度は、まさに旅人の女の子といった服装だった。
肩までのフード付きマントに、軽い胸当て、その下には膝上丈の麻製のワンピースを着て腰を帯びで結んでいる。
フード付きマントは暗い朱色でロングをぼさぼさにしたような暗燈色の髪の毛と実によくマッチしていた。
足には、マントと同じくらいの色のブーツも履いている。
「おぉ、似合っているぞ、ファルー。」
相変わらず、ファルーは恥ずかしそうに顔を赤らめ下を向いていたが、尻尾だけは元気に動いていた。
「これにします。値段は…」
「いや、お嬢ちゃんの可愛さと、少年の若さに免じて今回はタダにしてやろう売れ残りを押し付けただけだしね。でも、可愛いだろう?」
「はい、可愛いです。ありがとうございます。」
俺が頭を下げると、ファルーも慌てて店主に頭を下げた。
「また、この街に来た時は顔を見せに来な。死なずに待ってるよ。」
「はい、ではまた。」
その後、ファルーの服をタダにしてもらっただけでなく、コーヒーを出されて小一時間談笑してしまった。
俺はファルーの手を取ると街を歩き出す。
街は昼前ということもあってかさっきより少し賑わっていた。
「じゃあ、次はRPG定番の武器屋に行きますか。」
さっき通り過ぎてきたはずだからと来た道を戻っていく。
少し戻ると、武器屋らしき建物が現れた。
もの凄い鉄の匂いと、存在感を醸し出している。もちろん、周りの建物と見た目に違いはないのだが、纏うオーラのようなものが違っていた。
俺は、ファルーを連れて武器屋に入っていく。そこは、男の夢の楽園だった。
大剣、細剣、刀、斧、槍、盾、棍棒、鎌、鉄球、色々なものが壁に立てかけてあったり、大きな壺に入れられたりしている。
一番奥では、いかにも歴戦の大男が自慢の大剣を砥石で研いでいる。
俺は今、ここまでで一番ファンタジーを感じている。
「いらっしゃい。ここを選ぶとは、良い感性を持っているようだな。普通の者どもは気味悪がって近づこうとしない。」
「纏うオーラのようなものが違うとは感じたが……」
「そうかそうか、良いだろう。お前に合うのを探していけ。」
機嫌をよくしてくれたらしい。大男は俺に笑いかけてきた。
俺は言われた通りに色々と試してみた。
大剣やら鉄球やらは重すぎてすぐにやめてしまったが、細剣や、刀や、片手斧は使いやすいと思った。
鎌の長いやつなんかは長いローブ着て骸骨の仮面でもはめて振り回したら最高にかっこいいんだろうなと思うぐらいには、俺は厨二病をこじらせているらしかった。
「おっちゃん、俺はこれが良いと思うんだが。」
俺は細めの西洋剣を取り出した。
いわゆるバスターソードと呼ばれる部類で、片手でも両手でも扱えるように設計された剣らしい。
グリップも丁度いい太さで、重さも重すぎず軽すぎずといった感じだった。
「振ってみろ。」
俺は周りに当たらないように少し開けた場所に出ると剣を片手で持って振ってみた。意外といい感じだ。
「これにします。」
俺は男に剣の代金を払うとファルーを連れて武器屋を出た。
剣は鞘にしまいヒモで背中にかけてある。
他にも色々と行きたいところがあったが、俺はファルーとギルドの酒場で軽い昼食をとると宿に帰ることにした。
ファルーが今にも立ったまま寝てしまいそうな顔をしているのだ。
しょうがないからとファルーを抱っこしてやるとすぐに眠ってしまった。それほど信用してくれてるのは嬉しいことだが、この先旅に出るのに大丈夫なのだろうか。
まぁ、その時は俺が抱っこしてやればいいか。
宿に着くと女将さんがカウンターから出迎えてくれた。俺が口の前に人差し指をやると察してくれたのかすぐに部屋の鍵を渡してくれた。
「がんばりな、にいちゃん。」
小声で応援してくれた。
「はい、頑張ります。」
俺も小声で返すと部屋に向かった。
展開が遅い気がしてならないです。
でも、マイペースで行きます。