第16話~四天と黒剣士~
目を開けると、俺はベッドに寝ていた。
この、元の世界の病院にあったものと同じぐらい綺麗なベッドには見覚えがある。
確か、冒険者ギルドの診療室にあるものだったはずだ。
そこで俺は、足元でルナとファルーがイスに座りながらベッドに突っ伏して寝ていることに気が付いた。
2人を起こさないように上半身だけ起き上がり窓から外を見る。
太陽はすでに頂を過ぎ、西に傾き始めていた。
数時間寝ていたのか、はたまた数日後なのかはわからないが、俺はグランベル商会のあの用心棒との戦いで斬られて倒れていたところを誰かに助けられたようだ。
その時、俺の動きに気付いたのか、ルナがその眠たそうな目を開けた。
「おはよう、ルナ。」
まさか俺から声を掛けられるとは思ってなかったのか、俺が話しかけたとたんに文字通り欠伸をしようとしていたのを噛み殺し、物凄く驚いた顔で俺の顔を見つめた。
「心配かけたよな。」
俺が笑いかけるとルナは、目に涙を溜め今にも泣きそうな顔で俺の胸に飛び込んでくる。
「本当に心配したんだからね。ギルドの人に呼ばれて来た時にはもう傷は治ってたけど、服が血だらけでびっくりしたんだから。」
一通り言い尽くすとルナは俺から離れてイスに座りなおした。
「その血だらけになった服は?」
「傷んでてすぐに使い物に成らなくなりそうだったから捨てちゃった。」
「簡単に言ってくれるな。けど、商人が言うんだから本当何だろうな。で、今俺が来ているこの服は?」
「私が着替えさせてあげたよ。在庫余りで申し訳ないんだけど。」
「いや、ありがとう。」
プリーモの街に居る時から着ていて今回も派手に転がり回っていたからな。
そして、これで元の世界から持ってきた物は、自分の体以外は全て無くなってしまったわけだ。
意外にも悲しさや寂しさが湧いてくることもなかった。
もうすっかり異常が日常のこの世界に染まってしまったのかもしれない。
俺が思考から戻り、ルナから状況を教えてもらおうと口を開きかけたその時、ファルーが眠そうな目で起き上がった。
『おはよう?』
『あぁ、おはよう。』
まだ覚醒しきってない頭で理解ができていないのか、俺の顔を見つめて固まるファルー。
その数瞬後、思いっきり俺の胸に飛び込んできた。
そのまま満面の笑みで抱きつくと、俺にしがみついてまた眠ってしまった。
「昨日、頑張って夜更かししてキミの看病してたからこのまま寝かせてあげて。」
ルナの言葉に俺は気付く。
あのリュウタロウという剣士が言っていた、護衛対象を残して死ぬな、というのは仕事としてだけではなく、親しい人を悲しませるなということも含んでいたのだ。
わかっていた、いや、分かったつもりでいた。
ルナは、最悪の場合他の人に頼むことも出来ようが、そんなことをルナにさせたくはない。
しかし、ファルーは俺しか頼る人がいないのだ。
まだまだ俺も子どもだったな
19歳だからもともと大人ではないのだが。
「とりあえず、昨日のことで私の知っていることを教えるよ。」
ファルーを起こさないようにか、少し小さめの声でルナが話し始めたので思考を頭の引き出しにしまっておく。
「昨日って言っているあたり、俺は丸一日ほど眠っていたってことか。」
「そっか、キミは寝ていたからわからないんだよね。キミは昨日ここに運ばれて先生の治癒魔法で外傷はなくなったものの、意識不明のままさっきまで寝ていたんだよ。でも、先生は何日も目が覚めないかもしれないって言ってて、すごく心配したんだよ。」
「ありがとう。」
胸の中で眠るファルーの耳と頭を撫でながら昨日のことを聞いていった。
ファルーが俺の額に乗っていた濡れタオルを夜更かししながら変えていてくれたこと、ルナも負けじと夜更かしして俺の看病をしていてくれたこと、ルナは俺が運び込まれて少したってからしか知らないこと。
一通り知っていること、やっていてくれたらしいことは教えてもらったが、俺は二人に感謝しながらもその後のグランベル商会の動向が気になっていた。
その時、部屋の扉が開けられ2人の人が入ってきた。
1人はギルドの治癒魔法使いの診療室の先生。
もう1人はあの時の黒剣士だった。
そういえば、ギルドの酒場で会って以来会ってないが、夜の方の監視に入っていたのだろうか。
「もう目が覚めたのね。驚きの回復力ね。」
驚いてるようには見えない顔で、先生は俺を見る。
「あなたが治してくれたんですよね。ありがとうございます。」
「どういたしまして。でも、これが仕事だから気にしないでちょうだい。」
どう見ても明らかに自然治癒することはないほど深い傷だったはずだ。
魔法というものは本当に素晴らしいものだと改めて実感した。
「で、黒剣士さんはどうかしたんですか?」
「怪我の方が治ったことは知っていたがいつ目覚めるか分からないとのことだったからな。時間が空いたので見舞いに来ようと思い至ってな。」
ファルーの座っていたイスを引き、黒剣士はそこに座る。
「ノーラ、建物の中では鎧は脱ぎなさいっていつも言ってるでしょ。」
先生の指摘に黒剣士は慌てて立ち上がると、呪文のようなものを唱えた。
「四天黒装、解除。」
「四天様!?」
すると、黒剣士の鎧が淡い光を出し溶けるように消えた。
中からはこの一週間俺と一緒に監視任務に就いていた女性が出てきた。
「あなたは!?」
ルナと俺で驚く内容が違う中ノーラはきょとんと首を傾げ、先生は自分のイスで微笑していた。
「旅人さんも、確かルナさん?も私の事はノーラでいいですよ。」
「ノーラさんが黒剣士だったとは驚きです。」
「私もノーラさんが四天様だったなんてびっくりです。」
「四天様?」
「四天様なんて呼び方やめてください。私もあなたたちと同じ普人種なんですから。」
「そんな!私たち魔力も天魔力もない私たちと同じなんて恐れ多いですよ。」
「私が皆さんと同じがいいんです。」
「……それは、すいませんでした。」
「いえいえ、よくあることなので大丈夫です。」
「ちょっといい?四天様って何なんだ?」
このまま流されてしまいそうだったので自分の質問をぶつけておく。
「キミ、黒剣士の名前は知ってるのになんで四天を知らないの?」
「いや、見るからに黒い鎧と剣持ってたから呼んでただけなんだけど。」
「じゃあ、私の言う黒剣士もわかってないの?」
「ああ、わからないな。」
俺の言葉を聞き、ルナは頭を抱えるしぐさをするが、ノーラは驚いた顔をしていた。
「じゃあ、私が少し説明しましょう。」
自分から自分の能力の話をすることを避けるノーラだが、世界的に有名な自分の二つ名を知らないという青年が現れ、無意識のうちにその青年に興味が湧いていた。
「天人種の存在は知っていますね?」
「知らないな。」
「・・・・」
「あ、知ってるものとして進めてください。」
「わかりました。このメーディオ島国にある山の上には天人種の街があります。」
「あのでかい山か。」
「えぇ、そこに到達して天人種から天魔力を授かることができれば、普人種であっても魔法を使えるようになります。それを堕落とは分けて昇華と言います。そしてこの国には昇華が4人います。東西南北の港にそれぞれ配置されています。」
「へぇ、それで黒剣士ってんのは?」
「授けられた装備の色で決められたようです。黒剣士、白騎士、赤魔導士、黄拳闘士、愛称のようなものです。」
「それで四天様なんて呼ばれているんですね。」
「えぇ、お恥ずかしい限りですが。」
「いや、かっこいいですよ。」
「ありがとうございます。」
「数年後には五天様って呼ばれるようになるんで覚悟しておいてください。」
「え。」
「え。」
俺の言葉の意味が分からないと首を傾げるノーラとルナ。
それに対して、俺は拳を胸にやり答えた。
「いつか俺がその五人目になりますから、それまで倒れないでくださいよ。」
ノーラは一瞬固まるが、すぐに笑顔を見せると俺に答えた。
「ふふっ、もちろんこの南の港町クリーペルでお待ちしていますよ。」
その後、ノーラから倒れていた俺を介抱してくれたのは自分だと言われ改めて頭を下げると、じゃあお礼として今度料理をご馳走させられてください、と言われそれはこちらが施してもらってばかりで申し訳ないと言うと、私がそうしたいからいいんです、と少し頬を膨らまされてしまったので素直に厚意を受け取っておくことにした。
しかし、明日には出発するのでまた来た時にと言うと考えておきますと言われその日は帰るも、次の日の朝、朝ごはんをご馳走させられてくださいと宿屋まで迎えに来るのには苦笑いを浮かべるしかなかった。
俺を介抱した後、先に向かわせていた自警団に合流したがグランベル商会を逮捕するには至らなかったらしい。
しかし自警団によってマークされていたという情報は、次のグランベル商会の目的地の東の港町に回されるようだ。
次の日、ノーラに朝ごはんをご馳走され昼食用ににサンドパンをもらうとトンファーの馬車に乗り込み次の街に向けて出発した。
読んでいただきありがとうございます。
突然ですが、来週から更新を毎週月曜日の0時0分に変更いたします。(週の初めを日曜日と仮定しております。)
付きましては、あらすじの一新を行う予定でいます。
これからもご愛読の程よろしくお願いします。




