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あの夏の記憶  作者: としゆき
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第3話

松南駅は比較的大きな駅だ。東京に向かうには交通の便が良く、乗り換えなく都心まで行ける。程よく都心から離れているとあって、ベッドタウンとして栄えている松南市の駅だ。


平日の昼頃とあって人はそこまで多くはないが、ちらほらと学生の姿も見える。私鉄に乗り換える人や、駅ビルに吸い込まれていく人。駅の構内から出ると、ドラッグストアの特売セールの垂れ幕が『本日特売』を掲げている。


もっとも、毎日掲げているような気がするのだが。その横では漫画喫茶の客引きが法被を着て一生懸命道行く人に声を掛け、売り上げを上げようと躍起になっている。夏の暑さで汗にまみれた笑顔は、少しひきつっている印象だ。



 柊一が松南駅に行くのは久々だった。子供の頃はよく行ったが、高校生になってからは足が遠くなっていた。電車通学になり比較的行動範囲も広がったのでわざわざ家の近くの松南駅で遊ぶことはなく、もっと大きな都市部の駅に遊びに行くようになった。

松南駅は便利ではあるがどこか町並みは古臭く、大型の百貨店はあまり若者が行くようなところではない。そのことも柊一があまり松南駅に行かなくなった理由だった。



 えーと、時計台ってどっちだったかな



 そんなことを考えながら懐かしい駅をうろつく。現在時刻は十一時四十分。待ち合わせの時間である十二時までまだ少し余裕があるな。そう考えながら柊一は久々の駅の情景を懐かしんだ。以前はなかったカフェ店や、改装してほかの駅ナカと同じ名前になった駅ビル。少し見ない間に、慣れ親しんだ駅はまるで始めてくる駅のようだった。



 辺りを見回しながら歩いて西口の方に向かう。松南駅には出口が2つあり、大型スーパーに繋がる東口と、国道や土手沿い、百貨店などの建物が並ぶ西口がある。今日の目的地、時計台があるのは西口だ。雑多な構内を抜けると夏の直射日光が視界を遮るほどの光を放っていた。電車を降りてから構内を歩く間日の光を浴びていなかった柊一は少し眩しさに目が眩んだがすぐに慣れた。


正面を見ると青空と共に時計台が目に入る。白くて古めかしく、時計台というにはそこまで大きくもないこの建物は柊一の知っているそれだった。



 なんか懐かしいな。



 柊一はそう思うと少し微笑ましくなった。



ふと小学生の夏休み、土手沿いで行われる花火大会にいった記憶がよみがえる。待ち合わせはこの時計台だった。





 ―あれ、誰といったんだっけ




 花火大会に行った記憶は確かにある。この時計台で待ち合わせて行った。小学生くらいだったと思う。確か4人くらいのクラスの友人と行ったはずだ。しかし、いくら考えても柊一は誰と行ったのか思い出すことが出来なかった。記憶に黒く靄がかかっている。まるで人工的に靄をかけられているかのような感覚になる。あと一歩で思い出せそうなのに、思い出せない。



 あぁ、もう。



 思い出せないことにイラつきを覚えた。暑いこともイライラに拍車を掛けているのか。別にイラついても仕方がないのに。柊一はふーっと長めに息を吐き、呼吸と共に心を整える。忘れてしまったことは仕方ない。そう自分に言い聞かせ、時計台の元へ歩く。



時計台は駅周辺では割と目立つので待ち合わせスポットになっている。そのため、柊一のほかにも何人か待ち合わせをしている人たちがいた。スマホをいじるもの、出来るだけ日陰の方に寄るもの、日傘を指すもの。同じ待ち合わせでも、色々な人がいるな。柊一は周囲をちらりと見ると視線をスマホに移す。時間を確認すると十二時、待ち合わせの時刻だった。


そろそろかな。



そう思いスマホを学生服のポケットにしまうと視線を駅の構内へと向ける。電車から降りたであろう人たちがぞろぞろと構内から出てくる。何人かは時計台の方に向かって歩き、周りの待ち合わせをしていた人たちと笑顔を交わし、何処かへ向かう。時計台の下にいるのが柊一だけになった。






来ないじゃん、電車遅れてんのかな。


乗り遅れたとか。いや、でもさっき沢山人が歩いてきたから電車が遅れていることはないか。連絡先も知らないとかマジ不便だなー。



来るはずもない連絡を確認するためだけにポケットからスマホを取り出し時間を見て、またポケットに戻す。十二時五分。よくよく考えたら自分がどんな人を待っているのか自分でもわからないことに気付いた。分かっているのは幼馴染で同い年の女の子というだけ。同い年の女の子なんてきっとそこら中にいる。


それに自分はまったく覚えていないのだから、相手が見つけてくれなければただ暑い日に外で延々じっとしているだけになる。特徴とか服装とかくらい聞いておくんだったなあ。柊一は自分の確認不足と親父の計画性のなさに、はぁ、っとため息をつき、やれやれといった感じで目線を構内の方へと戻した。




すると構内からキョロキョロとしながら出てくる一人の女の子がふいに目に留まった。


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