蜜月(私が見た夢5)
こんな夢を見た。
私は蜜という名の姫だった。
私の国は滅ぼされ、敵国に捕まった私は、殺されることなく敵国の主の妻となった。
城主、恒正は恐ろしい噂をたくさん持っている人だった。
少しでも気に入らなければ殺す。
昔そんな話を聞いたことがあった。
でも実際は違った。
とても優しい人であった。
「蜜…」
軟らかく私を呼ぶ声。
恒正との日々は、甘い蜜のような日々だった。
愛された私は、やがて身籠った。
恒正は私を城から逃がした。安全な場所で子を産むように、と。
初めて一人になった。
とても孤独だった。
私は大きくなったお腹をさすり、一人悲しく月を眺めた。
こうして、よく二人で月を見上げた。
お互いの孤独を埋めるように寄り添い、月を見た。
「早く、恒正様とお会いできますように」
私は毎日、月に祈りを捧げた。
それから私は男の子を生んだ。
蜜が子供を生んで半年ほど経った頃、一人の使者が城を訪れた。
「蜜様はどこにおられます?」
「蜜を探してどうするつもりだ?」
「…」
「どうせ蜜をお前らの主に嫁がせ、俺の国と蜜の国をのっとろうという思惑なのだろう?
違うか?」
「分かっているなら話は早い。
さあ、早く蜜様を出すんだ!」
「誰が蜜を渡すか!」
時は戦国。
弱い国は滅びるのが常。
こうして、この国もまた滅んでゆくのか。
使者は恒正と切りあった。
「蜜様を差し出せば、命は助けてやる」
「はっ、ふざけんじゃねぇよ!」
死んでも言うものか!
「これで終わりだ!」
恒正の刃が使者を貫いた。
使者は崩れ落ちた。
あとどれくらいの国が蜜を狙うのだろう?
蜜の国には金山がある。
蜜を手に入れれば、金が手に入る。
どうやって守ればいい?
遠ざけても、いつかは見つかる。
どうすれば…!
ハッとする。
城が騒がしい。
どうやら火を点けられたようだ。
仲間がいたのか?
くそっ、この城が落ちてしまう。
「恒正様!」
「蜜?」
なぜ、ここに?
「蜜もご一緒します」
「何を言っている!」
「恒正様と過ごした日々は、とても幸せでした。
恒正様を失ってまで、蜜は生きていたくはありません!」
「しかし!」
「大丈夫です。
子供は元気に育つでしょう。
城主とならず、平民の子として人生を歩むのです。
それが私の願い。
あの子が生きることだけが、願いなのです」
私たちのように、国のために犠牲になって欲しくないから。
私は子供を下女に預けた。
下女の子供として育つように。
「蜜…いいのだな?」
「はい」
見上げれば青白い月。
もう二人離れることはない。
永遠に。
二人は手を繋いで寄り添った。
そうして城は焼け落ちた。
二人を飲み込んで、総てが消え去ったのだった。