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「ただいまー」
家に着くと、フユと僕、そして後ろからナツキが続く形で入っていく。
リビングの扉を開けると、そこにはいつものようにのんびりくつろぐしずえさんの姿があった。
「おかえりなさい……あら、ナツキくん!久しぶりね」
しずえさんは僕の後ろにいるナツキの姿を見るなり、手に持っていた紅茶のカップをテーブルに置く。
「今日、うちで三人遊んでもいい?」
「全然いいわよ。むしろ嬉しいわ」
しずえさんは笑顔でそう言うと、ちょっと待ってね、と行って椅子から立ち上がり、キッチンの方へ行ってしまった。
僕らはそれを見届けると、二階の部屋へ移動した。
「わー、久しぶりだなあ、最後に来たのいつだっけ?」
「一か月前とかじゃない?中間テストの勉強で」
「懐かしいな~、初めてのテストだったからすごい頑張ったよね」
ナツキは部屋に入るなり床に寝ると、ゴロゴロと転がり出した。フユは近くに鞄を置くと、ふう、と一息ついて床に座り込んだ。
「暑いね、冷房いれよっか」
僕は机の上に置いてあるエアコンのリモコンを手に取ると、冷房のスイッチを押す。一気に部屋に冷気が充満していく。
「わーー涼しいー!生き返る~」
ナツキがそう言うと、フユもパタパタとシャツの襟を掴んであおぐ。僕も壁にもたれかかってはーと息をはいた。
すると、コンコン、とドアがノックされた。しずえさんだ。
「みんな、ジュース持ってきたわよ」
「ありがとうございまーす!」
しずえさんの差し出すコップをナツキは一番に受け取ると、それを一気に飲み干してしまった。
「ぷはー、おかわり…」
「はいはい、ここにパック置いておくから、みんな注いで飲んでね」
しずえさんはそんなナツキを見て微笑んだ。
「今日はみんなで何するの?」
「ナツキが宿題分からないんだって、教えようかなーって」
「ハルちゃんは勉強得意だもんね」
「数学だけだよ。文系科目できないもん」
僕は小学生の頃から数学だけは得意だった。テストではいつも百点だったし、中学初めてのテストでも90点台の高得点を取った。なんと学年二位。一位の人は百点だったけど。
「じゃあみんな、頑張って宿題終わらせてね」
そういうと、しずえさんは部屋のドアをゆっくりと閉めた。
「おしゃー!頑張ろ!」
「頑張るのはナツキでしょ…」
僕ら二人はナツキを見て、呆れたようにため息をついた。
「ねえ、そう言えばさ」
家に来て三十分が経とうとした頃。
ナツキの宿題はやっと一ページ目が終わった所だが、僕達はもう既に三分の二を終わらせてしまっていた。
そんな時、ナツキがシャーペンを耳に挟んで机に寄りかかり、声をあげた。
「ハルが休み時間声かけてたの誰?」
「転校生、夜永アキトって人」
「なんでか僕には無愛想なんだけどね」
僕はべー、と舌を出して頭に浮かんだ転校生の顔を思い出さんとかき消す。
「なんで?嫌われてんのハル?」
「わかんないよ、でも、他のみんなには普通に話すのに、僕には冷たいんだよね」
「嫌われてんじゃん」
「フユは黙ってて」
僕はフユの口をばっと手でふさいで、またうーんと考え込んだ。
「幼稚園一緒だったとか?」
「聞いたことないもん、夜永なんて珍しい名字」
「フユも知らないの?」
「……知らない」
フユはむすっとした顔で黙々と宿題を進めている。
「なんでだろ、分かんないなあ」
「明日もっかい話してみたら?」
「ナツキも話してみなよ!あの夜永って人、『……いい』しか言わかいから!」
「ふ~ん」
ナツキはそう言うと、耳にかけていたシャーペンをとるなり、また机に向かい出した。
「まあさ……とりあえず、ハル、ここ教えて」
「ナツキ………」
僕は呆れた。ナツキはえへへ、と相変わらず笑みを浮かべる。隣からもはあ、と小さなため息が聞こえてきたのがわかった。




