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「ハルちゃんと寝たら、風邪移っちゃわないかしら?」
しずえさんの言葉でフユと普段寝ている僕は、今日は一人でベッドを使うことになった。気を利かせてくれたフユは幸彦さんの部屋で、幸彦さんは出張で空けている幸彦さんのお父さんの部屋で寝ることになった。
「何かあったら呼んでね、部屋隣だから」「ありがとうフユ」
フユは粘りながらも数十秒してやっと扉を閉めた。心配性は少しばかり困ってしまうけど、その気持ちは風邪の時の心細さを緩和してくれてとてもありがたかった。
フユのいない寝室は久々だった。ずっとフユと二人で過ごしていたので中々に不思議な感覚だった。
週末に来るナツキの為にも、早めにこの風邪を治したい。ナツキとはクラスが離れてから、あんまりちゃんと遊んだことがない。小学校の頃はずっと三人で遊んでいて、中学のクラス発表の時のナツキは、平気だよと言ってはいたものの表情は少し寂しそうだった。と言っても毎日クラスに顔を出すからいつも一緒にいるのは変わりがないんだけど。
と思っていたら、机の上に置いていた携帯の画面が光った。僕は頑張って腕を伸ばしてそれを手に取ると、ナツキからのメッセージだった。
『ハル風邪大丈夫?あの後教室帰ってこなかったから』
「大丈夫だよ もう熱も下がったし」
『泊まり、いつでもできるから無理して治そうとしないでね!夏休みだってできるんだから』
ナツキはいつも無邪気で素直で明るくて、でもとても優しい人だ。細かいことにはすぐに気がつくし、誰よりも早く人の心配をする。フユもそうだけど、いつも一緒にいて気がつくのはナツキだった。僕はそんなナツキがずっと好きだ。
「そういえば夏休みだったね、夏に長めに泊まってもいいかも」
『うん!今度うちにも来てよ 風邪よくなるといいね』
「ありがとう!ひさびさに行きたいな じゃあおやすみ」
『おやすみハル』
僕は携帯を机に戻して、仰向けになった。時計を見ると、二十二時辺りを指していた。
まだ寒気は続いている。頭に貼られた冷たいシートが頼りだった。夏の夜の熱風が身体の上を流れていく。
僕は暑さとだるさとが入り混じった中で、揺らぐ視界を鎮めようと静かに目を閉じ、気づくとそのまま眠りについていた。
懐かしい匂いがする。
知っているようで少し遠い、でもいつもそこにある匂い。
ふんわり僕を包み込んでくれる干したての布団みたいに、あったかくて優しい匂いだ。
まだ混乱するなかで、僕は陽だまりをみていた。
「………お母さん………」
ぽつりと呟くと、その陽だまりは僕を抱きしめてくれた。
「大丈夫よ。……心配しないで」
目から溢れるこれは、きっと優しさのせいだ。僕は陽だまりをその短い腕でぎゅっと抱くと、陽だまりはにっこりと笑ってくれた。
「まだそばにいて、もういかないで 僕だけ…」
熱のせいでみる夢は、いつも同じだった。
これが夢だとわかっていても、それが僕の求めている存在じゃないとしても、僕はそれを手放したくない。
また僕を置いていく。
「また会えるわ、きっと」
懐かしいその匂いは、いつしか感じられなくなってしまう。僕は必死で掻き集めようともがいても、それはもう消えてしまったのだ。
「いかないで、いかないで、お母さん………」
僕の気持ちも虚しく、意識は遠のき、持っていたこの気持ちも、いつしか忘れるように、僕は醒めた夢でまた眠りについていた。




