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「…ハル、お弁当いらないの?」
六月の暑い日。僕は今日もこうしていつものように学校に来ている訳だけれど。
朝から頭が痛かった。肌になにか触れるたびに鳥肌が立ち、寒気がしていた。分かってはいたけれどこれは風邪だ。
前に座って三段弁当を頬張るのは、見慣れたブロンドヘアのナツキだった。いつも何かに気がつくのが早いのはこの金髪だ。
「朝から体調が少し悪くて…昨日長風呂してたら寝ちゃったからかな」
夏でも風呂に入るのが習慣になっている雪森家では、長風呂も体にいいとよく言われていた。
一昨日から、二日連続二時間ぶっ続けでの体育の後に、家でしずえさんに頼まれた模様替えでの家具の大移動。体に限界が来ていたのはわかっていても習慣づけられた長風呂で、僕はいつのまにか一時間ほど眠ってしまったようで、昨日はなかなか出てこない僕に痺れを切らしたユキが風呂に突入して来なければ凍えていたのかも。
そんなユキは委員会の仕事で今日はお昼はいないそうだった。お昼は夕陽とナツキの三人でとっていた。
「ハル、本当に体調が悪いなら保健室連れていくよ。すぐ下の階だったよね?」
「うん、よく怪我していくからね。この学校の保健室の先生、とっても優しいんだよ」
ナツキは自慢げにひざ小僧の傷を見せてくれるが、痛々しくて見れるものではない。夕陽もおげ!と嫌な声を出していた。
「でも本当に大丈夫?テスト前だから、あんまり風邪こじらせないようにしないと」
「そうだよ!週末はお泊りだし!」
「ただの風邪だろうから、一日で治ると思うからそれは大丈夫…」
半分も手がつけられないしずえさんのお弁当は、いつもなら美味しい美味しいと数分で食べ終われるが、今日は昼休みが終わる直前になっても食べ終わることができなかった。僕は結局五限前に教室に戻るついでにとナツキに付き添ってもらい保健室で休むことになった。
「じゃあ、俺は行くね」
「ありがとうナツキ」
中学の保健室は初めて入ったが、小学校の時とは違いとても広く、清潔感があった。私立というのはやはりどこか高級感がある。
「櫻井ハルくんだね。まず熱測ってみてくれますか?」
保健室の先生は珍しく男性の先生だった。見た目は二〇歳くらいに見えるけれど、入学式の時に確か三十だと言っていた記憶がある。
「先生、名前なんでしたっけ。忘れちゃって」
「ん、僕は雨水です。あ、熱測れました?」
ピピ、と体温計がなると、数字はなんと三十八度となっていた。そりや頭も痛くなる。
「んー、高熱ですね。早退もできますよ、お家に連絡しますか?」
「え……でも、フユが…」
フユは今日も明日も委員会の仕事で忙しいと言っていた。あまり心配かけるわけにはいかない。早退したと言えばきっと付いてくるし、それといってこのまま二時間休んでフユが終わるのを待つのも疲れそうだ。
フユの委員会は図書委員会。担当は木、金曜日で、図書室での図書の貸し借り、検品など図書に関すること全般を請け負っている。
僕はぽわぽわした思考を巡らせていると、先生は背中に手を回して僕をソファから立ち上がらせてくれる。
「一応、お家に連絡を入れますね。その間ベッドで寝ていてください」
雨水先生に連れられて僕はベッドに横たわった。雨水先生はふんわりした雰囲気のまま僕に笑いかけてくれた。
「大丈夫です、あとで雪森くんにも伝えておきますから…」
僕はその笑顔と言葉に安心してしまい、頭のグワングワンとうなる所を思いながら、気づけばねむってしまっていた。




