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小さい時の記憶。
目の前が赤に染まった、あの時。
すべてを理解して、すべてを知って、すべて変わってしまったあの日。
悲しさと同時に、僕を縛るなにかから解放されたうれしさもこみあげてきた、あの日。
何年経っても忘れられない。
脳裏にこびり付いて離れることは決してない。もうこれは、一生ついて回る出来事だ。
もう今日で、あれから6年になる。
懐かしいような、そんなことはないような。ずいぶんと時が進むのが早く感じられた。
ついこの間の出来事のようだ。もしかしたら、一週間前――――いや、一昨日の出来事かもしれない。
そう考えると恐ろしい。一体、毎晩こんなことを考えてなにになるんだろう。
さっさと忘れてしまえばいいのに。僕の脳の働きの鈍さに腹が立ってくる。
6年前。もうすべてを失って6年だ。それと同時に、あれからたくさんのモノをもらってもう6年経つ。
友人もできた。家族もできた。食べたことのないような沢山のおいしいものを食べて、見たことも行ったこともないような沢山のきれいなところへ連れて行ってもらった。そして、沢山の人から、受けたこともないような、たくさんのやさしさと愛情をもらった。
僕は、幸せ者なんだろうか。それとも不幸せ者なんだろうか。
それすらも未だにわからない。
でもわかる。
多分僕は幸せじゃない。
幸せだと心が勝手に勘違いしているだけだ。
僕は、そう毎日自分に言い聞かせて、心を落ち着けていた。それだけでも、今の日常を生きていくのが精一杯だった。
「昔と比べたら、お前はとても幸せ者だよ」
僕はもんもんと考えつつ、すべてを振り払うように一度寝返りをうって、目の前ですやすやと眠る整ったきれいな寝顔をじっと見た。
いつもいつも、僕のことを心配して世話を焼いてくれている。
本当に、ずっとずっと、小さい時から頼りにしている。
誰よりも、多分僕よりも、この『櫻井ハル』って存在を大切に思ってくれている。
ただただ僕は、それが純粋にうれしい。この世に僕のことを大切に思ってくれている人がいるだけで僕は幸せだ。
いや、多分、幸せなのだろう。
でも僕は疑い深いから、こいつのそれが本心なのか疑うことがある。
僕は本当に最低だ。
でも、これを信じきっていて、またいつかの日みたいな出来事になったらどうするというのだ。
多分またあんなことがあったら、僕は今度こそ絶対に死ぬ。心を殺すことになる。生きていく価値が無くなってしまう。僕はもう、生きる意味を二度も失うことはしたくない。
だから、僕は基本的に誰も信用しちゃいない。
たとえ、幼馴染でも、親友であっても。家族であっても。
不意に目の前にある少し古びた壁掛け時計に目をやると、もう今日という日を迎えてから結構時間が経ってしまっていた。
僕はいつも考えもしないようなことまで考えて疲れてしまった。
そろそろ眠ろう。起きたらきっと、いつもと同じ日が待っている。
なにも変わらない、6年間ずっと変わらない、普通の人が送る日々を、日常を、きっと送っている。送っていてほしい。
僕は小さな声でおやすみ、とだけつぶやいて、目を閉じた。




