奇怪な俺と黙する彼女
最近、美鈴の様子がおかしい。
…やっぱり、この前のがまずかったか…?
表ではああ言うけど実は…みたいな。
…あー。やばいな…。
「…なぁ、水流崎」
学校では苗字で呼び合う事にしている。
まだそこまでの仲では無いからだ。
「…何かしら?」
「おい、不知火が水流崎さんに話し掛けてるぞ」
「やだ…」
「…それで、何?」
「ちょ、ちょっと来い」
「…何よ」
「…何か怒ってんのか」
「何も怒ってないけど?」
「じゃあ考え事か?」
「…してないわ」
今の間はなんだろうか。
…俺はすごく気になって…気になって仕方がなかった。
…こいつは嘘をついている…。
目を見れば判る。
「…隠し事は無しだぜ、水流崎」
「…そうね、放課後…屋上に来てくれれば話すわ」
そう言うと、俺を避ける様に水流崎は教室へ戻った。
「…」
…放課後、俺は結局屋上へは行って数時間ほど待ってしまった。今思うとアホらし過ぎて泣きたくなる。
話難い話なら…RAINがある。…と思ったが俺は携帯を閉じてベッドの上に放り投げた。
「…これじゃストーカーか、めんどくさい彼氏だなこりゃ」
一拍置いて思った。
「…そうか、そうだよな。…俺ら、秘密をお互い知ってるだけの仲で…」
恋人じゃ、無い。
解っているつもりだったが…改めて突き付けられると…なんだか悲しくなってくる。
俺が天井を見上げていると、携帯の画面に着信画面が表示される。
RAINの特徴は、トークだけでなく通話も可能な事である。
名前は…「水流崎 美鈴」。
俺は急いで電話を取る。
「…もしもし」
若干悲しそうな声が耳に流れ込んだ。
例えるとするなら…そう、あれだ。
ゲルが流れている感じだ。
「…ねぇ、今から…中央公園に来れるかしら」
「…あぁ。行ける」
「…二人で話がしたいの」
「電話じゃダメなのか」
「…えぇ」
「…解った。すぐ行くわ。ちょっと待っててくれ。準備する」
そう言うと、ブツンと電話を切られる。
…やっぱり、嘘だったか。
俺は、念の為と…中学生の頃に憧れて買ったスタンガンを持ち公園へ向かった。
…公園に辿り着いた俺の目の前には、絶世の美少女、水流崎 美鈴が、その細く華奢な胴体を縄で縛られて木に吊るされていた。
「…随分と立ち聞きが好きなエキストラだな」
「…」
美鈴はやはり、黙っていた。
「…よぉ、聞いたぜ?お前…うちの美鈴に手出したらしいじゃねえか。おぉ?」
金髪に染めて、ダサい服を着て。木刀を引っさげている。
そんな昭和と平成の合成体のような不良は俺にガンを飛ばす。
タバコをやっているのか、口が臭いで充満している
「あ、どっかで見た事あると思ったら…お前あれか。あいつの兄ちゃんか」
「…あぁ?知ってんのか。なら話は早え。じゃあよ。この前の借り、返させて貰うぜっと‼︎」
俺は、頭部を木刀で殴られる。
気絶しそうな程飛んで行く意識を掴み、俺はなんとか立つ。
「…ほぉ、気ィ失わねえの。褒めてやるよ」
「…美鈴は…関係ねえだろ」
「…あんだよなぁ…俺はよ。妹思いでさぁ…妹に友達が出来るかどうか心配なのよ」
「へへっ、嫌われるぜ兄ちゃん…」
「るせぇ!」
再び木刀を振るが、俺はそれを受け止める。
「なっ!一番硬い木刀だぞ⁉︎いくら筋肉があっても青あざ出来るレベルだぞ‼︎」
「青あざ程度でごちゃごちゃ抜かすなよ…せめてさ…摩擦熱で傷つけた…くらいから誇れ、ナマクラが」
「…くそっ!やっちまえ!」
「おぉ!」
4人の男が、俺を取り囲む。
だが…今の俺は…「満たしている」。
…美鈴による嘘をつかれ、屋上に放置プレイ…最高の…。
「ご褒美だ」
俺は、取り巻きの持っていた木刀を振ったと同時に奪い取り、喉元を突く。
「…ナイフを隠し持って…俺の右腹部を突き刺す」
言うと、その通り取り巻きその2はナイフを持って右腹部めがけて突進して来た。
俺は、姿勢を低くした取り巻きその2の頭を蹴り飛ばした。
鼻から血を吹き出し、突進の勢いと蹴りの勢いを体が処理しきれず、その場で叩きつけられる。
「その改造エアガンは飾りか?使えよ。ま、使った所で…だけどな」
俺は男の懐に潜り込んで足を引いて転ばせる。
持っていた改造エアガンを奪い男の両目に一発ずつ打ち込む。
「ぎぁやあああああああ‼︎」
「痛いだろ。痛いだろ?でもそれが良い!」
「お前が最後か…」
「ひっ!こ、こいつは本物だぞ!撃ったら死ぬぞ!」
「撃てよ。撃てたら負けで良い。ほら撃てよ。どうした?」
最後の男の銃弾を避け、俺は銃を引っ張って男の人差し指をへし折る。
「…ったく、マジな奴じゃねえか…俺じゃなかったら死んでたぞ…?さて、あとは…お前だけだな?」
「…くっ、なんだってんだてめえ!」
「そりゃこっちの台詞だ。何がしてえんだてめえ」
「…くそッ、何やってやがる。どこの流派だ?」
「…あぁ、これか。友達から口伝に聞いた」
「はぁ⁉︎なんだそりゃ‼︎」
男から奪ったナイフを手に持たせ、後ろに回して膝を折らせる。
すると、後ろに転び背中にナイフが突き刺さる。
…気絶したか、死んだか。どっちでも良いや。
「…こんなもんっしょ。さて、お姫様。全てお話して貰いましょうかね」
俺等は場所を変える事にした。
なんで俺の部屋なんだろうか…。
「お預けプレイか⁉︎それはそれで…うへへへ…」
「…ごめんなさい」
「…へ?」
ふざけてんだから急に真面目になるのはやめて欲しい…が、俺は真面目に聞く事にした。
「…私、あの後…あの人達に脅されて…」
「…そうかい」
「屋上に行かなかったのも…話すなって言われてて。時間稼ぎの為で…」
「…全て放置プレイの一環かと思ってたぜ…しかし、縛られてるなんて…お前もMの世界に…?」
「…な、そ、そんな訳無いでしょ⁉︎」
「いつも通りの美鈴だ。良かった」
「…ごめんなさい」
泣きそうになる美鈴を俺は抱き締める。
なんかこう、色々と青臭いが…。
こうでもしないと、美鈴は判らんだろうな。
…息をする度に、美鈴の髪の香りが鼻に着く。
「…なんで、私を抱き締めるの」
「お前が可愛いから?」
「…バカ」
「興奮するからやめないで!」
「台無しよ…」
「…俺はさ、お前にいつも通りの凛々しいけど、美味そうに飯食ったり、楽しそうにしてるのが俺にとって一番のご褒美だと思うんだわ。怒ってる美鈴も可愛いっちゃ可愛いけど」
美鈴は、黙って俺を押し退けた。
「…そ、そうよね。私はこうでなきゃね」
「…隠し事はこれからは無しだ。興奮すんのは俺だけだからな」
「えぇ。…あ、貴方のさっき言っていた「満たしている」って一体…」
あぁ、それ聞いちゃうか。
しかし、数秒前に隠し事を否定する言葉を発してしまった俺は、後悔の念に襲われる。
そして深く息を吸って一言…。
「…俺も、能力者なんだわ」