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「ここは一体?」
周りは全て薄暗い闇に包まれていて、足元はくるぶし辺りまで水がはっているようだが、冷たくも温かくもないまるで自分の一部であるかのようだった。
ただそこで立っているだけで、心地よい気持ちにもなりまるで自分が夢の中にいるのではないかと感じ始めてきた。
「そうか、夢の世界。」
昔はこの世界に来る度、宇宙からくる怪人を倒したり、世界征服を企む輩を倒して正義のヒーローになる夢をみていた。
けどこの歳になって、そんな夢も見ることもなく、夢の中でさえ仕事をしていたのかもしれない。
夢なんてそう、どんな悪い夢もいい夢も目が覚めれば殆どは忘れる。
数日もすれば完全に忘れてしまうものだ。
こうやって、いま自分が夢の世界にいるって自覚がある、その間だけは忘れることはない。
しかしなぜ自分がいまこんな何もないただ心地よいだけの夢を見ているのか不思議に思っていた。
「気持ちいい・・・」
この心地の良い空間で寝て、今日あった不思議な出来事を忘れようと、そっと目を閉じた。
すると、突然右手が何かに引っ張られるような気がして、自分の手を見ると小指に例の白い糸が結ばれていて、それが自分の手を引っ張っていた。
抵抗することもなく、引っ張られるがままに足をゆっくり動かし手を引っ張る方へ行く。
どこまで続くのだろう、そう思い始めた矢先に向こうからボウっと白く光る何かが見えてきた。
近づけばその光は大きくなっていく。
「君は...!?」
自分の前にいるのは、あの少女だった。そしてその少女を包むように白い光があった。
「間違いない...なんで君が!?」
「....」
少女はあの時見せた優しい微笑みを返してこう言った。
「待ってたよ。」
なんで自分の夢になかにあの少女がいるのか全く理解できない、そしてここが彼女自身の夢の中と言っているのも理解ができない。
ここは俺の夢にはず...多分今日あんなものを見たからきっと出てきたんだ。
「うふふ、ここはあなたの夢の世界。」
「ふう、そうだよね。で、俺は何をすればいいんだい?」
これは夢、自分が自覚して見ることができる明晰夢、なら多分これから自分は昔のようにヒーローになる夢を見るに決まっている。
まるで子供の頃に感じたあの感じをまた味わえることに期待に胸寄せた。
「よかった...嫌がらないのね。」
「ああ、もちろん。ここなら自分はなんだってなれるんだ、だから嫌がるわけ無いだろ?」
「それじゃあ、あなたはこれからヒーローとなる力を与えます。」
「ああ、どんとこい。」
白く光る少女徐々に近づいて、かの彼女から出る光の暖かさを感じる。
「しゃがんで。」
そう言われ、自分より背の低い少女の身長と同じ高さになるように、足に肘をかけて王女様に従えるような忠誠を誓うようなポーズでしゃがんだ。
「準備はいい?」
「よしこい。」
きっとこういうのは、少女が自分のほっぺにキスや頭をなでて力をくれる物だと思う。
それが中学生かその辺の女の子でも悪くはない、どうせ夢の中だから。
目をつぶるって俯く俺の顔を少女が顎を軽く持って持ち上げる。
これは、キスかな。
いい歳した男は嬉しい出来事が起こるのを期待するがそんなことなかった。
パシッィ!
高い音が足元の水に波を作り、静かなその空間に響きわたった。
少女に頬を叩かれた。
得書な人なら喜部下もしれないが、緋色はそんな変態ではない。
「おい!!」
そう怒鳴って目を開くとそこは違う場所だった。
「あれ、いつの間にこんな体勢に?」
お尻の感覚からして、自分はベットの上にいる。けど、寝ている体制ではなく、壁にもたれかかって座っていた。
体は少し変な気がする。
頭にかぶっていた布団をどかそうとして何かに切られた痛みを感じた。
「イテッ....ん?」
おかしい、声も少し変だ。
それよりもまず、片手に持っていたカッターに驚いた。
思わず投げ捨てた。
なんなんだ、一体....
周りは見たこともない部屋、勉強机にその横に入れられた教科書などの本、近くに置かれたぬいぐるみ。
ここはどこなんだ...
それに、自分は...
さっき切ったところが痛む。
切ったところを見ると、まずおかしなことに気がついた。
小さな傷口から血が漏れでているのはわかるが、この自分の腕が自分のものではないと気がついた。
「え....」
両手を見ると自分のとは思えない小さな手けどその右手んl小指にはあの白い糸、軽く自分の全身をボディタッチして確認しすると、自分に無いものがあったりあるはずのものが無かったりした。
ベットを降りて、近くに置かれた立て鏡に顔をのぞかせると、見知らぬ女の子が涙を流してこちらを見つめる。
右の頬に手を置くと、鏡の少女は左手を左の頬に。
左手を左の頬に置くと、鏡の少女は右手を右頬に。
鏡の少女が、涙をぬぐると自分の袖で自分の目を拭く。
確実にこの女の子は、自分自身だ。
一体どうなってるんだよ、訳が分らない。
本当なら驚いて叫ぶところだが、それよりもとにかく眠かった。
きっとこれも夢なのだろう...そう言い聞かせてベットに横たわり布団をかぶる。
あっという間に眠りに落ちた。
まただ...再びあの薄暗い空間にいた。
今度ははじめから自分の前に白い少女がいた。
「おい、これはどういうことだ?ここは俺の夢だよな?」
「ええ、もちろんです。」
少女はずっと笑みを浮かべたまま語り続ける。
「これからあなたはヒーローになるんですよ?」
「それはどういうことだよ。」
自分の声は無視され少女は語り続ける。
「もし、おじさんが無理になったらその小指の白い糸を切ればいいわ。
その糸はあなたにしか見えない、あなたと私とその子を繋ぐ一本の糸。」
訳が分らない。
「分からなくていいよ。
ヒーローになれないと思ったら切ればいいだけ。
さぁ、目を覚ます時間ですよ。」
薄暗い空間は徐々に明るくなり、足元の水は全て引いていた。
「ちょっと待って!」
少女に左手を伸ばすと、少女は緋色のその手を掴んで手首を見せた。
「起きたらまず、ここを見るといいわ。」
そう言って周りの光とともに消えていった。
そして、目を覚ます。
体を起こして体をチェックする。
違う。
やっぱり自分の体ではなかった。
「....ええええええええええ!!!」
今度こそ自分の声ではない声が家の外まで響きわたった。