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濁った瞳のリリアンヌ 企画物集  作者: 天界
スカーレットさんシリーズ ~濁った瞳のリリアンヌifストーリーズ~
12/12

スカーレットさんはただただ平常運転

 スカーレットが孤児院長を務める孤児院はただの孤児院ではない。

 高高度衛星魔術により様々な情報を収集解析して得られた特殊能力や特殊体質、その他様々な特殊な素養を持つ者達が集められ共同体を形成している。


 特殊ということは人と違うということ。それは詰まるところ排斥の種になる。

 見事なまでのファンタジー感溢れる封建社会のこの世界では、特殊な人種というものは奴隷とされる確率が非常に高い。

 そういった者達を買い取ったり、時には様々な手段を用いて集めたのがこの孤児院である。


 特に多くの者達が体質的に特殊な能力を保持していたり、発現こそしていないが先祖代々から受け継がれる能力が眠っていたりなどする。

 これは吸血鬼の少女――ウィルミルを分析した結果得られた、体質を魔術的に再現する研究の一環によるものが大きい。

 当然ながら研究しているのはリリーさん5歳である。


 サンプルは多ければ多いほどよいということで、各地から集められた者達はすでに3桁に及ぶ人数になっていたりするがドラゴン資金により購入されたお屋敷は広いので問題にもなっていない。

 それどころか訓練施設建設など、その他様々なスカーレットの要望により敷地内にはリリーさん5歳の魔術であっという間に建物が乱立し、整備されていたりする。


 自身の要望を頼んだ本人が驚くほどのスピードで叶えたこともあり、スカーレットの孤児達への行動はかなりのハイテンションで迅速に行われた。

 スカーレットが孤児達の望むことはただ1つ。


 それは孤児達の私兵化である。


 異世界物で孤児院経営といえば、孤児達による現代知識の商品化か、孤児達のパワーレベリング。

 スカーレットは見事に後者を選んだ。

 なぜならお金には困っていないからだ。ドラゴン資金は並じゃない。

 ちなみにリリーさん5歳という最大戦力を考慮しなくても、スカーレットの戦力はドラゴンの素材を使ってリリーさん5歳に作ってもらった竜牙鱗細剣などの装備を自重という言葉を遠くに投げ捨てて用いれば単独で国を落とせるレベルにまでなっている。

 そんな彼女ではあるが、リリーさん5歳と違ってスカーレットの戦力は対個人であるため国を落とす際にも中枢を一点突破する方法しか用いられない。


 数が足りないなら増やせばいいじゃない。


 これがスカーレットが出した結論であった。


 特殊な者達ばかりがいる孤児院といっても全員が全員戦えるわけでも、その特殊な能力なりなんなりを扱えるわけではない。

 リリーさん5歳が孤児達を集めるにあたって最初につけた条件は彼ら彼女らをリリーさん5歳が制御できることであった。

 そのため孤児院に集められた者達全員がその特殊な能力や体質を暴走させることなく、平穏に過ごすことが出来ている。


 スカーレットが始めた私兵化計画は特に自身の能力をうまく扱えなかったり、発現させることすら至っていなかった、自身の能力を忌避していない者達がかなりの人数参加している。

 ただ問題はスカーレット自身が地獄のメイド学校の卒業生であり、地獄のメイド学校で行われた授業は実際に死亡する者達がそれなりに出るほどの過酷なものであったということ。

 さすがの彼女も地獄のメイド学校レベルで訓練を行えばほぼ間違いなく計画が頓挫するのでその辺は調整しているが、段階を設け、耐えられればハードルを上げていくという天井知らずの訓練を行っているので上と下では訓練のレベルが違いすぎた。


 結果としてリリーさん5歳が気の毒に思うほどの訓練のレベルの到達し、それを乗り越えた者達はリリーさん5歳からご褒美として様々なドラゴン系装備を与えられたりもしている。


 先にも述べたようにリリーさん5歳が手を加えているドラゴン系装備は自重という言葉が消滅してしまっているので、国宝レベルの装備であったりする。


 そんな異常な速度で私兵化が進んでいる孤児院には一人だけリリーさん5歳にして危険と言わしめる能力を持った存在が眠っている。

 彼女は某帝国の貴族の奴隷であったが、時代を遡れば帝国の礎を築いた一族の末裔であったりもする。

 その彼女の特殊な能力とは、魔眼である。

 だがリリーさん5歳のような魔力を見ることが出来るような魔眼ではなく、完全に破壊に特化した魔眼であり、その破壊の対象というものが魔力であった。


 生物は須らく魔力を持っている。それはこの異世界でも同じであった。


 生命活動には魔力が直結し、血流に乗って魔力は体中を流れている。

 魔力が完全になくなれば生物は著しく弱体化し、ほぼ死亡する。

 だが、魔力を消耗する魔術などでも使い切るということは出来ない。

 ある一定以下の魔力量になると通常はブレーキとして意識の喪失が起こるからだ。


 しかし彼女の魔眼はブレーキなど関係なく、魔力自体を破壊してしまう。

 能力の強さに応じて破壊できる魔力の量も変化するが、彼女の一族が活躍していた時代では容易く暗殺を可能とするほどの強力な能力であった。

 そんな能力を持った彼女の一族ではあったが、代を重ねるごとに能力の発現者が減り、発現しても実用レベルで扱える者は減っていった。

 汚れ仕事を扱う一族が汚れ仕事を行えなくなる。後に残ったのは隔世遺伝的に発現する能力のみ。しかもほとんどがまともに能力を扱えなかった。

 結果として、恐るべき能力の一族はおぞましき能力の一族へと変わっていったのは必然的な流れだったのかもしれない。

 帝国の礎を築いた一族でもあり、その能力の恐ろしさから血だけは残されているが今の彼女の一族は皆奴隷であり、おぞましい存在でしかなかった。


 そんな状況下でリリーさん5歳が彼女を見つけた時にはすでに爆発寸前の火山のようであった。

 一族の中でも特に酷く虐げられていた彼女は自らの命と引き換えに発現すらしていなかった能力を強制的に行使しようとしていた。

 リリーさん5歳の分析によれば命を引き換えにして能力を行使すれば、あの時点で数千人程度は魔力を破壊されて死んでいた、という結論になっている。

 それだけ彼女に秘められた可能性は巨大だったのだ。


 結果として、彼女は今現在リリーさん5歳が作った幸せな幻術を見続け、壊れかけた自我をゆっくりと修復している最中である。


 尚、そんな帝国の秘密兵器とも言える存在を手放すにあたって帝国はドラゴン数百体に包囲されるという未曾有の災害を経験している。

 ただ被害は一部の貴族の領地が根こそぎ消滅した程度であったらしいが。


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