スカーレットさんは今日もぶっちぎりで平常運転
異世界にやってきて半年が経ったリリーさん5歳とスカーレットは現在新たに購入したお屋敷にてそれぞれの行動を取っている。
リリーさん5歳は時間の経過と共に発見された新たな事実を調査、解析して対応するための魔術をいくつか作ったり、高高度衛星魔術を今日も打ち上げたり、その他様々な研究に励んでいる。
スカーレットはといえば、異世界物定番ともいえる美少女美少年奴隷の確保が微妙とわかった瞬間に舵を切り、即効で方向転換を図り今では屋敷に孤児院を開園してリリーさん5歳の高高度衛星魔術により詳細が判明した地域から様々な特殊能力、体質、資質をもった孤児達を集め……今では立派な院長先生メイドであったりする。
リリーさん5歳がスカーレットの行動を容認している理由もこの特殊な子供達というのが一因であり、その他様々な研究とはまさに彼ら彼女らの研究でもあるのだ。
事の発端はやはり、吸血鬼の少女であるウィルミルの特殊能力――吸血である。
彼女の吸血は血を吸ってはいても実際に吸収しているのは魔力であることが判明している。
その上、吸血による魔力の吸収はリリーさん5歳でも難しい他者の魔力を完全に自身の魔力とすることが可能というものであった。
この動作を魔術で再現するには相当な量の術式と魔力が必要ということがわかっており、リリーさん5歳にとってとても興味深いものだったのだ。
事実リリーさん5歳は濁った瞳という病のために目が見えないが物理的な視界を魔術で得ている。
だが白と黒の世界でしか表現できない魔術の視界――視覚膜では本来の目という機能を完全に再現しているとはとてもいえない。
安定したバージョンの視覚膜を苦労の末に作り上げたとはいえ、未だ発展途上であることには変わりないのだ。
故にリリーさん5歳は孤児院で引き取った特殊な子供達の情報を収集し、分析することで何かしらの助けになればと考えたのだ。
そしてスカーレット的には、異世界といえば孤児院運営、と諸手を挙げて大喜びである。
2人の利害が見事に一致し、さらにはどん底をさ迷っていた孤児達も奴隷をオークションで購入しても有り余るドラゴン売却金により運営される孤児院でまともな生活が送れるというまさにwin-win-win状態なのだった。
ちなみに孤児院運営のためにこの世界からまたドラゴンが1匹消えたのは内緒の話であったりする。
すでに100を超える高高度衛星魔術により、今現在リリーさん5歳が拠点としている国どころかいくつかの国を含む大陸の詳細地図と生命体の分布図が完成しているのだが、リリーさん5歳にとって地図や分布図などはただの副産物でしかない。
リリーさん5歳の最大の目標は当初と変わらず、元の世界に帰還することである。
孤児院で特殊な子供達を分析するのも大事ではあるが、リリーさん5歳にとってここは異世界。
クティがいる世界こそがリリーさん5歳の世界なので帰還は絶対条件なのだ。
そんな異世界での半年の生活でいくつか発見された驚愕の事実の1つがリリーさん5歳を焦ることなく、のんびり活動させている要因でもある。
なんとこの世界に於いてリリーさん5歳の世界の魔力とこの世界の魔力には純度に於いて壮絶なまでに格差が存在した。
その差は生命体に於ける老化の遅延まで引き起こし……要するにまったくといっていいほど老いないのだ。
もちろん老化というのは体の成長も含まれるためにリリーさん5歳はちょっと実年齢より成長が遅いのがこの世界にきたときから変わらないという状況になっている。つまりは永遠の幼女。
スカーレットはリリーさん5歳ばりに魔力の純度が高いわけでもないが、それでも4,5倍は老化のスピードが遅くなっている。
髪や爪の伸び具合でスカーレットがいち早く気づいたことであった。
ちなみにこの魔力の純度の違いを利用した限定的な次元間移動魔術の改良がすでに始まっており、ある程度の環境的条件を満たせば時間的な跳躍すら可能であることが判明している。
つまりはこの異世界に転移した瞬間に戻ることが可能ということだ。
この事実のためにリリーさん5歳は特殊な子供達の研究という横道にも着手することが出来ているのだ。
尚、高高度衛星魔術を今現在も打ち上げ続けていることからわかるように、時間跳躍型次元間移動魔術を使用するためには特殊な環境が必要であり、その環境がこの世界の御伽話に出てくるような場所だとまでは判明している。
しかしこの御伽話は過去の事実を元を作られたものであることがわかっているので確かに存在する場所ではあるようだ。
もちろん御伽話に出てくるような場所のために正確な座標は不明である。そのために高高度衛星魔術による虱潰しの捜索なのだ。
そんな感じで帰還のための欠けたピースを集めつつ、リリーさん5歳は孤児達の人体の神秘の研究。スカーレットは自身の異世界的欲求を満たすために今日も活動を続けている。
「あ、あのお嬢様……。そ、その……そろそろお情けを頂きたいです……」
購入当初はすっかり放置されていた吸血鬼の少女――ウィルミルはスカーレットの地獄のメイド特訓により、今ではすっかり一端のメイド見習いへと変貌している。
しかしてリリーさん5歳が吸血行為は実際は魔力の吸収行為であると暴いているために彼女のお食事は魔力の吸収へと変わっている。
……詰まるところリリーさん5歳の魔力の愛撫こそが彼女にとっての……。
クリストフ家のトップクラスの戦力を誇るメイド達ですら完全に虜にしてしまうリリーさん5歳の必殺技はもふもふでないウィルミルですら秒殺していたのは言うまでもない。




