スカーレットさんは明後日くらいでも平常運転
オークション会場に現れた存在はリリーさん5歳の魔力を見ることが出来る魔眼により詳細に分析された結果吸血鬼であるということが判明した。
会場の全ての人間に対して効果を発揮するほどの強力なまやかしの術もリリーさん5歳にとっては大した意味はなかったが、スカーレットには完璧にきまってしまっている。
しかしてリリーさん5歳が瞬時に構築した対抗魔術であっさりとまやかしの術は敗れる。
「……美少女が消えました」
「それは置いておいて。スカーレット、あの子を競り落としてください」
「普通の少女はいらないと思うのですが……」
リリーさん5歳を間近でみているスカーレットにとって多少綺麗な子は美少女にはならない。
よってまやかしの術が無効化された現状では吸血鬼の少女はただの少女でしかなかった。
つまりはスカーレットにとって彼女は競り落とす意味がない存在になりさがっていたのだ。
しかしてリリーさん5歳にはそんなものは関係ない。
「あの子は興味深いです。ぜひとも競り落としてください。全額使っても構いません」
「……わかりました」
思いっきり口を尖らせたスカーレットが渋々承諾すると大盛り上がりのオークションに参加し始める。
吸血鬼の少女をめぐるオークションは最初こそ白熱したが、スカーレットが参加した瞬間から急激に萎むかのように熱気が消えうせていった。
もちろん原因はリリーさん5歳である。
リリーさん5歳はスカーレットに施したようにまやかしの術に対抗魔術を使い、オークションに参加する人数をどんどん減らしていったのだ。
リリーさん5歳にとっては赤子の手を捻るよりも楽勝なことだが、自身の術が効果を失い始めていたことを吸血鬼の少女も理解していたため、その顔色はどんどん悪くなっていっていた。
リリーさん5歳の分析によれば、彼女のまやかしの術は錬度が極めて低いものであった。
効果のほどはオークション会場全てはもちろん、リリーさん5歳の超広範囲の状態異常にも対応できる補助魔術をかけてもらっていたスカーレットさえ一瞬で捉えてしまうほどのものである。
だがどうやら超局所的な限定環境でのみ作用する術であるらしく、錬度が低いのは環境が整わなければまったく使えないからだと判明している。
奴隷という状況を脱するために使用しなかったのはそういう理由からだ。
画してリリーさん5歳の圧倒的魔術の前には錬度の低い術など大した意味もなく、あっさりと吸血鬼の少女はスカーレットによって競り落とされた。
「わ、わたくしをどうするおつもりなのです……」
「磨けば光る……かも? うーん……悪くは……いやでも……」
「血を吸っているのではなく……魔力を効率的に吸収するため……やはり魔力の流れが血流と密接な関係にあるのは……」
支払いと引渡しが終わり、無事現在の拠点まで戻ってきたリリーさん5歳とスカーレットと吸血鬼の少女。
だが自身の術をあっさりと無効化された少女は怯えきっていた。
それもそのはず、彼女の使ったまやかしの術は彼女の一族に伝わる秘奥義中の秘奥義。
リリーさん5歳の分析通りに超局所的な限定環境でしか作用しないがその効果は抜群であり、一度発動してしまえば術者しか止められないというものだったのだ。
それがあっさりとリリーさん5歳により無効化されてしまっては怯えてしまうのも無理はない。
そんな怯える少女ではあったが、持ち前の気丈さでなんとか言葉を発することだけはできた。
だがそんな彼女の言葉はスカーレットには届かない。
今彼女の頭の中ではせっかく高いお金を出して買ったのだからどうにかしてシンデレラちっくに1発逆転の策を練り上げているのだ。
ちなみにガラスの靴はかかとを削るか爪先を切断しなければいけないので難しい。
リリーさん5歳もリリーさん5歳で落ち着ける場所についたのでさっそく彼女の詳細な分析を始めてしまっていて、複数の思考を同時進行させつつ幾重にも魔術を構築しているため、やっぱり聞いていない。
結局誰にも何も言ってもらえず、怯える吸血鬼の少女は不安が壮絶なまでに膨れ上がっていくのだった。




