《章間 ~解放~》
『それ』は確かに感じていた。
時間の流れを。
自分の周りの変化を。
世界の変化を。
自分を封じた者は、とうの昔に自分の認識できる範囲から居なくなっている。
それから随分長い事、自分は放置された。
最近になってようやく自分を見つけた者が現れたが、そいつはこともあろうに『それ』が何であるかを知らないらしかった。
口惜しい。
何故口惜しいのかも良く解らないが、口惜しい。
自分はひ弱な人間とやらに軽視される存在ではない筈だった。
奴らにはどうする事も出来ずに、封じられた存在である筈だ。
復讐の炎は、明白に灯されていた。
自分の存在が何であるのか、そんな事すら忘れているにも拘らず、『それ』は自らの怒りが燻るのを抑えることが出来ずに居た。
だが、遂に今日、突然、目の前にチャンスが訪れた。
夢想が、現実となったのだ。
愚かにも、先程まで無遠慮に『それ』の居を弄繰り回していたそいつが、何を思ったのか自分を解放したのだ。
光。
棲み慣れた闇を抜けることが恐ろしくもあったが、かつて無い、千載一遇の好機。
そして、『それ』は闇を抜け出す。
喰らい尽くすために。
あの『手』に味わわされた怒り、悲しみ、絶望、屈辱、痛み、その総てを数十倍にして返す為に。