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《章間 ~呪詛の唸り~》
『それ』の機嫌は極めて悪かった。
ぞんざいに扱われて何やら知らない場所へと移された挙句、馬車に載せられているのかやけにガタガタと揺れる。
何より、『それ』は自らの外界への認識を深めてより、触れられるのがとても嫌いだった。
当たり前の事だが、閉じ込められている以上は中に居るもののことを考えるべきだし、何より、自分を閉じ込めたあの『手』というものが――――望まずながらも居ざるを得ないとはいえ――――自分の居を外側から無遠慮に汚しているかと思うと、我知らず怒りを覚えるのも当然というものだろう。
こんな時はいつも考える。
ここから出たら必ず殺す。
必ず殺して、必ず喰らう。
その体を喰らい、その意識を喰らい、その知識を喰らい、その感情までも喰らい尽くす。
『それ』がそうに扱われたように、あの『手』というものでその体を押さえつけ、思う様に操り、懇願を嘲笑い、嘆きまで汚した後で、ゆっくりと喰らう。
『それ』はその様を想像して、一先ず怒りを納めるのだ。
そして、解放されたその時には……。