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《ザイアグロスのアスパーン》

「なんなんだアイツ!?」

 驚異的な攻撃を放ち、二体の魔族を易々と切り裂き、『生み出す者』を圧倒する少年に、シルファーンたちと合流したティルトは思わず声を上げる。

「まぁ、こうなっちゃもう、仕方ないわね。……一人で出来るみたいだし、放っておきましょう」

 シルファーンは苦笑い。

「そういう問題じゃない! アイツの剣、何なんだ!?」

 魔力が込められていない武器では魔族は傷付かない。

 それはティルト自身身をもって知っている事実だ。

 そして、アスパーンの剣は銀製の品では有るものの、魔力を込められた品ではない。

「……特別な品ではなかったように思いますが。……何か仕掛けでも?」

 アスパーンとシルファーンの剣を見たことの有るヘレンも、それを疑問に思ったらしくシルファーンに訊ねる。

「特に仕掛けは無いわよ。……まぁ、言うなれば、私達が仕掛けって所かな」

「は?」

 当を得ず、ヘレンが首を傾げる。

「その……私達は一応、プロなんで」

 シルファーンは説明のしにくさを感じながら、整った柳眉を傾けながら答えた。

「プロって、冒険者なら魔物退治のプロなのは解って――――」

「うーん、今のところは『魔物退治』じゃなくて、『魔族退治』の方なんですよ」

 カイウスが口を挟んだのを、シルファーンは訂正する。

 『魔物』の退治が得意なのではない。

 『魔族』を退治するのが得意なのだ。

「魔族退治のプロだと? ……あ! 『ザイアグロスの騎士団』か!」

「まぁ、そういうこと」

 カイウスの答えが当を得たのか、シルファーンは何度目かの苦笑を返す。

「あの子は『気合』とやらを入れると、物体に魔力に似たものを込める事が出来るの。基本的にあまり長くは続かないから、可能な限り攻撃の瞬間だけ込めるようにしてるらしいけどね。専門的は本物の魔力とはちょっと違うんだけど。……実は詳細はまだ、一般的に知られている魔術のジャンルの中では良く解ってない部分が多いの」

 シルファーンが言いながら、呆れたように肩を竦める。

 シルファーン自身も、アスパーンからやり方を事細かに聞き出すことで、同じ事することが出来たが、アスパーンの『気合』とやら程、無節操でいい加減な物ではない。

 アスパーンの『気合』とやらは、他の魔術師に協力して調べてもらっても『気術』という新しいジャンルの魔術であると表現するしか無いような、今ひとつ正体不明の力だ。

「……なんだそりゃ」

 ティルトがポカンと口を開けて呟く。

 ティルトならずとも、今まで散々そういう反応を見てきたが、シルファーンとしても、非常に良く解る。

 言うなれば、『でたらめ』なのだ。

「まぁ、ああやってスイッチが入っちゃった以上、ここはもう、あの子に任せておけば、何とかなるわ。寧ろ、足手まといにならないように、しっかり自分の身を守らないとね」

「でも、幾らなんでもここに居て、放っておくわけには」

 ヘレンが心配そうに『生み出す者』と対峙するアスパーンを見遣る。

「そうだ。おそらく攻撃を受ければ、ただでは済まない」

 ヘレンの意見にカイウスも同意する。

「大丈夫よ。…………攻撃は当たらないわ。幾ら魔族でも、単体なら私達と闘った事のない奴にはそうそう遅れは取らないわよ。あの子は、そういう風に育てられたの」

 シルファーンは視線を戦闘の方へ返すと、溜息をついた。

「育てられた……って、誰に?」

「主にお祖父さんかしら?……まぁ、あの子の場合は、『寄って集って』って感じだったけれど」

「……まさか」

 シルファーンの言葉を受けて、ティルトは解答に思い至ったらしい。

 ザイアグロスの騎士団は、『あの家』を中心に、『魔族を倒すこと、剣名を鳴らすこと、技量を上げる事』などに執着する者達で成り立つ、『寄せ集め』の騎士団だ。

 つまり、その中で『育てた』といえば、あの家しかない。

 そして、それが『お祖父さん』であると言う事は、指し示す事実は一つだ。


 ――――魔族を滅ぼす為に、ザイアグロスに根を張る一族。


 ――――つまり、正しく『ザイアグロスの人間』。


 シルファーンは、その推測が正しいことであるのを首肯する。

「アスパーンは『メリス家』当代の直系。……系譜の最後に位置する『魔族を狩る一族』の一人よ。……まぁ、そんなわけだから、今は支援するくらいにして、大人しく見てましょう。多分、過剰な手出しは必要ないとは思うけれど」

 シルファーンは苦笑いすると、戦況に目を移した。

 ティルトもまた、その事実を肌で理解したらしい。

 アスパーンが『ザイアグロスの人間』と、思い出したように呟いて以降の、あの空気が凝固したような瞬間と、その振る舞いで。

 この場にいる誰もが、それを感じ取れない筈も無いくらい、鮮烈に。

 シルファーンの言葉を否定しようと言う人間は、最早この場にはいなかった。



 ――――メリス家。

 ザイアグロスを事実上支配する特殊な家系にして、『魔族を狩る一族』。

 一人の男が、『無限渓谷』と呼ばれる風穴の、未だ知られざる場所に、野望と共に作り置いた『魔神召喚の門』。そこから無数に現れる魔族と戦い、魔族の現世界への侵攻を食い止める一族。

 歴代最強と謳われた先代の後を受け継いだ当代の子は、男子女子五人ずつで、合わせて十人を数える。

 いずれも才に長け、様々な分野で誉れ高い実績を残している。

 ザイアグロスで剣を学んだ或る者は言う。

『メリス家の食客にいかなる兵あれど、その家系には及ばず』

 メリス家の人間と剣を交えた或る者は言う。

『それはただの一言に尽きる。“別格”と』

 その家系が魔族を狩る場面を共にした或る者は言う。

『人知の及ばぬ天命という物が有るとするのなら、当代の子らはその呪わしき歴史に終止符を打つ天命を持って生まれた“福音の子”らである』

 或いは。或いは。或いは。

 それは憧憬と、僅かな畏怖を持って語られる存在。

 日々の糧を得る以外の目的で、他の生き物を殺めるための存在。

 メリス家の末子もまた、そういう存在だった。


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