《夜を舞う》
「じゃぁ、ちょっと上まで行ってくるわね。他の人たちは、暫くこっちの様子を確認したら動くようにして」
「え、直ぐに動いてはいけないんですか?」
ラミスの言葉を聞いて、移動する準備をしていたヘレンが訊ねる。
「用心のため、ですね?」
途中から合流してきた森妖精……シルファーンが模範解答を答えてくれた。
「そうでーす。よくできましたー」
ラミスはそれに答えながら、軽く手を打って美人の森妖精を褒めた。
褒められたシルファーンが照れたように、微かに頬を染める。何だかその仕草が、まだあまり人に慣れていないようで妙に可愛い。
「万が一アタシが移動したのに気付かれたら、暫くその場所は注目されるでしょ?直後から人が動いたら危ないから、誰かが移動した直後とかは、ホントは移動しないようにした方が良いの。一人くらいならあまり問題ないけど、集団移動の場合は、一応ね」
「いーからさっさと行けよ。こっちは俺がちゃんとするから」
ティルトがうんざりしたように手を振る。
「またアンタは。上からちゃんと見てるから、手抜きすんじゃないわよ」
ラミスはカチンと来たが、ティルトに釘を刺しておく事を優先した。
この草原妖精は二重三重どころか、十重二十重に釘を刺しておかないと、碌な事をしでかさない。
「先に出るか……追い回されても堪らねぇし」
「いーから大人しくしてなさい。……ったく、しょうがないなぁ……えぃっ」
「痛って!?」
ラミスはティルトの額に軽く蹴りを入れて、その反動も利用して一気に上空へ舞い上がる。微妙に非難の声が聞こえた気もしたが、上空を舞うラミスはそれを封殺した。
雲間に見え隠れする月光を僅かに浴びながら、木々の動きや不自然な動きを見逃さない程度の高さに留まると、先ずは足元に見える広場を確認する。
(……どうやら気付かれて無いみたいね)
春も近いとはいえ、夜の上空はまだまだ肌寒かった。
(『万が一』を考えると、アタシもあまり長居したくないけど、仕方ないしなぁ)
ざっと周囲を見回した感じ、近くには足元の集団以外に不自然な気配は見当たらなかった。それが確認できたのなら、そろそろ下に合図を送ってティルト達を出発させても良いだろう。
そう思って、下を見た、その時。
不意に、ラミスの身体に影が差した。
少し遅れて、突風のような風。
「えっ?」
――――何かが居る。
思わず振り向いた、その瞬間に、ラミスの身体は後ろから何かに突き飛ばされていた。




