《章間 ~飢餓~》
『それ』が改めて目覚めた時、最初に感じたのは猛烈な空腹感だった。
そういえば、そのような感覚も有った。
足りない。
身体のどこかが猛烈に『喰え』と訴えかけている。
何を喰う?
何を喰える?
『それ』は記憶を探る。
『それ』が目覚める以前に、世界を最初に認識した時、自分を封じていた物の周りには『今は喰える物』が沢山あった。
それは、自分が喰らうことの出来るものだ。
しかし、手を出すことはできなかった。
自分は何かに押し込められていたから。
自分は世界を認識できて尚、何も出来なかったから。
ただ、閉ざされ、薄れゆく中で、解放されるのを待っていた。
そうだ、と『それ』はふと思い出す。
自分は奴らを喰らうことを決めていたではないか。
『あれ』がいい。
自分を蔑み、押さえつけ、封じたあいつ等を、喰らわなければ気がすまない。
それには何か、もう少し力をつけてからでなければ。
『あれ』を食う前に、もう少し力を蓄えなければ、また封じられてしまうかもしれない。
あの『手』に押し込められて。
――――それは恐怖だ。
恐怖を感じさせられることは、根本的に強者の側に立つ『それ』にしてみれば、酷く矜持を傷付けられる、許されざることのひとつだ。
その恐怖によって傷ついたプライドへの汚名をすすぐには、一刻も早く力を蓄えて、『あれ』を喰らわなければ。
『それ』は自分でも初めて感じる何かに身を震わせながら、『喰えるもの』の匂いのする方へ走り出す。
そう遠くではない筈だ。
つい先ほどまで、その匂いは自分のすぐ近くにあったのだから。
自分は既にひとつ、それを喰らったのだから。




