《銀の月の女神(ルーリエン)と神々》
「お二人とも、失礼ですが……」
ヘレンはそう前置きして、アスパーンとシルファーンの手元に目を配る。
「はい?」
アスパーンはその視線の意図を計りかねて首をかしげた。
ヘレンは、正確に言えばアスパーンの腰の辺りを見ているようだった。
「ココは一応修道所なので、限られたもの以外、武器の持ち込みは制限させていただいているのです。腰のものをお預かりして宜しいでしょうか?」
「あぁ、そういうことですか」
アスパーンは腰に下げた長柄の長剣を鞘から外すと、ヘレンに手渡す。
実はアスパーンは『腰の物』以外にも幾つか武器を持っているのだが、突っ込まれない以上は自分から外すような真似はしない。
シルファーンもそれに倣って腰から外していたが、ヘレンがアスパーンの剣をやけに注意深く確認しているのに気付いて手を引っ込めた。
「……どうかしたんですか?」
「アスパーン様、この剣は……」
「実家から持ってきた自分のものですが、それが何か?」
アスパーンは思わず首を傾げた。
特にこれと言って、特別な所など無い剣だと思うのだが、ヘレンにとってはそうではないらしい。
「いいえ。でも、こちらは銀の剣なので、お返しいたしますね」
「え?」
「……お気付きではないかも知れませんが、この修道所は『白銀の月の女神』を奉じているのです。『白銀の月の女神』は月を守ると共に、銀の守護者でも有ります。故に、この修道所では、外部の方が持ち込んだ武器であっても、銀を用いているものに関しては信用し、取り上げてはならない事になっているのです」
「へぇ、そうなんですか」
『白銀の月の女神』と呼ばれる神の事はアスパーンも良く知っている。
『大地の豊穣の女神』の妹で、また『創造と戦の神』の傍らに立つ、女性と狩人を守護するとも言われる神だ。
銀や白金は、月の色に似ている事から彼の女神が守護する金属であると言われ、珍重されるとも聞いている。
それほどメジャーな神ではないが、『大地の豊穣の女神』や『創造と戦の神』を信奉する地域では信者もおり、ここに修道所があるのも恐らくこの国が『創造と戦の神』を信仰する国家だからだろう。
「まぁ、此処で何かに使う事なんか、先ず無いとは思うんだけど……」
アスパーンは剣を受け取って留め金で止めると、銀の製品は相手から取り上げられないという風習がこの修道所だけのものでないとすれば、『銀の月の女神』の修道所では、自分の実家の人間は誰も武器を預けられない事になるな、と思った。
それはそれで、安全管理上問題があるといえなくも無いが、逆に言えば、銀の武器であれば彼女達が『自衛の為』に持っていたところで文句は言われないと言う事になるのかもしれない。
(やっぱり、直に見てみると色々違うもんだな)
『大地の豊穣の女神』や『創造と戦の神』の神官は、多くの神職に当たるものと異なり、戦いになれば刃物を用いる事でも知られているそうだし。
(修行の旅とか言うのはまぁ、こういうもんなのか)
実家に居る時には思いもよらないような、認識の違いと言うものがそこには存在した。




