881~890
881.
「新しいのを貰ったらいいよ」鶺鴒が優しく諭すと、隼の足に爪を立てていた片足の亡霊はすうっと消えた。「新しいのって、どこで誰から貰うの?」薔薇が訊くが、鶺鴒はにっこり笑うだけ。程なくして、帰宅した鶺鴒の頭に珍客がいた。大きなカミキリムシ。「いっぱい貰えたみたいだよ」
882.
薔薇が今より幼くて、食欲に対して野獣的に純粋だった頃、豆まきは無意味だった。鶺鴒がなにもいない所に投げようと、隼が妖しいなにかを狙おうと、俊敏に射線上に顔を突き出し全て食べてしまうのだ。だが鬼や物の怪も必死だった。豆が身体にくっつけてると襲われたからだ。
883.
猫は十年生きると尻尾が二本に分かれて、人の言葉を喋るらしい。薔薇は君影を抱きあげて、じいっと見つめた。盲目の白猫はちょっと困ったように首を傾げている。#twnovel 急に薔薇はどうしたにゃん。たぶんツインテールの日にゃ。うにゃ、もう二本じゃにゃいのににゃ。ツインテ違いだしにゃあ
884.
豆まきを終え、双子は庭にまいた豆を喰おうとする妹の襟首掴んで引きとめて、太巻きを口に押し込む。妹は番犬のような眼差しで恵方を睨みながら次々太巻きを平らげていく。その背後で、こそこそ豆を拾って食べる小鬼たち。豆が減っているのがバレぬよう、鶺鴒はそっと追加の豆をまく。
885.
パンツ一丁の鬼が、霰の降る中ガタブル震えていた。昨日どこかの家から追い出されたのだろう。鶺鴒は少し迷ったものの、身の丈三メートルほどの鬼を家に連れ帰った。炬燵に入った鬼に「何食べたらそんなに大きくなるの?ヒト?」と、薔薇が思いのほか無邪気に受け入れている。
886.
よく似ているのに、全然似ていない双子―と、鶺鴒と隼はよく言われる。年々体格にも差がついてきて双子というより、よく似た兄弟に見える。「おなかの中、狭くなかった?」「覚えてねえっての」「あったかかったよ」「え?!」「ふーん」「今はひとりで生きなきゃならなくて寒いかな」
887.
凍りついたアスファルトの道路を、薔薇はすばらしいバランス感覚でつーっと滑っていく。隼も真似してみるが上手くいかない。鶺鴒は真似するつもりもないのに滑って転んで尾てい骨を強打した。その夜、龍に水を撒かせて子狸や小鬼や大鬼が真似っ子したが、明日の朝には跡形も残らない。
888.
トンネルの壁に落書きがあった。赤いペンキの豪快な筆致で「待ってて」。興味本位で薔薇が触ると、まだ塗り立てだった。トンネル内にきつい匂いが充満して苦情が出たこともあり、すぐに落書きは上から塗り潰された。それから毎日同じ落書きが上書きされた。必ず、塗り立てだった。
889.(13日の金曜日)
薔薇はいつものように夜中のコンビニに出掛けた。前方から猛スピードで自転車を漕ぐ音がする。いつもこの時間帯に夜回りしている巡査さんの悲鳴だ。程なくして巡査がめっちゃ立ち漕ぎで通り過ぎて行った。荷台の白い箱には鉈。薔薇はしばし考えて、いつも通りコンビニに出かけた。
890.
薔薇は灯油ストーブの上で焼き芋を作っていた。アルミホイルに包まれたさつま芋から甘美な香りが漂う。窓ガラスにべったり張り付いて目を血走らせ涎を垂らす河童のことは、完全にシカトしていた。が不意にいなくなり、程なくして虹鱒を山盛り持ってきたので、ソッコー窓を開けた。
883はツインテールの日
889は13日の金曜日
クトゥルフ縛りの方で毎年「勝手にVSシリーズ」としてJさんと神話生物が戦っていたのですが、今回はこっちとすれ違い




