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ツイノベ作品集  作者: 黒目ソイソース
78/137

771~780

771.

夏にだけ咲く、あの花を見せて欲しいのです。庭に現れたのは爛れ落ちた皮膚を引き摺った大鯰。唯でさえ重傷の、湿った柔らかな体は見る間にひび割れて、見たいというのに目も濁り始めている。棚の隅に偶然落ちていた線香花火に鶺鴒が火をつけると、鯰は何枚もの枯葉になって崩れた。


772.

ぞくっとして薔薇は目覚めた。目を開けると前髪に蟷螂がぶら下がっていた。掌ぐらいある、鮮やかな緑色の蟷螂だ。虫を恐れていない薔薇は無造作に鷲掴みにしながら、知る限り最も勇敢な虫だと兄が言っていたのを思いだす。目を凝らすと部屋の隅に青黒い煙が逃げるように消えていった。


773.

テーブルの下に男の子の幽霊が蹲っていた。戦後感のある格好で、表情は暗い。実に幽霊らしい。いや元気な人外との遭遇率の方が高いし…などと隼はつらつら考える。すると鶺鴒が老人を連れて居間に入ってきた。「ああ、見つけた!」「待ってたよ」男の子は花開くように笑って、消えた。


774.

兄弟妹でJホラーを観た。薔薇は目をキラキラさせ、隼は素直に震え上がり、鶺鴒はいつもどおりだった。「皆殺しかー、あ、今度夜中に2やる。撮ろ」「はぁーこんなのに遭遇したらやだな…」「滅多にいないよ、こんな凄いの。それよりも突然つっこんでくる車に轢かれる率の方が高い」


775.

兄がマンホールに向かって喋っている。普通の兄なら病院へ…と考えるが隼の兄は違う。兄に隠れてよく見えないが、灰色の肌の全裸の小さな何かがハイエナの嬌声に似た声で鳴いている。ゆっくり近付くと「反省してるからおうちに入れてあげてよ」とマンホールの中の誰かを宥めていた。


776.

雨上がり、アスファルトの道のあちこちに水たまりができている。凪いだ水面には青い空と白い雲が映り込む。隼はひと際大きな水たまりの前で立ち止まった。ぱりんっと音を立て、水たまりの空と雲が斜めに割れた。ぱりぱりとひび割れが広がる音を背後に隼は全力疾走で帰った。


777.

畳2畳分ぐらいの紙で、鶺鴒が汗だくになってヒコーキを折りあげた。「薔薇にお願いがあるんだけど」ぺたんと座りこむ兄の顔を宙に浮いたタオルが拭いている。「あそこから、空に飛ばして欲しいんだ」指差すのは街で一番古くて大きな桜の木。「全力で?」間。「程々で、だそうです」


778.

「鶺鴒、俺のクラスに人喰いいるの知ってる?」「隼と同じ部活の友達だよな」「そうそう。そいつさ、最近…好きな子ができたんだよ」「…人?」「ひと」「…だいじょうぶ?」「うっとり見惚れながら涎たらしたり…まあ涎は誤魔化せるけど、牙出たり」「牙はなあ」「涎もだめでしょ」


779.

ゴミ捨て場の美少女フィギュアたちが深々と溜息をつく。彼女らの持ち主は先日急死した。家族は大量のフュギュアやDVD、漫画の扱いに困り廃棄することにしたのだ。売ればいいのにーと嘆く彼女たちの横で、大泣きしている男の霊のことを伝えるべきか、鶺鴒は悩んでいる。


780.

母が昔作った、立派過ぎる庭の池。鶺鴒と薔薇が並んで見守っているのは、蜻蛉の羽化だ。「俺、昆虫の中で蜻蛉が一番好きなんだよな」毎年そう言って鶺鴒は微笑む。翅を乾かしていた塩辛蜻蛉に、突如現れた銀蜻蜓が体当たりして水に叩き落とした。毎年のことだ。

778話は、クトゥルフ縛りの337話と繋がっています。(04/7/7時点では未投稿です)

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