751~760
751.
放置自転車や不法投棄のゴミなどが燃やされる事件が頻発していた。なんとなく街がピリピリする夜、外から笛の音が聞こえて、隼は窓から覗いた。黒ずくめの人物が道路に立っている。笛の音の主のようだ。ふわりと火の玉が現れ、人影は火の玉を口に放り込んだ。その夜から放火は止んだ。
752.
久し振りに帰国した母と外食した。母はそのまま空港へ、兄弟妹はタクシーで家路についた。町内の祭や運動会が行われる大きなスポーツ公園のそばを通りかかる。真っ暗な公園内にひとが、たくさんした。走りまわり、飛び跳ねている。「墓場で運動会はやりづらいからじゃない?」
753.
上から何か降ってきた。鶺鴒は直撃、隼は回避、薔薇は見もせずキャッチした。オレンジ、メロン、バナナだった。薔薇が慌てて鶺鴒の腕を引っ張ると、さっきまで兄のいた場所にドリアンが降ってきた。色とりどりの果物が降るが、空は雲ひとつない青。「食べていいと思う?」
754.
「私臭いですよね?」駅前で道行く人を捕まえては問いかける若い女。早速隼も捕まったが、みえる人である隼にとっては臭いどころではなかった。女はすぐに次の人に問う。「どこに行ったんだか」当然ながら鶺鴒にも見えているらしい。女には何十人もの腐乱死体がぶら下がっていた。
755.「毎月14日はツイノベの日(一日遅れ)お題:珈琲」
良い匂いがする。薔薇が真剣な声音でつぶやいた。隼も意識してみると確かに珈琲の良い馨りがする。「でもマンデリンじゃない。グァテマラだ」警戒する獣のように不審そうにしていたが急に、ああ、と頷いてグァテマラで珈琲を淹れる。それを仏壇に供えると、良い馨りがふうっと消えた。
756.
窓の外が海だった。明らかに夢だ。けれどいつもの冷たくて重くて暗い海じゃない。二段ベッドの上からぶらんと足が垂れた。ああ兄がいるから今夜の夢は怖くないのだ。隼は納得して毛布を被って目を閉じた。「この状況でよく寝れるなあ」意識が消える瞬間兄の声が聞こえた気がした。
757.
薔薇が家に帰ると、居間に自分がいた。兄の鶺鴒もいて、いっしょにお菓子を食べていた。いろんな意味で殺気立った薔薇は薔薇に飛びかかって関節を極めて組み伏せた。鶺鴒はにこにこと「入れ替わる相手は慎重に選ばないとね」分かってて家に上げるこの兄を、永遠に理解できないだろう。
758.
少し肌寒い程度だった空気が変わった。ぞくりとする冷気。夕立が来ると直感し薔薇は走りだした。けれどみるみる世界が暗くなる。雨音、続いて水飛沫。前傾姿勢で速度を上げた薔薇はなんとか玄関先に飛び込んだ。直後に雨が追いつき、「足はやーい!」と子どもの声が響き渡った。
759.
暇なんだろうなあ、と思いながら鶺鴒はその光景を眺めている。ソファで殆ど眠っている隼が一生懸命手を伸ばす。指が触れるあたりに携帯電話。指の腹が滑って、僅かに隼の方へ近付く。けれどツツッと元の位置に戻る。髪の長い、血塗れの女が楽しそうに携帯電話を自分の方へ引っ張るからだ。
760.
薔薇が湯船に浸かっていると、腕に激痛。瞬時にお湯が真っ赤になる。ぎょっとして立ち上がると、掌サイズの鮫が腕に喰らいついていた。掴み潰して赤い湯船に叩きつけると、次々三角の鰭が現れたので、薔薇は栓を抜いた。湯船には何も残らず、だが腕に小さな牙が二、三喰い込んでいた。




