631~640
631.
暑い。薔薇は公園のベンチに座ってコンビニで買ったアイスバーを食べていた。あちこちで似たような光景が見られ、元気の良い人は噴水に手足を浸して遊んでいる。ひとりの老婆が鯉のいる池に壺を傾け餌をやっていた。壺が骨壷にしか見えないのは陽気と煙霧のせいにすることにした。
632.
いつも塀の上で喋っている二匹の猫。「三倍返しなんだそうだ」「三倍返しか…」「量の上でも質の上でも三倍でなければダメらしい」「恐ろしいな」「恐ろしい」「でなくば憎しみは三倍では済まないのだろう」「恐ろしいな」「恐ろしい」双子は約一カ月前のことを思い出し青褪めた。
633.
ヒーロー系の特撮だかアニメだかの主題歌が聞こえる。幼い頃大好きだった心躍る音色は、今でも気持ちが明るくなる強い力が満ちているようだ。どこで誰が奏でているのだろうと隼は音の元を探す。住宅街だから家の中で子どもが奏でているのか。しばらくしてそれが頭の真上だと気付いた。
634.
自販機に併設されたごみ箱は、空き缶のみならず栄養ドリンクのビンや生活ごみが突っ込まれ溢れ返っていた。薔薇がそっと覗くとごみ箱の底には穴が空き汚水が滴っている。名状しがたい色の液体を血管の如く脈打つ赤黒い根から吸うソレは渇いた血の色の花を咲かせていた。
635.
宇宙の果てを回遊する氷の塊が青白い焔の尾を引いて地球を横切っていく。その姿から日本では箒星と呼ばれている。「初めて聞いた時、星が掃除されるのかと思った」メルヘンな兄に弟妹は笑いだす。屋根の上では子狸と子狐が良かったねえと胸を撫で下ろしていた。
636.
洗ったばかりの服に赤黒い染みがついていた。異様に生臭い匂いで、一番似ているとすると魚の内臓に近い。その一着だけで他の服にはついていない。なんとなく嫌な感じがしたので、丁度ゴミの日なのを幸いに捨てることにした。丸めてゴミ袋に詰め、口を縛ると、中でバシッと動いた。
637.
静電気でバチっとなる感じに、熱が出る前の寒気を足したような感覚。それは邪悪といっていいモノに接近した時起こる。隼はよく事故が多発する場所などでそれを感じるが今いるのは住宅街だ。すぐそばの表札を見て息をのむ。黒髪で括られた万札と人の指が一本、釘で縫い止められていた。
638.
とても綺麗な着物だった。色鮮やかだが目に優しい桜色。身につけている人が動くと光の反射で花びらが舞い落ちるようにキラキラ光る。和傘を差していて鶺鴒にその人の顔は見えない。でもきっと泣いているのだ。早咲きの桜が教会から出てきた幸せそうな男女を風もないのに避けて散る。
639.
最近暖かい故だろう、庭のつくしは日に日に数を増やしている。鶺鴒は古式ゆかしく「どこで継いだでしょう?」などと遊んでいるが、薔薇は「喰えるんだよね」と舌舐めずりをしている。草むらに隠れた小さなモノどもが「妹御が喰おうするものは皆美味い」と収穫の算段を始めている。
640.
妹の悲鳴が轟いた。慌てて駆け付けると薔薇は掃除機の筒を外してぶんぶんフルスイングして「間違って吸っちゃった!死んじゃう!」が中身は出てこない。「怖がって中で踏ん張ってるんだよ」鶺鴒の冷静な言葉に筒を覗くと小さなおっさんが両手足をがっつり突っ張って耐えていた。




