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ツイノベ作品集  作者: 黒目ソイソース
59/137

581~590

581.

灯油ストーブの様子がおかしい。さっき見た時は中央の円筒が赤々と燃えていたのに今は灰色だ。給油メーターを見るがまだ満タンで、一応持ち上げてみたがやはり重い。消火を確認してから再び着火。隼が火を観察していると、肩越しにそっと身を乗り出した何者かがフッと火を吹き消した。


582.

カットシーンを見直そう、とこんな時間なのに父と弟妹はDVDを見始めた。鶺鴒は未明に火球が目撃されたというニュースを思いだし外へ出た。白い息を吐きながら見上げていると、塀の上に二匹の野良猫がいた。「昨日の夜のあれさオートボットじゃね?」「ディセプティコンがいいなあ」


583.

鶺鴒は寒がりだ。今日も炬燵に首まで入り込んでいる。窮屈ではないのだろうか。モゾモゾと出てきた兄と入れ替わりに薔薇は炬燵布団をはぐった。一瞬暖かな風が頬を撫で、白い花弁が一枚ひらりと手の甲に舞い落ちた。慌てて覗くが、中は毛足が長めのカーペットしかなかった。


584.

スーパーで必要物品を買いこんだら、思いのほか量が多く両手が塞がってしまった。ポケットの中で携帯電話が震動し始めた。取り出し損ねた薔薇の手から落ちていく携帯を、横にいた主婦がひょいと手を伸ばして空中で受け止めてくれた。彼女も両手にパンパンのスーパーの袋を下げていた。


585.

先週降った雪も殆ど溶けてなくなった。そこに今宵再びの爆弾低気圧という予報。寒さに弱い鶺鴒は通学時間を直撃するという事実に早絶望している。窓の外で土下座している冬将軍も見えていない。「来なけりゃ降らないのに…」もっともな隼のツッコミを伝えることも勿論できない。


586.

双子と妹は、愛猫がついに成し遂げた偉業に感極まっていた。しかし捕われた生き物をこのまま死なせるのもどうかと思うので、抵抗覚悟で逃がしてやらねばならない。防人家のハンター、盲目の白猫・君影の鋭い牙と爪に捉えられ、ビチビチ波打つヒレ的なモノを持つ白いUMAを。


587.

鶺鴒は凝ると本格的になりすぎる。今日も完璧な手順で紅茶を淹れ、りんごをたっぷり使ったアップルパイを作った。良い香りをさせる優雅なおやつをお盆に乗せて歩き出した鶺鴒の足元を緑色の小さな影がサッと横切る。転ぶ鶺鴒、手から吹っ飛ぶ盆。床にカップと皿だけが飛び散った。


588.

公園のベンチにビスクドールが腰かけていた。金色の巻き毛に海色の瞳、真っ赤なドレス。人形は陶器の両手を胸の前で合わせ、まるで悴んだ指を温めているかに見える。なんとなく薔薇は人形の両手の間に使い捨てカイロを挟んだ。翌日滑り台に座った人形はしっかりとカイロを握っていた。


589.

真っ赤なマフラーを巻いた女が向こうからくる。地面に引きずりそうなくらい垂れていて、ふんづけて転ぶんじゃと見ていた薔薇の目の前で、本当にコントのように転んだ。その拍子に頭が取れてころんと転がってきて「びっくりした?」と嬉しそうに聞いてきた。


590.

灯油ストーブの前に足が二本並んでいる。痣だらけで細くて汚れた足だ。爪が剥がれて血がにじむ指もある。隼と薔薇は見えていないようなので鶺鴒は放っておくことにした。隼が気付かないものは悪いものではない。最近足が少しふっくらしてきて、愛猫がごろごろと体を摺り寄せている。

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