531~540
531.
友達と映画を見に行くことにした。何年も前に大ヒットしたアニメのリメイク。正確には最早リメイクとはいえないとか、詳しい友は熱く語る。古いTV版と劇場版、漫画版も貸して貰って読んだ鶺鴒も結構好きな部類に入るだろう。「次で完結か。やっと成仏できる」友達はとても幸せそうだ。
532.
遮断機のある踏切に侵入し負傷或いは死亡する事件が頻発している。不思議なことに全員がある学校の同じクラスの生徒らしい。噂では最初に踏切で亡くなった生徒はいじめにあっていたという。今朝クラス担任が轢死した。居合わせた隼は見た。血みどろの少年が笑顔で教師の背を押すのを。
533.
寒いなあとポケットに手を入れ家路を急ぐ薔薇の背に「待てよ!」と怒りに震える声がかかった。目に涙を浮かべて立つ黒ずくめの少年。「置いてくなよ!」一瞬戸惑い、自分の指先の冷たさではっとする。既に少年の姿は消えていたが、薔薇は手袋を忘れた喫茶店に向かって走りだした。
534.
隼は廊下は寒いだろうなと肩を竦めて身を丸めながらドアノブを捻る。だが頬に当たったのは熱い風。いや、どちらかというと生臭くて生温かい、吐息のような―伏せていた顔を上げると、そこはいつもの廊下で冷気が押し寄せる。首を傾げながら踏み出すとねばつく透明な液体をふんづけた。
535.
薔薇は落ちていた小石を蹴飛ばしながら歩いていた。順調に蹴り続けていたがふとした拍子に側溝に落ちてしまった。すると「今あなたが落としたのは金の小石ですか?銀の小石ですか?」と訊かれた。「…ふつーの小石です」「正直ですね。そのままでいてね」覗いたが小石も何もなかった。
536.
ふと鶺鴒は秋の虫の鳴き声が聞こえなくなったな、と気付いた。そもそも今年秋はあっただろうか。そんなことを思いつつ歩いていると白い蟷螂を見つけた。蟷螂は枝に産みつけた卵鞘に熱心に手を合わせている。「俺が分からなかっただけか」白い吐息と共に白い蟷螂がふうっと消えていく。
537.
スーツ姿の狐がガックリと肩を落として歩いていた。薔薇の目に見えているのだから、間違いなく変化が解けている。ちょっとドキドキしながら指摘すると、気付かなかった…と変化しなおす。事情を聞くと子供のクリスマスプレゼントが手に入るまで帰ってくるなと奥さんに言われたそうだ。
538.
冷たい。目を開くと世界は真っ黒だった。肌に触れるのは空気ではなく刺すような冷水。隼は、これが時々見る海の夢だと気づく。真っ黒なのは夜だからだ。昼でも暗い海底は完全な黒。叫び声が聞こえる。鯨の歌に似た大勢の人の声。目を覚ました時、幸いにも世界は終わっていなかった。
539.
目はすっかり覚めている。でも布団から出たくない。ちょっと出した足先は極寒の空気に迎えられた。絶対嫌だ。羽根布団に守られた暖かい所から出たくない。薔薇は顔を冷気から守るため体を丸めて布団の中に潜り込んだ。くしゅん。すぐさまベッドをひっくり返すと出刃包丁が落ちていた。
540.
異様な光景に薔薇は立ち尽くす。スチール製のごみ集積庫の中に大量の鳥がいる。ハトだ。真っ黒なドバト。血のような目がきょときょと動き、首をひょくひょく上下し、金網の向こうでごみを漁っている。電柱の上で鴉が鋭く鳴いた。途端にハトどもは黒い羽根になってぱっと消え失せた。




