501~510
501.
夜の街がオレンジ色と美味しそうなお菓子の匂いに彩られている。人と人ならざるモノドモが入り乱れてはしゃいでる。どれが人でどれが人ではないのか、鶺鴒ですらも見分けがつかない。見分ける意味もない。「トリックオアトリート!」陽気に差し出される掌に笑ってお菓子を乗せればいい。
502.
今のハブラシは使い始めて二ヶ月ぐらいになるから買い換えようと薔薇はスーパーの日用品売場へ向かう。しかしハブラシは完売していた。「昨日の深夜凄く気合い入った仮装の人たちが買い占めてったよ。でもいつのまにかレジに葉っぱを入れられてねえ」棚卸しながら店長は呑気に語った。
503.
ふわりと柔らかなものが頬を掠めた。反射的に掴むときれいな白い羽根だった。見上げてみるが雨上がりの灰色の空が広がるだけで鳥の姿はない。ふとまわりと見ると道行く人の手には白い羽根があり、みんな空を探している。「あっ」誰かの声に振り向けば雲が途切れて大きな虹が出ていた。
504.
料理をしている光景は良い。ザクザクと野菜を刻む音、炒めたり煮詰めたりする音は耳に心地よい。完成に近付くにつれて薫る匂いは食欲をそそる。なにより手際の良い姿は料理がしたくなってしまう。薔薇が料理する様を眺めていた鬼が鉈を片手に去っていったのはきっとそういうことだ。
505.
「だめ」「網から助けてくれたお礼にって」「だめです」珍しく兄と妹が言い争っていた。鶺鴒が厳しい口調になるのも稀だが、薔薇が負けているのもレアだ。妹の手には大きな葉に包まれた魚肉とおぼしきモノ。「火を通せば不老不死成分壊れるんじゃない?」「ビタミンCじゃねえよ」
506.
カマキリの死体が動いている。いや動いているから死体じゃないのか。だが大きな胴体は潰れて内臓が零れている。少し考えてからハリガネムシという寄生虫を思いだした。きっとそれが出てこようとしているのだ。納得した隼が立ち去った後も、カマキリの死体はずうっと動き続けていた。
507.(20121106)
街が白くけぶっている。朝方の薄い霧なら何度かあるが、夜がここまで白に包まれたのを見るの初めてだ。隼と薔薇は楽しそうに古いCDラジカセのスイッチを入れてチューニングしている。ゲーマーな弟妹が見ていないうちにと鶺鴒が手を振る。霧の中を鋭角な影が通り過ぎていった。
508.
防人家で薔薇の次に強い生き物である白猫の君影が熱心になにかを弄んでいた。今の時期虫は殆どいない。暖かさを求めて迷い込むヤモリを襲っていたら助けてやろうと隼は愛猫の手元を覗き込んだ。長さは15cmほどでいくつもの吸盤がついた青紫色の物体は未だクネクネと動いていた。
509.
寒いからといって窓を閉めっぱなしにしておくのは良くない。起床した薔薇は雨戸を開け、居間の窓を大きく開く。途端に放射冷却でギンギンに冷えた一陣の風が部屋に飛び込んできた。「あー寒い寒い!」吹きつけた風が確かにそう言った。
510.
ピアノ線のような細い光が庭の池に降ってくる。どこかとても高い処から降る光はくるくるくるくると寄りあわされ、水面に届く頃には裁縫糸ぐらいになった。凪いだ水面に先端が没した途端、池の水が深紅に染まり光の糸は切れた。「諦めないんだね」眺めていた鶺鴒が疲れたように囁いた。




