191~200
191.
サンタって不法侵入だよな、と隼が呟いた。TV画面からはクリスマスの輝きが溢れている。人間じゃないから不法じゃないんじゃないかと思うけど夜中に見かけたら物とか投げつけるなあ、と薔薇も同意する。現代っ子は怖い、と鶺鴒はホットミルクの入っていたマグカップを洗い始めた。
192.
薔薇がPC画面を食い入るように覗き込んでいる。記憶に刻みつけるようにじっと見つめると、外に走り出て庭にしゃがむ。「何やってんの?」窓から問うと、妹は顔を上げて地面を指差す。そこにはポツポツと何かの跡がある。PCを見ると検索欄に「トナカイ 足跡」と入力されていた。
193.
朝起きて、窓を開けると、庭にでかい石が落ちていた。大人2,3人が腕を広げて囲めるくらいの巨大さだ。とりあえずダッシュで階下へ降り、玄関の扉を開けて庭へ駆けこむとズシンっと地鳴りがしてたたらを踏んだ。後から来た兄と庭を覗くと、土の抉れた跡しか残っていなかった。
194.
あけましておめでとうございますおはよー寒い。新年の朝の挨拶を終えて双子と妹は炬燵に潜り込む。暫くして部屋が温まりお雑煮食べたいなどと言い始めて、ふと炬燵の上の物に気付く。ぬめるように虹色に光る楕円形の薄い物がある。薔薇の馬鹿力でも曲らない。「お年玉のつもり、かな」
195.
狐が一匹。狐が二匹。狐が三匹。狐が四匹。狐が五匹。狐が六匹。狐が七匹。狐が八匹。狐が九匹。狐が十匹。狐がいっぱい。狐。狐。もっと狐。コンコン。ケーン。もふもふ。朝、洗面所で隼が顔を洗っていると、鶺鴒が寝ぼけた顔で訊いてきた。「干支にキツネいるっけ?」「ねえよ」
196.
初詣に出かけた。前は着物の人とか多かったよななどと隼が年寄りのように言う。参拝後、お守りを買いお御籤をひき甘酒を飲む。薔薇は屋台を次々に回って食べまくる。たこ焼きを頬張る弟妹を眺めながら鶺鴒は呟く。「今年はどんな年になるんだろう」「成した分の事が成るといいですね」
197.
手首が落ちていた。正確には「立っていた」。手で人間を模して遊んでいるように二本の指で道路に立っていた。鶺鴒が眺めていると、角から出て左右を見るように体を傾けるとスタスタと歩き出した。道を渡り、電柱に歩み寄る。徐にコンクリに親指をかけて「扉」を開け中に入っていった。
198.
帰り道、薔薇は蒼く冷たい夜に沈みつつある公園を突っ切る途中、鶺鴒と小さな男の子がいるのに気付く。砂場にしゃがんでなにかを探しているようだ。厭な予感がするも置き去りに出来ずにいると兄が顔をあげた。「はい、見つけた」「ちっ」男の子は悔しそうに夜の中に駆け込んでいった。
199.
雨が雪に変わりだした。純白の呼気を透過する雪片はなにかに触れればすぐに消える。鶺鴒はおもむろに毛糸の手袋に包まれた手を差しだして雪を受ける。モスグリーンの手袋に落ちては消え落ちては消える。暫くそうしていると、手に落ちた雪片がひとつ足を生やして掌から飛び降りた。
200.
隼は器用だよな。突然鶺鴒が差しだしたのはけん玉。どこから持ってきたのか相当年季の入っている。とにかくけん玉をしてみてといわれ、生まれて初めて遊んでみる。段々コツを掴んできて柄の皿でも受けられるようになった。どうよ、と威張ると兄は「良かった、泣きやんだ」と微笑んだ。




